表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

恐怖の薬草取り


 翌日のコックリさんの命令は3日以内にミネニカ山で薬草ブラウンアニスを採取せよとのものだった。

 一連の命令に何の意味があるのかはさっぱりだが、ただ恐怖に縛られ従っている。


 ディック達は急いで準備をして出発する。ミネニカ山はある理由から危険地帯とされているが行くしかない。それにブラウンアニスは貴重な薬草で高値で売れる。

 ミネニカ山近くの村までは乗り合い馬車を使い、そこからは歩きだ。


 山の麓に着いた時には日が暮れていたので、テントを張った。まずはコックリさんをやる『引き継ぎ薬草採取をしろ』だった。困難な追加命令がないことに胸を撫でおろす。コックリさんからの命令は毎日受けなくてはならないので、銅貨と折り畳んだ紙も持ち歩いている。


 乾いた枝を集めて焚火をする。鍋で簡単なスープを作って、堅焼きパンを浸して食べる。


「いつまで続くんだろう、この生活」


 ペトラが呟く。

 もちろん、分からない。ずっと続いて、遠からず死ぬのかもしれないし、ある時ふと解放されるかもしれない。


 ディックは暗鬱な気持ちで、揺れる火を見つめていた。

 酔ってふざけて手を出した『まじない』何でこんな恐ろしいことになったのか。

 不意に「コン」と狐の鳴き真似をする子供のような声がした。ディックは音の方を振り向き、息を飲んだ。

 薄っすらとした影が立っていた。子供のようで、でも後ろ足で立った狐のようにも見える。

 今まで、臭いと音はしていたが、見えたのは初めてだ。

 影が『にへっ』と笑った気がした。



 翌日ディック達は薬草の捜索を開始する。

 ミネニカ山はモンスターや大型の野生動物が少ない。強大な山の主が居るからだ。廃龍ゴリアート、理性を失ったドラゴンである。

 逆に言えばそれにさえ警戒すれば良い。

 ブラウンアニスが生えるのは山の中腹より上だ。まずそこまで登る。


「空を重点的に警戒しながら進むぞ。開けた場所は避けて、龍に見つからないように気を付けよう」


 ディック達に廃龍と戦う力はない。見つかれば逃げるしかない。

 木の影から影へ身を隠しながら進む。


 数時間程かけて、ディック達は無事山の中腹付近まで辿り着くことができた。

 ここからは本格的に薬草探しだ。一番危険な行程である。

 ブラウンアニスが生えるのは日当たりの良い場所、必然的に龍に見つかりやすい。葉の裏側が茶色っぽいという特徴はあるものの、それ以外はよくある草にしか見えない。

 手で葉をめくりながら探し回るしかないのだ。


「レオ、空の警戒を頼む。俺とペトラで薬草を探すぞ」


 場所を変えながら、四つん這いになって必死に探すが、なかなか見付からない。時間は過ぎていく。日は傾き空は朱色に染まっている。


「あった! あったよ!」


 ペトラの声がした。確かにブラウンアニスだ。ある程度の量が群生していた。


「よし集めるぞ。急げ」


 命令を達成するだけなら一本で良いが、金がなければ生活できない。やれる範囲では稼がねば。

 他の草が混じっても後で仕分ければいい、とにかく抜いて袋に詰める。


「よし、離脱だ。なるべく高木の多い場所で夜を明かそう」


 だが、その時


「廃龍だっ!」


 レオの声がした。慌てて空を見上げると、巨大なドラゴンが飛んでいるのが見えた。こちらに近付いて来るように見える。


「逃げるぞ!」


 叫び、走る。とりあえず山の下の方へ。

 後ろで大きな地響きがした。一瞬振り返ると、ドラゴンが着地している。体のそこら中に奇妙な色の瘤がある醜い姿、間違いない廃龍ゴリアートだ。

 追ってくる。巨大な足音と振動がそれを教えてくれる。


「牽制で、魔法撃つ?」


 ペトラが走りながら尋ねる。


「駄目だ。今は餌と思われているが、万が一敵と思われたらブレスが来る!即死だ」


「うぐぁ」レオの変な声に一瞬視線を送る、転んでいた。必死に起き上がり、再度走り出すが廃龍が迫る。


「グキャァァァ」


 レオの叫び。噛み付かれたようだ。それでもレオは走り続ける。脇腹から血を流している、致命傷ではなさそうだ。

 しかし、ふらついている。逃げ切れない。


「仕方ない、ペトラ閃光弾で牽制してくれ」


 ディックの指示にペトラが詠唱を始める。当然足は止めない。


“輝き集え、篭もれ、進め、爆ぜよ”


 白い光球が放たれ、後方で閃光を撒き散らす。目眩ましだ。


「グォォォ」と廃龍のたじろぐような声がする。これで敵とみなされて、ブレスがくれば終わり。

 くるな! くるな! 祈りながらディックは走る。


 祈りが通じた訳ではないだろうが、ブレスは来なかった。

 ディック達はなんとか廃龍から逃げ切った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ