コックリさんって何それ?
有力な情報が手に入った。ディック達は『コックリさん』なる呪術に手を出してしまった可能性が高い。
馬鹿な話だ。未知の呪法なんて何が起こるか分からない、遊びでは済まない危険行為だ。
ディック達が痛い目に合うぐらいで済むなら放置するところだが、周囲に害を及ぼす可能性もある。
面倒だが、対処しなくてはならない。
とはいえ、俺もそこまで呪術に詳しくはない。なら、詳しい人に相談するべきであろう。
有識者に相談するため、俺は馬を借りてストリナ聖堂へ向かった。
片道2日、特段のトラブルもなく目的地に辿り着いた。
ストリナ聖堂は地域の教会を統括している大規模な教会施設だ。俺が拠点とするノアハの街の教会もここの下部組織である。
受付で目的を告げ取り次いで貰い、永々と待って執務室に案内され、ようやく彼女に会うことができた。
「アルベルト! 久しぶり〜」
黒髪をふわりと揺らし、嬉しそうに笑うのは俺の友人、シルフィア・ベイエルだ。 共に神聖魔法を学んだ仲間だが、実力は彼女の方が上だ。18歳にしてその地位は『専術司教』、卓越した神聖魔法の実力を以って司教級の処遇を受けるエリートである。
「久しぶり、シルフィア。元気そうで良かった」
「貴方が会いに来てくれないから元気じゃなかったよ?今元気になったけど」
冗談か本気か、いたずらっぽい笑み。
ぱっちりした目にすっと通った鼻、薄い唇、シルフィアは紛う事なく美人である。
「また時々来るようにするよ。で今日は少し相談したいことがあってな」
「何? お金に困ったなら私のお婿さんがオススメだよ」
「いや、呪いの話し」
シルフィアが目がすっと細まり、真剣な表情になる。
「貴方が私に相談に来るってことはそこらの怨霊じゃないんだよね。話して」
俺は今までの流れを全て話した。シルフィアは黙って聞いていたが、途中段々と顔が険しくなっていった。
「異世界の銅貨使ってコックリさんしちゃったか……」
「やっぱり知ってるか、コックリさん」
「うん。コックリさんの儀式は数年前に発見された異世界の本に記載があってね。解読者が面白可笑しく吹聴したせいで広まってしまった。異世界の銅貨なんて条件が厳し過ぎるから気にしてなかったけど、まさか手に入れてやる人がいるとは」
「で、放っておいて大丈夫かな?」
シルフィアは首を横に振る。
「それ、たぶんヤバい。異世界にある呪詛の本体は大禍級だと思うし」
「そんなにか」
「うん。でも変、異世界の銅貨という媒介があったにせよ、それだけで世界を越えて急速に侵食するなんて大禍級でも不可能なはず。きっと他にも"何か"あるよ」
「何かって、なんだ?」
「こっちの世界で依代やエネルギー源になる何か。その元仲間のこと、思いつく限り全て教えて」
◇◇ ◆ ◇◇
ディック達はようやく宿に戻った。
5層に降りた瞬間引き返し、地上を目指し何とかダンジョンから生還したのだ。
素材を集める余裕はほとんどなかった。そして、ポーション類は大量に使った。大赤字だ。
「今日も、やらないと」
宿の部屋、ディックはテーブルの上に紙を拡げる。紙の中央には奇妙な図柄、他には文字が大量に書かれている。
毎日やれとの命令だ。逆らうことはできない。逆らえば苦しんで死ぬ、それだけは確信があった。
「次は何かな……やだよ。こわいよ」
中央に銅貨を置き、3人は震えながら指を乗せる。すぅーすぅーと銅貨は動き、文字を指していく。
「ポペティ村の林檎亭で今日の夕飯を食べる、普通の命令だね。良かった」
ペトラがほっとした声で言う。ディックもほっとした。
「いや、まて。今日の夕飯をポペティ村だって?もう夕方だぞ」
レオが唖然とした声で言う。ポペティ村は確かに近いが、それでも今から夕食を食べに行けるような場所ではない。
「そうか、そうだ! 急がないと!!」
ディックは悲鳴じみた声で叫ぶ。林檎亭はいつまで開いているのか。とにかく急ぐしかない。
3人は部屋を飛び出す。
「どうする? 馬を借りるか」
「いや、手続きにかかる時間を考えたら間に合わなくなる。ポペティなら走る方が早い!」
必死に走る。街の人々の奇異の目が刺さるが、気にする余裕はない。
足がふらつく。当たり前だ。ダンジョンで何度も死にかけて、脱出したときには夜で、野宿を挟んて宿に戻ったところだったのだ。
でも、走るしかない。
街を離れ、街道を走る。夕焼けの美しさが腹立たしい。
ペトラがドザーッと激しい音を立てて転んだ。呻きながら立ち上がろうとするが、よろよろしている。
「ペトラ、おぶされ!」
ディックはペトラを背負い走る。息は苦しい。心臓は飛び出しそうだ。
無理な運動で体は空気を求める。どんどん、日は沈み暗くなっていく。
「レオ!しばらく代わってくれ。ペトラ、レオの背中に」
「はーふーっ。わかった」
ペトラを受け渡たす。とにかく足が痛い。
アルベルトの身体強化魔法があれば、そんなことが頭に浮かぶ。無駄なことを考えるな、ディックは自分に言い聞かせ、走り続けた。
死にそうになりながら林檎亭に着いた。もう店を片付けているところだった。
「すみません、もう閉店なんでまた今度いらして下さい」
「そこを何とか頼む! 何か食べさせてくれ」
ディック達は必死に頭を下げる。何だこいつ等という感じの怪訝な目を向けられるが、引き下がる訳にはいかない。
「何でもいい、一口で構わない! 代金は倍払う!」
「お願い! もう残飯だっていいの!」
縋り付くように、頼む。
「あー、まぁ余ったパンなら売れますが」
「ありがとう! それを!」
半べそをかきながら、3人でパンをかじった。
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ちなみに私はダブルレモンも好きです。