勇者の寝言を聞いてしまったけど、もう私たちはダメかもしれない
なろラジ6応募の1000文字作品です!
クスッとでも笑ってもらえたら嬉しいです!
よろしくお願いします!
魔王討伐前の夜、私は緊張で眠れずただ横になっていた。やばい…どうしよう、と焦っていたその時——
「まおぅしゃまばんざい」
無口でクールな白髪の勇者、ベインから衝撃的な寝言がこぼれた。思わずガバッと上体を起こす。
「き、聞き間違い?」
寝てるベインをチラッと見るが、暗くてよく見えない。ただの人影が、やけに不気味に見えてしまう。
「マホーシャ、聞いたか?」
茶髪の剣士アルフが声をかけてきた。起きてたんだ。
「言ってたよね?」
「言ってたな」
「「魔王様、万歳」」
声が重なり、二人でフッと笑ってしまう。なんだこれ。
「もしベインが魔王の手先なら…オレたちは終わりだ」
「アルフ!仲間を疑うの!?」
声を押し殺して怒る。ベインを起こさないのは仲間への配慮。決して疑ってるわけじゃない…ほんとよ?
「だってさ、俺たち…魔王城まであっさり来ちゃったよな?」
正直、それは思う。敵は全部ベインが倒したし、回復魔法を使った記憶もない。
「ここに着く頃には、もっと立派な剣士になってるはずだった。けど…見てくれよ」
アルフがシャランと剣を抜く。
「ピッカピカよ。新品同然」
「いいじゃない。高く売れるわよ」
「お前…剣士の命をなんだと思ってるんだ?」
アルフは顔を曇らせた後、ベインに目を向けた。
「……殺るか」
「ちょっ!なんでそうなるのよ!」
「あの最強のベインを倒すチャンスは今しかない!寝てても勝てる気しないけど!」
アルフは完全にパニックだ。仕方ない…。
「私が魔法で頭の中を覗く。それでいいでしょ?」
「おま…それはダメだろ人として!」
さっきまで殺す気だったくせに何言ってんだ。
「あーもう、うるさい!『心読』!」
寝てるベインに魔法を放つ。
すると、彼の夢が頭に流れ込んできた。
初めての戦闘でビビってる私。
美味しそうにご飯を食べてる私。
アホ面で寝てる私…?
そして夢の最果てで——
「まじ可愛い!マホーシャ、万歳!」
私の名前を叫び、興奮しているベインの姿がみえた。
『マホーシャ万歳』…か。
寝言の真実に顔が熱くなる。
「どうした?」
アルフが不思議そうに声をかけてくる。
「ね…寝る!」
「はぁ!?おい!」
赤くなった顔を隠し毛布に包まる。心臓のドキドキが止まらず、寝付けなかった。
「行くぞ」
朝になり、ベインがクールに私達を先導する。
「ベイン」
「なんだ?」
「魔王倒したら…ご飯いこ?」
「……フン」
魔王戦でのベインは、今までで一番最強だった。
きっと、私の魔法がきいたのかもね。