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第13話「復讐心と迎撃準備」

ダンジョンの奥深くで、俺は新しい試みに取り掛かっていた。フレイムファングの肉体や、これまで取り込んだ魔物。それらを組み合わせ、自分の新たな肉体を作り上げようとしていたのだ。


 これまでの「土と血肉の混ざり合い」で作った擬似身体は十分に役に立ってきたが、限界がある。硬さや力強さは申し分ないものの、繊細な動きには向いていないし、見た目もあくまで「土くれ」だ。


フレイムファングのような強靭な筋肉や毛並みを取り入れれば、もっと高性能な身体を得られるのではないか――そんな思いから、実験を繰り返している。


 「おお……これは……」


 洞窟の中にある貯水地の水面が俺の作り出した身体を映し出す。狼のように逆立つ黒い毛皮。しなやかで力強い四肢。フレイムファングの牙を模した鋭い爪。


俺は、自分がかつて人間だったことを思い出すような、二本足で立つ形状を選んだ。いわゆる「獣人」とでも呼ぶべき姿だ。毛皮の隙間からは微かな炎が揺らめき、魔力が流れる感覚がある。まるで生き物そのものだ。


 「……これなら、外に出ても違和感なく行動できそうだな」

 思わず感慨深く呟いたその時だった。


 「主! 急ぎ話だ!」

 洞窟の奥から慌ただしい足音が響き、ゴブリンリーダーが駆け込んでくる。その表情には怒りと焦りが混じっていた。


 「どうした、落ち着け」

 「……狩りに出た仲間が、人間どもに襲われた!深手を負い、戻ってきた者もいる!」

 ゴブリンリーダーの報告を聞き、俺の意識が鋭く集中する。

人間……冒険者だ。以前一度ダンジョンに侵入してきた冒険者たちを撃退して以来、外の森からの干渉は少なかった。そのうちまた来るだろうとは思っていたが洞窟の外で攻撃されたか……。


 「狩りに出たのは何体だ?」

 「十だ、傷を負いながらも全員帰ってきたが、奴らはこっちに来ている!許し難い!」

 リーダーの目が燃え上がるような怒りに満ちている。火魔法の影響か、その拳から微かに炎が揺らめいているのが見えた。


 「奴ら叩き潰す! これ以上の好きにさせない!」

 リーダーは吠えるように言うが、俺はすぐに制した。

 「待て、リーダー。今ここで外へ出ていけば、かえって奴らを刺激する。奴らの目的がダンジョンにあるなら、いずれまた来るだろう。むやみに動くな」

 「しかし――!」

 「ここで迎撃する。それが最善だ」


 ゴブリンリーダーの怒りは簡単には収まらない。それでも、渋々ながらもリーダーは頷き、ゴブリンたちを指揮して防衛の準備に取り掛かることを決意した。


 ダンジョンの静寂を切り裂くように、反響定位のスキルが入り口付近で異変を捉えた。外から接近する気配――四人だ。全員が鎧やローブを纏い、しっかりと武装している。おそらく冒険者。


冒険者の接近にゴブリンたちは迅速に動き出す。洞窟内のあちこちで、罠の位置を確認したり、待機位置を調整したりする音がする。


 冒険者たちは慎重にダンジョンの入り口へ足を踏み入れた。彼らの会話が微かに聞こえる。


 「ここが噂のゴブリンの巣だろう。最近ゴブリンが出入りしていると聞く……油断するなよ。数が多いかもしれない」

 低い声の剣士が周囲を警戒しながら言った。


 「ゴブリンだけならどうということはないわ。この人数なら問題ないはず」

 軽い口調で答えたのは、短弓を持ったアーチャーの女だ。


 「それにしても静かだな。ゴブリンの巣ならもっと喧騒があってもおかしくないだろうに……」

 今度は魔導士らしき男が呟く。


 「いや、気を緩めるな。妙な気配がある」

 斧を持った大柄な戦士が険しい表情で答えた。


 冒険者たちが迷路のように組み替えられた入り口を進むにつれ、彼らの緊張感が増していくのがわかった。案の定、最初の罠が発動する。足元に仕掛けられたロープがアーチャーの足を絡め取り、彼女が転倒する。


 「くっ! 罠か!」

 剣士がすぐに助け起こすが、その間に壁に擬態していたロックスライムが動き出し、通路を塞ぐように立ちはだかる。


 「ゴブリンの巣だと思ったが……他の魔物か? スライムなんて聞いてないぞ!」

 魔導士が驚愕の声を上げる。彼らの中に混乱が広がり始めた。


 「くそ、話が違う! ゴブリンだけじゃないのか!?」

 戦士がロックスライムに向かって斧を振り下ろすが、その硬い体に刃が弾かれる。


 「落ち着け! ここは一度退いて体勢を――」

 剣士が指示を出そうとした瞬間、霧の中から炎のスライムたちが現れた。


 「また別の魔物だと!?」

 アーチャーが慌てて弓を構え、矢を放つが、スライムの柔らかい体に吸収される。続けざまに炎のスライムが火を撒き散らし、冒険者たちは後退を余儀なくされた。


 俺はその様子を見ながら状況が思った以上に順調であることを確認していた。冒険者たちは明らかに、このダンジョンを「単なるゴブリンの巣」だと思い込んでいる。


 「スライム、前進しろ。連携して奴らを追い詰める」

 スライムが進むのに合わせて、ゴブリンたちが暗闇から姿を現し、冒険者たちに奇襲を仕掛ける。


 「やはりゴブリンもいる……数が多い!」

 剣士が叫び、前線に立つが、火魔法を使うゴブリンたちが火の球を放ち、敵の動きを封じる。さらにロックスライムが再び動き出し、出口を塞ぐように位置を変えた。


 「完全に罠だ! 計画を練り直さないとやられる!」

 魔導士が焦りの色を隠せない声で叫び逃げ出した。


次第に他の冒険者も逃げ出し最後に残ったのは剣士だけだった。1人残った状況で盾を構える彼の前に俺は姿を現した。


 「ここは俺のダンジョンだ。お前たちのような侵入者に好き勝手させるつもりはない」

 炎を纏った獣人の姿の俺を見た剣士は、その目に恐怖を宿しながらも叫んだ。

 「貴様は何だ……ただのゴブリンの巣ではないのか!」


 俺は冷たく笑い、彼に告げた。

 「次はない。命が惜しければ、二度とここに足を踏み入れるな」


 剣士はその言葉を聞くと、震える手で仲間たちの元へ逃げ帰っていった。


 戦いが終わり、ダンジョンは再び静けさを取り戻した。ゴブリンたちは勝利を祝福し、スライムたちは散らかった残骸を片付けている。俺は彼らの働きに満足しながらも、さらなる警戒が必要であると感じていた。


 「次に来る時は、もっと強い奴らが来るだろう……」

 そう考えながら、俺はダンジョンのさらなる進化を計画し始めた。冒険者たちに再び俺たちの領域を侵されることのないようにするために。

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