『一月二十四日 追われる蒐集家』
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散歩していると道を聞かれた。どうやら旅行客のようで、こんな何もない町に来るとは珍しいと思いつつ話をしているうちに意気投合し、二人で昼からやっている居酒屋へ行くことになった。
飲みながら彼が今まで行った場所の話などを聞いていると、何故そこまで様々な、それも旅先としては珍しい場所を訪れているのかが気になり思い切って聞いてみることにした。
「僕ねぇ、実は追われてるんですよ」
「いや、警察に追われてるとかヤクザに追われてるとか、そういうあれじゃないですよ?」
「僕ね、怪談蒐集家だったんですよ」
「そりゃもう色々集めました」
「でも、ある怪談を聞いてから変なんですよ」
「その怪談にまつわる話や、続きのような話、その怪談に出てきた物や人やらから派生したような話がどんどん私の耳に入ってくるようになったんですよ」
「こんなことは今までありませんでした」
「どんどん話が集まってきて、まるで私の中で怪談話が育っているような、そんな感覚になってしまって、気味が悪くて怪談蒐集を辞めてしまったんですよ」
「なのに、辞めたのに、今までそんな話をしたこともなかったような会社の同僚が『そういえばこの前こんな話をきいたんだけど…』ですとか、お隣さんに『ねぇこの前ご近所さんから聞いたんだけど…』なんて言って、その怪談にまつわる話をしてくるようになったんですよ」
「どこに行ってもそんな話が無理矢理、僕の生活の中に入ってこようとするんです」
「そんなわけでこうして仕事も辞めて、色んな場所を転々としているわけでして…」
と、語ってくれた。
そんな奇妙なこともあるのかと思い、労いの言葉をかけようと思い口を開くと、
「そういえば以前聞いた話なのですが…」
と、言おうと思ってもいない言葉が口からつらつらと溢れ出てきた。
彼は青い顔をしてバタバタと店から出ていってしまった。
彼はもう逃げ切れないだろう。
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