第一話~日常~
君は小刻みに震えながら目を閉じる。僕は、君の栗色の髪の感触を感じながら頬を触る。まだ、春先だからだろうか。君の頬はひんやりと冷たい。緊張をほぐすため、僕は口を開く。
「玲奈の頬、死体みたいに冷たいねwwwwww」
「は?」
グーで殴られた。すっごくいたい。これは、そんな雰囲気の恋愛小説である。
ここは、神葬零廟高校。一般人やらお嬢様やら宇宙人やら異世界人やらが通ったり通わなかったりする特殊な高校である。そんな高校に通う主人公がこの僕、四月三男である。
「三男って本当に空気読めないよね! サイテー!」
正面でぷりぷりしてる栗色ショート髪、身長713cmの美少女が能面玲奈。クラスの人気者であり、パンツ見放題であることが男子人気の正体だと僕は予想している。
「悪かったって。場を和ませようと思ってさ。玲奈が殴るから、脚立ごと倒れちゃったじゃないか」
「三男は頑丈だし、大丈夫でしょ」
「僕が頑丈でも、して良いことと悪いことがある! そもそも顔にできものないか確認してって言ったのは玲奈の方なのに、お願いしてきて殴るなんて酷いじゃないか!」
ばぁん! 突然扉が開け放たれる。落単カードマァーン! という威勢の良い掛け声とともに、顔に銀のカードを張り付けた、白髪長髪の男が入ってくる。
「ふはははは! ごきげんよう! 生徒会諸君! 生徒会長である、この私が来たぞ! 早速、政務をはじめようではないか!」
この男が、第一代生徒会長から第五十六代生徒会長。この学校が始まってから今まで、常に生徒会長の座に君臨し続けている会長の中の会長。落単カードマン会長だ。生徒会室には、会長の顔写真(全て若干顔の向きやポーズが違う)が56枚飾られている。吸血鬼という噂が流れており、髪は白髪だがその肌は透明感があり、とても70歳以上だとは思えない。
「む? 今日は人が足りていないようだがまあ良い。二人とも、着席! 今日の議題は、学校のペットとしてスライムの飼育を許可してほしいのだそうだ」
僕と玲奈は生徒会室に鎮座する円卓の席に座る。玲奈の席は専用であり、巨大な椅子が用意されている。そして、ここから僕たちの頭脳戦が幕を開ける。
「僕は許可すべきだと思います。ペットを通して、友愛の心を学んだり、命を尊さを学んだりすることもできます。校則にもペットの飼育禁止の一文はないですし、エサもその辺の草をあげとけば良いので経済的にも負担は少ないです」
実は、この当初をしたのは僕の友人である柿崎エロスだ。エロスが服だけを溶かす特殊な個体を入手したらしく、そいつを学校で飼いたいから議題を通してくれないかと頼まれたのだ。もちろん、僕は二つ返事で承諾した。これを通すことが生徒会メンバーとしての僕の任務なのだ。
「私は反対です。スライムの中には人に危害を与えるものもいます。個体差がとても大きい生物であるため、どこかで事故が起きる可能性が否定できません」
「異議あり! それは詭弁だ! 外を歩けば交通事故にあう。海を泳げばサメに食われるというようなことを言っているにすぎません!」
「ほお、随分と突っかかってくるじゃない。さっきの仕返しのつもりかしら? 私たちの学校には妖精のような小さい種族の生徒もいる。その子たちからすれば、スライムは大きいし脅威よ。色々な種族の子がいるのだから、そこを加味して判断しなければダメだと思うわ」
しめた。玲奈はおそらく、服だけを溶かす特殊個体のことを知らない。これは押し通せる。
「そんなことを言ったら、妖精の子たちは一生ペットを飼育できなくなる! 家であれば、家族も全員妖精の生徒はペットを飼えないがここには様々な種族の生徒たちがいる! それ故に、何かあれば助けてあげられる。多様性を尊重し、多様性を生かす場面はこの時をおいて他にないのではないかと考えます!」
「まあ、確かに。一理あるかもしれないわね。会長はどうですか?」
会長に視線が集まる。女の子の裸を見られるかどうかは、会長にゆだねられた。頼む会長! 服を溶かすスライムを許可してくれ!
「そうだな。私は許可でよいと思う。三男の言うことはもっともだし、そこまで三男が熱心に言うということは何か考えがありそうだ。それが何かは推測の域を出ないが、少なくとも私を愉快に感じさせるものであろう」
「ははあ! 会長の思し召し通りに!」
「評価基準が面白いかどうかなのはどうかと思うけど、私も納得しちゃったしいっか」
「うむ。それでは今回の議題は賛成多数で認可! 今日は以上! 解散!」
今日から僕の、裸美少女見放題パーティーが幕を開ける。
次の議題募集中です。生徒の皆さんは目安箱に学校の改善してほしいことや、やりたいことなど投函してください。