審問
俺とシルフィアはノアハの街に辿り着いた。
まず街の教会へ。
教会を管理する牧師がすぐに出迎えてくれ、奥の応接室に通される。
「先程伝書鳩で手紙がきました。シルフィア様宛です」
牧師が小さな紙を手渡す。この街の教会に通信魔法はないので、伝書鳩が最速の通信手段となる。
シルフィアは紙を広げる。さっと読み終え、俺に紙を手渡してくる。
一人の男の子が事故死した経緯について書かれていた。流れ者と村娘との間に出来た子供、貧しく周囲からは蔑まれ、最後は陰湿な遊びの中で崖から落ち死亡。
「コックリさんは狐の霊を呼び出す儀式らしい。異世界の銅貨に加え、狐に見立てられ死んだ子供の怨霊、それだけ揃えば世界を越えて急速に顕現できる。間違いないね。急ごう」
教会を出てディック達の泊まっている宿を目指す。宿の近くの広場に馬車を止める。
「これ、ヤバいな」
俺は呟く。
「だね。ヤバいよ」
シルフィアが頷く。おぞましい気配が宿の方から漂っている。追放された時には何も感じなかったが、短期間に存在を強めている。
「私着替えるね。別にアルベルトなら見ててもいいよ」
「いや、外で待ってる」
馬車から出る。この気配ならディック達は確実に宿にいるだろう。
待つことしばし、シルフィアが馬車から出てくる。
仄かに青みのある白い祭服を纏い、手には銀杖、頭に軽式宝冠、両手首にブレスレット型のアミュレット。実戦式司教級聖装、つまりは完全武装だ。どれもこれも、神聖魔法を強化する力が込められている。
「そこまでやる程……だな」
「だよ。フル装備持ってきて良かった。とにかく異世界の銅貨を抑えないと。私が宿に乗り込んで審問するから、入口で待機して、何かあったら突入して。あと、支援魔法お願い」
「了解」
宿の入口まで歩く。俺は魔力上昇のバフをシルフィアにかける。
「ありがとう、行くね」
シルフィアは地面に杖を付き、聖域展開の詠唱をする。
清浄な空気が辺に満ちた。
ドアを開け、シルフィアがゆっくりと宿へ入っていく。
◇◇ ◆ ◇◇
シルフィアが宿の中に入ると、ここは大量虐殺の現場かというぐらいの瘴気に満ちていた。聖域を纏い、呪詛の瘴気を削り清めて歩く。
詳しくない者でもシルフィアの格好を見れば高位の聖職者であることは分かる。宿の主人が慌ててシルフィアに駆け寄ってくる。
「専術司教シルフィア・ベイエルです。審問に参りました。冒険者ディック、冒険者ペトラ、冒険者レオは居ますか?」
「は、はい。部屋にいるかと思います。2階の一番奥と奥から二番目の部屋です」
「ありがとう」
宿の主人に礼を言い、2階に上がる。人の気配があるのは一番奥の部屋だ。
一応ノックだけして、返事は待たずにドアを開ける。
室内には3人が居た。ベッドに横たわる男が1人、椅子に座る男女1人ずつ。事前にアルベルトに聞いていた外見の特徴とも一致する。間違いないだろう。
3人は突然現れたシルフィアを唖然とした表情で見ている。
そして……見えないがもう一つ"何か"居る。人ならざる異様な気配。
「ストリナ聖堂所属、専術司教シルフィア・ベイエルです。冒険者ディック、冒険者ペトラ、冒険者レオ、貴殿らを審問します。証言拒否及び偽証は厳罰に処されます」
宣言し、部屋に踏み込む。溢れる瘴気と"聖域"がしのぎを削る。だが、シルフィアは完全装備でアルベルトのバフまで受けている。競り勝ち、部屋の中の"何か"は一時的に消える。
「この部屋にいた呪詛は一時的に不活化しました。何を話したか知られる事はありません。安心して答えなさい。さて、まずマルコという子供のことです。貴方達が子供の頃、狩りの真似をして追い回して、事故死したと認識しています。相違ありませんか?」
「ディックです。はい、その通りです」
「間違いないです。でも、崖から落とす気なんて私達」
「糾弾している訳ではありません。事実の確認です」
実際、幼子のやることだ。責められるべきは周囲の大人だろう。
しかし、もちろんそれは怨まれない理由にはならない。
「はい……」
「次の質問です。異世界の銅貨を使ってここにいる3人で『コックリさん』なる儀式を行いましたね?」
「はい。やりました。な、何故それを」
「状況から判断しただけです。質問します。異世界の銅貨はどこですか?」
「……なくしました。たぶん廃龍の腹の中です」
「ほへ?」
思わずシルフィアは変な声を出してしまった。努めて威圧的で権威的に振る舞っていたのに。
「えーと、何があったの?」
こんなところまで読んでいただき感謝の極みです。
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