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地角町図書館の企画展示  作者: 蜂須賀漆


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第15話

勢い良く振り向いた2人に、ミディアム茶髪は子供達を避けながらへらへらと近づいてきた。

小夜の表情を見る限り、接近には気づかなかったらしい。

ここはもう地下7階である。

ここまで降りてきているということは、6階までを単独で突破してきたということだ。

それに、彼女は他者と出会わないように非常に気を付けていると言った、その警戒を破って接触してきたとなると、かなりできる方ではないのか。

警戒していると、奏太が傍にいることに気がついた茶髪は、2人よりも驚きの度合い高く、「あれ、1人じゃないんだ!?」と大声を上げた。


「何で2人行動してるの、めっずらしー。いやこのゲーム基本単独行動だけどさあ、小夜ちゃんいつも単独じゃん。何、彼氏?」

「あの、どちら様ですか」

「嘘ぉ、俺何回も出てるから顔くらいは見たことあるっしょ?」

「いいえ」


あまりの気安さに顔見知りくらいではあるのかと思っていたが、小夜は初見らしい。

不審顔の2人を交互に見ながら、茶髪は


「もしかして警戒されてる?何もしないってば、俺永久追放になりたくねーし」


と顔の横まで上げた手をひらひらと降った。


「……ここで何されてたんですか」

「何って、そりゃ攻略に決まってんじゃん。この階どう攻略したもんかなーって困ってたらちょうど良いところに小夜ちゃんが来たって感じ」


逆じゃないのか、と奏太は勘ぐった。

困っていたところに小夜が偶然来たのではなく、そもそも待っていたのではないのか。

明らかに意図的にエンカウントしたはずで、小夜もそう考えているとは思うが、災いの元とならないよう、敢えて口には出さないようだった。

茶髪は歓迎されていない空気を一切読まずに軽く言った。


「まあいいや。ちゃっちゃと先に進もうぜー、小夜ちゃんナビよろしくぅ」

「……着いてくるんですか?」


あからさまに嫌そうになった小夜に、茶髪は相変わらず軽い。


「いいじゃん、どうせ進む方向同じっしょ?それにこいつも着いて来させてじゃん、1人くらい増えたっていいっしょ」


こいつ、と奏太を差した指を掴んで捻り上げるイメージを、奏太は脳内で作ったが、小夜は黙ってしまった。

初参加だから、腕を痛めているから、奏太と行動している理由はちゃんとあったが、それをもって茶髪の同行を否定する理屈にできないと思ったのだろう。

単独行動しているならば簡単に断れるところを、奏太がいるせいで、茶髪の追加を飲まなければならない。

嫌だから駄目と言っても構わないだろうし、断るためにここで解散と奏太ごと切っても問題ないところを、小夜はそうしないようだ。

あるいは、そうできないのかもしれない。

何も分からないまま企画展示に飛び込み、警告されてもリタイアしない、今日初めて会ったド素人を、見捨てずに同行しているのだ、よく考えるとお人好しに過ぎる。

奏太はそれを薄々分かっていながら、便乗して良いところまで行きたくて言葉に甘えている。

この茶髪と何も変わらない、しかも小夜の足手まといになっている、と罪悪感を覚えながら、奏太も沈黙せざるを得なかった。


「……この階だけなら」


本当に渋々といった感じで承諾を口にした小夜に、何か企んでいそうな茶髪は、天然なのかわざとなのか、空気を読まない特技を振りかざし、


「三人寄れば文殊の知恵って言うし。よっろしくー」


とケラケラと笑った。


*


頼まれたからではないだろうが、小夜は先頭に立って、走り回っている子供達の間を縫って進んでいく。

足取りに迷いはないようだったが、導線の乱れ以上に奇妙にくねくねしている。

どういう意図なのかは、チャラ茶髪がいるので聞けず、奏太はフラストレーションを抱えながら黙々と歩く。

撒くつもりなのか、とも思ったが、棚が低すぎて隠れるところもないこの空間ではそれはできない。

目的はどこなのだろうと思い始めた頃、突然、近くで集まっていた十数人の子供のうち1人が声をかけてきた。


「ねえねえ、この本、読んで!」


見た目は女児の子が差し出した本は、『十五少年漂流記』というタイトルのハードカバーで、茶髪が「げっ」という潰れた声を上げた。

他方、小夜は本を受け取り、「いいよ、ここでいいかな?」と本棚に背を預けて座る。


「いいよー」

「むずかしくて読めないのー」

「かんじ読めないー」


その周りを子供達が囲んで座り、読み聞かせ会があるというので、近くからもわらわらと集まって来る。


「小夜ちゃーん、それ読む作業って必要なの」


茶々を綺麗に無視して小夜は、本を開いて「十五少年漂流記 ジュール・ベルヌ作」と朗読を始めた。

茶髪はうんざりしたように言った。


「あーあ、読むのかよ、あれ300ページくらいあるのにさあ」

「300!?」


タイトルも作者名も初耳で、表紙・裏表紙ともに総絵柄になっていることもあり、シリーズもののライトノベルの類いを想像していた奏太は、素っ頓狂な声を上げた。

全て音読した場合、どのくらい時間がかかるものなのかと奏太が唖然としていると、茶髪が「まあ攻略に必要なんだろうけどさー、何時間か暇だぞーこれ」と少し離れた本棚の上に腰掛けた。

茶髪はあの本の内容を知っているらしい。

小脇に挟んでいる本の表紙に、『積分学概論』というタイトルがちらっと見えた。

積分って数学の何かだったっけ、と難しい響きを前に奏太が、自分の場違い感を改めて噛んでいると、


「あー乗っちゃだめー」

「座っちゃダメなんだよー」


子供達に咎められた茶髪は、それには答えずに冷たくぎっと睨み付けた上で、本棚からは素直に降りた。

降りたが、口元を歪めて


「こいつらさあ、何だか分かる?」


と聞いてきた。

奏太の脳内に、トラップか演出、という二択が並ぶ。


「……トラップ、じゃないんですか」

「そーそー。だからムカついても下手に蹴ったりとかしない方がいーよ」


正解を選べたことに胸を撫で下ろしながら、蹴りたいと思ったのは今のアンタだろ、と内心で扱き下ろす。

茶髪は、パンツのポケットを探る仕草をしたが、途中で何もないことに気が付いたらしく、スマホないとうぜーなーと心からの嘆きを吐き出し、三白眼気味の目を奏太の上に動かした。

たじろいだ奏太相手に暇を潰すことにしたらしい茶髪は、


「お前さあ、何で小夜ちゃんと行動してんの?」


と絡み始めた。


「いや、成り行きで……腕怪我して、助けてもらった流れで」

「ケガぁ?」


茶髪は疑わしそうに、唐突に奏太の右腕を張った。


「いっ、てぇ……!」


再度激痛が全身を駆け巡り、思わず辞書を取り落としてその場に蹲る奏太に、


「あっ何だマジだったの、ごっめーん、嘘吐いてんのかと思ったわ。何、トラップにでもやられた?」


そんなに痛いならリタイアしときゃいいのに、と意に介さないトーンの茶髪は奏太の辞書を拾い上げ、「ていうか何これお前、英和辞典?何でこんなモン持って来てんだよ」と勝手にぺらぺら捲っている。

その辞書を奏太に突き出しながら、茶髪は再びにやにやと言った。


「なるほどねー、何でかなーと思ったらそういうことか、媚び売ったんだ、いーじゃんいーじゃん。俺もさあ、小夜ちゃんに着いていったら楽に攻略できるんじゃね、って思ってずっと待ってたんだよね、猛者だし」


やっぱり待ち伏せか、と奏太は涙目で辞書をひったくる。

一緒にしてもらいたくないが、既に便乗している奏太に言い返す権利はない。

それよりも、猛者、という語尾に引っかかりを感じた。

ここまで同行して来て、確かに小夜は行動にほぼ迷いがないし、自分の本の"使い方"にも慣れていて、参加歴が何度かある経験者だという想像はできたが、外見は地味、性格も尖っていたりしていないのもあって、猛者というイメージがどうにも合わない。

戸惑う奏太の無知を察したらしい茶髪は、鼻で笑う。


「お前さあ、あの女が誰かも知らねーの?モグリ?」


子供達相手に本を読み続けている小夜へ顎をしゃくりながら、茶髪は、最終攻略常連の猛者だぜあの女、と付け加えた。

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