父へ
父さんへ
いつも無口な父さん。
時折、しょうもないことで話を掛けてくれた事もあったけど、
思春期真っただ中だったあの頃の私は、親の気持ちなど考えず「うるさい」「話しかけないで」
なんて言っていたことを記憶してます。
だから、そのうちに話さなくなって無口な印象が強く残ってしまったのかもしれません。
ごめんなさい。
社会人として働き始めて約五年。
今はこう思うのです。
もう少し話して、いっぱい親孝行しておけばよかったと。
父さん。
私が小さかった頃、悪いことをした時には
拳骨がよく飛んで来たことを覚えています。
当時はあんなに思いっきり殴るなんて、私のことが嫌いなんだとそう思っていました。
でも今なら思うのです。本気で殴ってる訳などなかったであろうこと。
だって考えても見てください。
今の私が小学生低学年くらいの子を本気で殴ったら
泣く程度では済まない事、容易に想像できます。
反省を促す程度の加減を加えてくれていたこと
我が子を愛する故の拳骨であったこと
今なら理解できます。
むしろそういう育て方をしてくれて良かったとさえ思います。
ネット上で炎上している学生を見て、
なんて阿保なことしているんだろう…そう思う人、沢山います。
私が道を外れず真っ当に育ったのは父さんのお陰です。
本当にありがとう。
昔から素直になれず、映画やドラマなどで家族愛を描いた作品を見るたび
親孝行をもっとすべきなんだろうな、とか心の中では思っていました。
でも、実際に父さんを前にして、いつもと変わらぬ日常を送っているのを見ていると
今更過ぎて恥ずかしくって、結局いつも何もせずにその日を過ごして…
あの時、酒でも飲んで語らって、親子の会話をするだけでも良かったはずなのに。
なぜそうしなかったのでしょう。
私は大馬鹿者でした。
意図せぬこととはいえ、親からしたら最悪な親不孝者になるのを
ただただじっと待つことしかできないなんて、
歯がゆくて、悲しくて、後悔で、正直涙か止まりません。
本当は半年前には分かっていたのです。
ですが、ついぞ言い出せず、ずるずると来てしまいました。
私の命はもう長くありません。
ステージ4の癌で、治療も不可能ということをお医者様に言われました。
半年前に「あと1年持てば良い」と。
まだ長い人生だから、気長に親孝行すれば良いだろうと考えていた
あの頃の私をもう一度殴ってくれませんか。
父さんの愛を感じたいだけかもしれません。
なにかのセリフで、「子が親より早く逝くことほど、親不孝なことがあるか」と誰かが言っていました。
全くその通りです。
何一つ恩も返せず、先に旅立つことになるくらいなら、
もっと後悔しない生き方をずっとしておけば良かった。
でも、父さんは優しいから「親不孝だなんて思っちゃいない。なんで早く相談してくれなかったんだ」
そんなようなことを、この手紙を見て思うのでしょう。
いえ、そう思ってくれていると確信します。
だから私は私自身への言い訳の意味も込めて、この言葉も上のセリフと共に思い出しました。
「子は生まれたその瞬間から親への孝行を実行している」
なんと素晴らしい言葉でしょうか。
なんて、子側から言うのは都合がよすぎるのは分かってますが笑
私はあなたの子に生まれてこれて幸せでした。
なんもかんも全部ひっくるめて、ありがとう。
そして願わくば、私を生み育てたことをこの手紙を読んだ後でも
「良かった」そう思っていら抱けると嬉しいです。
では、あっちで一人暮らしを始めてきます。
お元気で。
願わくば、私の受け持った生徒達に幸あらんことを。