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9話 迷宮に潜む気配と仲間たちの結束


ゴブリン二十匹、スライム二十匹の存在によって、洞窟の中はますます賑やかな気配を帯びてきた。思えば“ダンジョンコア”としての力を使って、魔物を産み出し、生活の場を提供する――そんなふうに本格的な拠点づくりをするのは初めての経験だ。


「ここまで来ると、下手な集落よりよっぽど人口が多いな……。」


俺は洞窟の奥、コアのある場所で意識を集中しながら、周囲を見渡す。ゴブリンたちは相変わらず集落のような小さな集会所を作っており、火や木の枝、洞窟の外で手に入れた獣の骨などを活かして、最低限の“暮らし”を確立しているらしい。


一方、スライムたちは水のある区画を中心に広がり、一部の個体はゴブリンの食べ残しを掃除する“分解屋”のような働きすら見せている。


ゴブリン同士の声が響く区画を覗いてみると、彼らは壁を掘り返して簡単な“囲い”や“棚”を増やしていた。何匹かのゴブリンが石を削ってナイフのような道具を作ったり、獣の皮を伸ばして防寒具や袋をこしらえようとしている。彼らなりに意思疎通し、共同作業を行っているのが分かる。


「ほんとに社会性があるんだな……単なる敵性魔物って感じじゃない。」


これだけの数が集まれば、放っておいても自給自足で“生活”してくれそうだ。もっとも、今の洞窟には農地がないし、外の世界から獣や食糧を持ち込まないと、やがて行き詰まるかもしれない。そこは俺がダンジョンを拡張したり、魔物を取り込んだりしてバランスを整えていく必要があるだろう。


スライムについても、さらなる変化が起きていた。水たまりを中心に棲みつく個体が増えた結果、同じ場所に固まることを避けるように、複数のスライムが少しずつ地形の異なる区画へ移動しはじめている。湿り気の多い通路や、苔のよく生えた壁際など、スライムにとって暮らしやすい環境を自然と探り当てているようだ。


しかも、一部のスライムは“独自の色”や“模様”を帯びはじめている。もともと青く透き通っていた個体が、苔や成分の違う水分を吸収して微妙に色合いを変えているのだろうか。


「このまま放っておくと、スライムの亜種が生まれたりするのか……?」


洞窟を一大コロニーにできれば、同じスライムでもバリエーションが増えるかもしれない。毒性をもつ個体、火への耐性を獲得する個体など、今後の展開次第では多彩な役割分担を担ってくれそうだ。思わず期待が膨らむ。


そんなふうに洞窟内の成長を喜んでいた矢先、俺はダンジョンコアとしての感覚で、外の森から妙な“圧”を感じ取った。具体的に言葉で表すのは難しいが、魔力の波長が不気味に揺れているようで、嫌な胸騒ぎがする。


「何だ……? 先日の冒険者みたいな足音や複数人の気配は感じないけど……」


この感覚は、一体なのか、それとも集団なのか。森の奥でうごめいている“何か”が、ダンジョンに近づいているような気がしてならない。前に遭遇したコウモリ鳥やホーンラビットとは明らかに違う“尖った”魔力を感じる。


「もし強力な魔物だったら、今のゴブリンやスライムの戦力で対抗できるのか……?」


心配になり、ゴブリン集落のほうを見に行く。彼らも本能的に何かを感じているらしく、いつになく落ち着きがない。リーダー格のゴブリンが周囲に警戒の声をかけ、若い個体たちが武器や棒切れを手にして洞窟の入り口付近でうろうろしている。


スライムの動きにも微妙な変化がある。普段はマイペースに苔を舐めているだけのスライムが、通路や壁際にずらりと並んで、何か待ち構えているかのように震えていた。


防衛体制を整える


「よし……いざという時に備えて、地形を変形させておくか。」


俺はダンジョンコアの力を使い、洞窟の入り口付近をやや狭める。ゴブリンが通れるサイズは確保しつつも、外から大きな魔物が突入してきたら動きが制限されるようにした。天井に張り出した岩を“仕掛け”としてセットし、ゴブリンの合図で落とせるように準備しておく。


「まずはゴブリンたちが前線で足止めして、スライムの水魔法で補助する。最悪、俺がコアを直接操作して地形ごと押し潰す……か。」


洞窟内なら、俺はある程度自由に地形を操作できる。逆に外へ出てしまうと、また行動が制約されるから、やはりここで守り切るのが得策だろう。


そうこうしているうちに、ゴブリンのリーダー格がこちらをちらりと見上げてきた。


「……どうした?」


彼らの行動を見ていると、若いゴブリン数匹が火種を集め、松明のようなものを手にして散らばりはじめた。


別の数匹はスライムのいる水たまりへ近寄り、威嚇の声をあげてから何か言い聞かせている。と、そのタイミングでスライムがプルプル震えて、しずくを飛ばすように小さな水弾を放った。


「……ゴブリンからスライムへの訓練? いや、コンビネーションを試してるのか?」


ゴブリンとスライムが“共同戦線”を張ろうとしているのは明らかだった。ゴブリンが足止めし、スライムが相手を濡らして動きを阻害する……そんな簡単な作戦が共有されているのかもしれない。


「この調子なら、よほど強大な敵じゃない限りなんとかなるか……?」


謎の足音、そして……


その日のうちに、外の森からは大きな足音や鳴き声は聞こえてこなかったが、ダンジョン周辺をうろつく気配は確かにあった。ゴブリンたちは明け方まで警戒態勢を解かず、スライムもあちこちで小さく振動しながら待ちかまえる。


だが、結局その“何か”は洞窟へ侵入してこなかった。外の様子を反響定位(コウモリ型魔物を取り込んだ時に得た感覚)でうかがってみると、どうやら森の奥へ移動していったようだ。


「結局、拍子抜けか……。いや、まだ油断は禁物だな。」


不穏な気配が去ったのだとしても、今後またいつ現れるか分からない。ダンジョンは強敵を招き寄せる性質があるとも言うし、こちらも防衛手段をますます充実させておく必要がある。

とりあえず、無用な消耗がなかったのは幸いだ。


ゴブリンたちは集落に戻り、夜が明けるころには疲れからか居眠りをしている個体も多い。一方で、一部のゴブリンが掘った土を使って土製の壁や簡易の囲炉裏を作りはじめており、また少し生活が向上しそうな気配も感じられる。


スライムは相変わらず水場や苔のある場所で暮らしているが、今回の警戒態勢でゴブリンと連携したことで、両者の距離感がより近づいたように見えた。いくつかのスライムは、ゴブリンの集落近くにも移動して、ときどき彼らが出す残飯を嬉しそうに吸収している。


「こうやって、洞窟が一つの“生態系”として機能するのは面白いな……。」


改めてダンジョンコアとしての可能性を感じながら、俺は洞窟内を巡る魔力の流れを確かめる。いずれもっと強い魔物がやってきても、ゴブリンやスライムだけでは対処しきれない局面が来るかもしれない。

その時こそ、新たな魔物を取り込んで拡張を図るか、あるいはダンジョン自体を進化させる必要があるだろう。


「ここで踏み止まるつもりはない。俺のダンジョンはまだまだ道半ばだ。」


ゴブリンとスライムが築きはじめた“小さな生態系”。謎の魔物らしき気配を察知しながら迎えた警戒の夜。

一時の平穏を噛みしめつつ、俺は次の展開に備えてダンジョンの奥へと意識を潜らせた。ゴブリン集落は今のままでいいのか、それともさらなる強化が必要か――近い未来、試される時が来るに違いない。

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