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虚記  作者: 白鯨 現
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『一月二十日 路地裏』

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 町を歩いていたら、不意に芳しい梅の香りが鼻をを掠めた。

 この香りはどこからやってくるのだろうかと足を進めると、なんてことはない、ビルとビルの間の暗く狭い路地の前にたどり着いた。道幅が1メートル程しかないこの道の先から花の香がしてくることは奇妙に思えて仕方なかったが、どうしても香りの元を確かめたいという気持ちが消えず、狭苦しい路地裏へ足を勧めた。

 その路地は入って2メートルほど進むと、すぐにまた右へ道が折れていた。迷うことなく進む。

 と、突然頭上に大量の花花花…。何故かこんな季節に白梅が咲き誇っていた。それも、この路地を挟み込んでいるビルの配管まみれの薄汚い壁からせめぎ合うように生えている。ますますわけがわからないが、なにしろ良い香りだ。いつの間にか私はふらふらと梅の木の下を歩き回っていた。

 芳しい梅の香りを胸一杯に吸い込み香りに酔いしれる。こんなに美しい木々は見たことがない。

 ああ、ずっとこのまま、と思った瞬間、不意に17時を告げるひび割れた音が、付近のスピーカーから流れ始めた。ハッとして周囲を見渡すと、あれ程美しく咲き誇っていたはずの花々は見る影もなく、そこには壁から付き出す天を突き刺さんばかりの黒い棘のような梅の木の枝があるばかりだった。

 路地裏は生臭い生活排水の匂いで満たされていた。


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