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誉れなき帰還

 目覚めは最悪だった。

 そりゃそうだ。

 今日から3か月ぶりに学園生活へ戻るのだから。

 守護騎士(ガーディアン)を養成する学校

「エクレール学園」

 守護騎士とは文字通り国を守護するために存在する。言ってしまえば武力行使で事態を鎮圧する警察のようなもの。

 それを育成するための教育機関がエクレール学園である。

 エクレール学園は、エクレール共和国唯一の守護騎士養成学校であり、他国からも一目おかれるほどの実力校だ。

 その場所に彼、天月勇也(あまつきゆうや)は2年生として在籍している。

 1年生の間にトップの成績を修めたことにより、とある依頼を持ち込まれ、3か月の間学園から離れていた。

(戻ったところでどうすんだよ)

 勇也は学園へ戻ることに抵抗、いや拒絶に近いものがあった。

 その理由は3か月間あった依頼のことに起因している。

 彼は依頼を失敗したのだ。

「お前にはまだ、やってもらうことがある。辛いのは重々承知しているが、戻れ」

 絶望し、全てを投げ出して去ろうとしたが、エクレール学園の理事長がそれを許さず、強制的に復学させられることになった。

「あの腹黒女、何考えてやがる」

 毒づきながらも勇也は制服に着替える。

 理事長には逆らえない。何故なら、辺境の田舎者である自分をこの学園へと入学できるよう取り計らってくれたのは彼女だからだ。

 命令口調ではありつつ、どこか懇願のこもった言い方に、断るという選択肢を選ぶことはできなかった。

 そんなことを思いだすうち、失敗の記憶がよみがえる。

「ぐっ……」

 頭痛に襲われ、額に手を当てよろめく体を壁にもたれかけさせる。

 それでも尚消えない光景。

 ひざまづきながら腕に抱える相手の手を握り、必死に叫ぶ自分。

 むなしく垂れ下がっていく相手の腕……

「くそっ!」

 ダンッと拳を壁にぶつけた。

 そこでようやく光景がフェードアウトする。

 ずっと呼吸を止めていたかのような深い息を吐き、ベッドにある鞄を乱暴に拾い上げながら部屋の扉を開き、これまた乱暴に閉めた。


 エクレール学園は全寮制である。

 つまりは部屋から出れば学園の生徒たちがちらほらと目に入る。

 どうやら勇也の帰還は噂になっていたらしく、それらは勇也の姿を見た瞬間、嘲りやあわれみの目を向けてくる。

「あいつだろ?ほら、例の……」

 あからさまにヒソヒソとやりとりする生徒を睨むと、そそくさ逃げていった。

 こうなることはわかっていた。

 1年生のときにはもてはやされていたのに、環境が180度変わってしまった。

 別にそこはなんとも思っていない。

 ここに戻ってきた意味が、戻された理由が不明瞭なことが何よりも勇也を苦しめている。

「俺の部隊は、と」

 エクレール学園に教室やクラスというものはない。

 クラスではなく部隊というものに振り分けられ、教室ではなく、武具を使った訓練などが行える部隊用のスペースが設けられている。

 ちなみに部隊と言っても、チームワークなどを求めたりは一切なく、結局は単純なクラス分けと変わらない。

 協力しなければならない場面もあるにはあるが、メインは個々の実力向上だ。

 また、1年ごとに部隊は再編成されるのだが、2年生に進級した際、すぐに依頼を言い渡されたため、今の部隊に出向くのは初めてであり、よって今の部隊の生徒と顔を合わせるのも今日が初だ。

 寮棟から出てそれぞれの部隊用の建物を巡りながら自身の所属部隊の建物を探していると、

「あーまつーきくーん!!」

 ものすごい地響きを立てながら駆けてきて勇也の背中に飛び付いた生徒がひとり。

 ピンクの髪をおさげにしたちんまい女の子。

「エリン!?どうして……」

 勇也は驚いた表情で肩越しに彼女を見やる。

「どうしてって、久しぶりに会えたんだからあたりまえじゃん!去年は同じ部隊だったんだし」

 エリン・クランツ。1年生の間共に切磋琢磨した仲間のひとり。性格は人懐っこく、気に入った相手にはすぐひっつきたがる習性を持つ。

 見た目のかわいらしさもあってか、他の男子生徒からの人気もかなりある。

「そういうことじゃない。俺の話はもう知ってるんだろ?関わるとロクなことないぞ」

「悪いことしたわけじゃないんだし、いいじゃん」

「犯罪者と大して変わらないって。なにせ俺はマリアンひ──」

「だーかーらー!」

 勇也の言葉を遮りエリンは駄々をこねるように続ける。

「どうしようもできないことだってあるでしょ!!天月くんほどの人が失敗したんだから他の人だってどうにもならなかったんだよ……」

 泣きそうになりながら訴える様を見せられ、言葉につまる勇也。

「買い被りすぎだ。俺より優秀なやつなんていくらでもいる。結局守れなかったことには変わりないんだし。でも、ありがとう」

 エリンの言葉を素直に受け止める余裕はまだない。だが、それでも本心から言ってくれていることは嬉しかった。

「こんなにすぐ戻って大丈夫なの?もう少しお休みしてても良かったんじゃ……」

「理事長の命令だから。何か理由はありそうだったし」

 一応フォローはいれたつもりだが、それでもエリンは怒りだした。

「理由があるにしてもちょっとひどすぎだよ!!天月くんのこともっと考えてほしい!」

「俺のために怒ってくれる仲間がいるだけで十分だよ」

 そう言って、ついちょうど良い位置にエリンの頭があったので、撫でてしまう。

「えへへ~♪」

 エリンの顔が一気にゆるむ。

 このコロコロ変わる表情には1年生のときにもかなり癒してもらった。

 その度周りからは殺意の目を向けられてはいたが。

 そんな連中をエリンがギタギタにし、

「わたしより弱い人はやだもん!」

 と言い放っていた。

 見た目だけで判断しちゃいけないのが世の常である。

「っと、そろそろ行かないと」

「あ、わたしもだ。良かったらお昼一緒に食べようよ!天月くんてどこの部隊?」

「俺は──」

 言いかけたところで呼びだしの放送がかかった。

「B4部隊エリン・クランツ。至急司令官室まで来るように。繰り返す─」

 司令官室というのはいわゆる職員室のことだ。

「ぴゃ!わたしだ。なんにもしてないよ?なんでなんで?とりあえず行ってくるー!」

「あ、おい……。俺の部隊聞かずに行きやがった」

 慌てて駆けていくエリンの背中を右手を伸ばし眺めながら勇也はあきれつつ言った。

「まああいつがB4部隊ってわかったから、俺が出向けばいいか」

 あまり他人と顔を合わせたくはないが、同じ部隊だったよしみで少しは目をつぶることにする。

 変わらず接してくれたことにも感謝しているからな。

 たどり着いた建物には、「K2部隊」の看板が掲げられている。

 この学園の部隊は本来A1からC4部隊までしかない。

 Cが1年生、Bが2年生、Aが3年生でそれぞれ4部隊ずつ。

 K2部隊は学園の中でもトップクラスの実力を持つ2年生、3年生を集めた特別部隊。

 他の部隊では絶対にないが、K2部隊では実際に護衛や警備の任務、事件発生時に出動要請を受けたりする。

 3か月前に学生の勇也が依頼を受けることになったのもそのためだ。

 K2の由来は山にある。世界2番目の高さではあるが、学園に合ったナンバリングに近い名称であり、世界一の山よりも登頂が困難と言われ、非情の山、魔の山などとも呼ばれており、選ばれし者たちの名にふさわしいということでこの部隊名となった。

 初対面である部隊の連中にどんな反応をむけられるのだろうと陰鬱な気持ちになりながら仰々しい扉を開けて中に入る。

「誰もいない……?」

 が、そこはもぬけの殻。時間的にもう揃っていてもおかしくはないし、任務を受けていたとしても全員というわけではあるまい。

 困惑しながら辺りを見回していると、扉を開く音が聞こえ、振り返る。

「おう、来ていたか」

「理事長?!」

 入ってきたのは長い黒髪を団子にまとめ、黒スーツをバシッと決めたやや目付きの悪い女性、理事長グレイス・オルサージュその人だった。

(性格はともかく、この人ほんとに年齢不詳なレベルで綺麗だよなあ)

「なにか言ったか?」

「なにも……」

 片眉をつりあげこちらの心を読んだかのように言われ、勇也は心臓が縮み上がりそうになる。

(やっぱり苦手だ)

「あ?」

 またもや心を読んだかのような反応に、(もうなにも考えまい)と話題をそらす。

「というか他の仲間はどこにいるんです?そもそもどうして理事長がここへ?」

「まあ待て。お、来たな」

 グレイスの返答が終わるタイミングでまたもや扉が開いた。

「お、おじゃましまーす」

 おそるおそる入ってきたのは、エリンだった。

 目が合った瞬間、

「え!?天月くんだ!天月くんやっぱりここの部隊だったんだあ。そりゃそうだよね。わたし、わかってた!」

(おそるおそるはどこ行った?というかそれよりも)

「どうしてエリンが?」

 その言葉はエリンにではなくグレイスに向けたものだ。

「あたしが呼んだんだよ。それ以外にあるか、あ?」

(なんでいつも喧嘩腰なんだ)

 半ばあきれながら勇也も返す。

「そういうことではなくて。どうして呼んだかってことですよ」

「ったく、そんなせかせかしなくても説明してやるっつうの」

 面倒くさそうに頭をかきながら答えるグレイス。

(俺が悪いんだろうか)

 勇也は混乱した。が、グレイスが話し始める雰囲気を感じとり、我にかえる。

「K2部隊はなくなった。これから新しい部隊を編成する。お前とエリンはその部隊に入れ」

 目を見開き驚きをあらわにするエリン。

「は?」

 一方勇也は驚きよりも先に、再び混乱した。


















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