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21話 「ドラゴンの脅威」

エレメントスライムが滑らかな動きで洞窟の奥へと戻ってきた。まるで周囲の地形を意に介していないようなその移動速度は、こいつの能力を考えれば驚くには値しない。とはいえ、戻るのが早い。


「主よ、お耳に入れたい話がございます」

俺の前に姿を現すと、エレメントスライムが静かに口を開いた。


「どうした、討伐隊の件は終わったのか?」

俺はゆっくりと振り返りながら問いかけた。


「ええ、奴らは撤退しました。取るに足らぬ相手ではありましたが……それよりも別件です」

エレメントスライムはどこか興味を引くような調子で続ける。

「人間の街にドラゴンがやってきたそうで、それも二体です」


「……ドラゴン?」

その名を聞いた途端、俺は眉を僅かにひそめた。わずかな緊張が体に走るのを感じる。


「そうです。一体ではなく二体」


俺は短く息を吐き、腕を組んだまま考え込んだ。ドラゴンか。しかも二体。人間の街に現れたとなれば、ただの脅威では済まないだろう。


「……分かった。ドラゴンを討伐する。一体は俺が行く。もう一体はジェネラルとお前に任せる」


「人間のために討伐を?」

その言葉を聞いて、エレメントスライムの体が僅かに震えた。驚いているようにも見えるが、すぐにあの尊大な態度に戻った。


「承知しました。主の命令とあらば、私が必ずドラゴンを討ち取ってみせましょう」


エレメントスライムのその言葉に、俺は頷き洞窟を出て、以前ゴブリンジェネラルから聞いた人間の街へと急ぐ。

以前の土塊のような体とは違いフレイムファングやありとあらゆる魔物の肉体で強化した体は風が抜けるように素早く森を進んで行ける。


障害となる木、ましてや岩でさえも炎纏った爪で切れば綺麗にその断面を晒した。



その頃、リーダーの剣士の部隊はゴブリンジェネラルらに圧倒され、隊としての機能はほぼなかった。


「終わりか、もう少し骨のある奴を望んだがまあいい」ゴブリンジェネラルの目の前では、リーダーの剣士が膝をついて立ち上がろうとしていた。


「まだ立ち上がるか、気絶させてやった方が良さそうだな」そういってゴブリンジェネラルは大剣を振りかぶったが…。


「あ、お待ちを」

「ぐぁぁーっ!!」

ゴブリンジェネラルは森を進んできた速度そのままにエレメントスライムに突進され地面を盛大に転がった。


ゴブリンジェネラルが地面を転がると、その衝撃で周囲のゴブリンたちや冒険者も思わず動きを止めた。立ち上がるなり、ゴブリンジェネラルは怒りに満ちた目でエレメントスライムを睨みつける。


「何をする貴様! 俺が仕留めるところだったのに!」

大剣を地面に突き立て、ゴブリンジェネラルは憤然と怒鳴った。


エレメントスライムは、あくまで余裕の態度を崩さずにその場で揺らめく。

「まあまあ、そんなに怒らないでください。私には主からの緊急の命令があるのです」


「主からだと?」

その言葉に、ゴブリンジェネラルの目が鋭く光る。


「ええ、そうです。主からの命令で、あなたと私で街に現れたドラゴンを討伐するようにとのことです」


「ドラゴンだと……?」

ゴブリンジェネラルは驚きつつも、口元に不敵な笑みを浮かべる。「なるほど。確かに面白そうな相手だな。だが、今この人間どもを片付けている最中だぞ!」


「いえいえ、人間など捨て置いてよいのです」

エレメントスライムは軽く肩をすくめるように体を揺らしながら言った。

「主も、人間は誰も殺すなと命じていますし、彼らにこれ以上手を出す必要はありません。それより、我々がドラゴンを倒しに行く方がずっと意義深いと思いませんか?」


ゴブリンジェネラルは腕を組み、考える素振りを見せた。

「……まあ、確かにドラゴン相手の方が骨のある戦いにはなりそうだ。人間なんぞ、相手にならんしな」


エレメントスライムはその言葉に満足げに頷き、周囲のゴブリンたちに視線を向けた。

「他のスライムにはすでに洞窟の防衛に当たらせています。私とあなたがいなくとも十分に守り切れるはずです」


ゴブリンジェネラルは頷き、ゴブリンたちに鋭い声で指示を飛ばした。

「お前たち、この場を引き上げて洞窟を守れ! 敵が来たら死ぬ気で食い止めろ!もし突破されでもしたら分かっているな!」


ゴブリンたちは一斉に返事をし、森の奥へと引き返していく。その様子を確認し、ゴブリンジェネラルは大剣を肩に担ぎ直すとエレメントスライムに目を向けた。

「いいだろう。主の命令とあれば、俺もドラゴン討伐に向かう。面白い戦いになりそうだな!」


「そうこなくては困ります」

エレメントスライムは誇らしげに笑い、ゴブリンジェネラルを促すように前方を指した。

「では、私たちも早速向かいましょう。ドラゴンが相手では、悠長にしている時間はありませんからね」


こうして、エレメントスライムとゴブリンジェネラルは討伐隊の冒険者たちを捨て置き、ドラゴン討伐のために森を抜けて街へと向かう。空気が緊張感を帯び、二体の魔物はそれぞれの力を見せつけるべく、意気込んで進んでいった――。



剣士リーダーは荒い息を吐きながら膝をつき、地面を睨みつけていた。周囲には自分たちの武器や荷物が散らばり、あちこちで仲間たちが疲れた様子で座り込んでいる。戦場の喧騒はすでに遠のき、今は静寂が支配していた。


「……エレメントスライム……ゴブリンジェネラル……」

リーダーは呟いた。その名を口にするたびに信じがたい現実が頭の中でこだました。


「ビッグスライムじゃなかったのか?あり得ない……まさか、あのエレメントスライムがここにいるなんて。それに、どこがホブゴブリンだ。ゴブリンジェネラルがあれほどの力を持っているなんて……」


「おい、本当なのか? ドラゴンが街に現れたって……それも二体だって聞いたぞ」

「ドラゴン2体なんてそんなのこの街にいる冒険者の数じゃ手に負えないっ!」


その声を聞いた瞬間、リーダーは顔を上げた。全身の疲労が一気に消えるわけではない。それでも、体の奥底から何かが湧き上がるような感覚がした。


「ドラゴンか……この状況で」


仲間たちがリーダーを見つめる。リーダーは深く息を吸い、震える足に力を込めながら立ち上がった。


「街にドラゴンが現れたのなら……俺たちも向かわなければならない!」

その言葉は、自分自身にも言い聞かせるような強い口調だった。


仲間たちが次々と立ち上がり、荷物をまとめ始める。リーダーは剣を拾い上げながら、仲間たちに声をかけた。


「今はここで時間を浪費している場合じゃない。街にいる人々を守るために、俺たちが行くんだ!」


仲間たちはその言葉に頷き、準備を急ぐ。リーダーは剣を握り直し、街に向かうべく進み始めた。

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