『二月二十三日 図鑑』
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幼い頃からお気に入りで、こうして大人になってからも大切にしている図鑑がある。
それは海の生き物について書かれたもので、子供向けではあるが挿絵や写真の多さが目を楽しませてくれる。そんな図鑑だ。
今日も久しぶりにそんなお気に入りを引っ張り出して、だらしなく畳に寝転がりながら見るともなしにペラペラと頁を捲っていたが、気がつくと本を開いたまま居眠りをしていたようだ。
なにか冷たくてつるりとしたものが顔を掠めた気がして目が覚めた。部屋は既に夕暮れ色に染まっていた。
いつの間に寝てしまったのか、いやそれより今何か顔に触った気がするなと思いごろりと仰向けに寝転ぶと、部屋の中でクラゲが揺蕩っていた。
クラゲはその半透明の体を夕日の色に染めながら、長い触手をふわりと部屋に漂わせ、泳ぐともなしに空中を漂っていた。
あれはアカクラゲというだったかなぁ等と思っていると不意にクラゲは窓に向かってふわりふわりと移動し始め、長い触手が惜しむかのように私の頬を撫ぜたかと思うと、そのまま窓ガラスをすり抜けて消えてしまった。
何故か私はその後また眠ってしまったのだが、起きてみれば頬はミミズ腫れになっているし、図鑑からはアカクラゲの挿絵が消えてしまっているし、もう図鑑は開いたままで寝ないと心に決めた。
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