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回復なし支援なし

 アルベルトを追放した翌日、ディック達3人は中級ダンジョンのドミニラ古廃坑に居た。

 もしアルベルトが居たなら、楽に探索できるダンジョンだ。


「と、とにかく慎重に行くぞ」


 ディックが言い、レオとペトラが頷く。回復魔法も支援魔法もないのだ。今までとは状況が全く違う。

 今日はここを第5階層まで降りなくてはならない。もし、達成できなければ……頭に浮かぶ想像を振り払いディックは歩き出す。

 5層は遠い。慎重にと言いつつも、急がなくてはならない。


 抜き身の剣を構えたディックを先頭に暗いダンジョンを進む。坑道はどこを見ても岩ばかり、殺風景で暗い。


「暗いね……そうだよね、廃坑は暗いよね」


 泣きそうな声でペトラが言う。

 明かりは腰に付けたマジックランタンの光のみ。光が届くのは10メートル程、その先に何か潜むのか、不安が足を鈍らせる。モンスターの攻撃で射程が10メートルを超えるものなど、幾らでもあるのだ。

 アルベルトの暗視系支援魔法『宿る灯火』があれば闇をなんら気にせず、地上と同じように進めるのに。


 その時、前から水音を含んだ足音が聞こえて来た。


 何だろか。


 候補は幾つか思いつく。蛙型モンスター『ファングフロッグ』、常に血塗れのアンデッド『ブラッディーグール』、足が濡れているだけの人間の可能性もある。


「前に出るぞ!」


 ディックも相応の経験を積んだ冒険者だ。状況を判断し、決断する。

 何であれ、相手からはこちらが見えている可能性が高い。なにせ明かりを付けているのだ。防御魔法もない状態で"待ち"は悪手だ。


 剣を横にして翳し、走る。気休め程度の防御だ。

 そこに何かが飛んできた。


 ディックは咄嗟に腕を動かし、ソレを剣の腹で受け止める。バチャと飛沫が散った。ディックの身体のあちこちに液体がかかる。同時に立ち込める刺激臭。

 不味い『ファングフロッグ』の酸攻撃だ。理解すると同時に皮膚を焼かれる激痛がディックを襲う。目に酸が入らなかったのだけは幸運だった。


「ファングフロッグだ。酸を食らった。気を付けろ」


 歯を食い縛り、仲間に警告する。足は止めない。

 闇の向こうにファングフロッグの姿が浮かび上がった。脚を伸ばせば2メートル程になる大蛙だ。その名の通り鋭い牙を持つ。


 ファングフロッグが大きく体を膨らませ、酸弾を吐き飛ばす。

 ディックは反射的に横に飛んで躱した。回避に成功、しかし後ろから悲鳴が上がる。


「きぁぁぁぁぁぁ!!」


 ペトラだ。ディックが躱した酸弾が当たってしまったのだろう。


「レオっ治療を!!」


 叫びつつ、ディック自身はファングフロッグに斬りかかる。ファングフロッグも大口を開け、牙をむき出し飛びかかってくる。

 リーチは剣の方が長い。ディックの斬撃はファングフロッグを捉え、大蛙を叩き落とす。

 ディックは金属入りのブーツでファングフロッグを踏みつけると、剣を突き刺しトドメを刺す。

 幸い敵は一体のようだ。しかし勝利を喜ぶ余裕などない。


「ペトラ!大丈夫かっ!?」


 ディックは仲間に駆け寄る。レオがペトラにポーションをかけているところだった。


「痛いっ……痛いよぉ……」


 ペトラはボロボロだ。あちこちの皮膚が焼け(ただ)れている。


「目は大丈夫か?」


「駄目だ、飛沫が少し入ってしまった。ポーションで洗い流しているから平気だとは思うが、暫くは手を引くしかない」


 回復魔法と違いポーションには即効性がない。失明の可能性は低いが、完全に回復するまでに2時間はかかるだろう。目的地は5階層、回復を待つ時間はない。

 アルベルトさえ居れば即時回復できるのに。


 ディック自身も酸を浴びた箇所にポーションをかける。じくじくと、強い痛みが続いている。


「進もう。レオ、ペトラの手を引いてやってくれ」


 吐き出すように宣言し、足を前に出す。

 まだ一層の半ばだ。


「怖いっ怖いよぉ」


 か細い声でペトラが泣いている。


「ペトラ、気持ちは分かるが静かに」


 ペトラの目がやられたせいで、移動速度は落ちる。急がなくては。

 幸いダンジョンの地図はある。全てを網羅したものではないが、下階への最短ルートは把握できている。

 

 しばらく進むと、今度はガチャガチャと硬いものの擦れるような音がした。恐らくはスケルトン系のモンスターだ。


「レオ、ペトラを頼むぞ」


 ディックは剣を構え、前へ出る。

 ランタンがモンスターを照らす。錆びた剣を手にした骸骨達、やはりスケルトンだ。比較的弱いモンスターだが、敵は4体居た。

 逡巡する余裕などない。ディックは斬りかかる。

 渾身の振り下ろし、ガードしようと翳された錆び剣を弾きそのまま頭蓋骨を叩き潰す。先制でまず一体。

 スケルトンの眼孔に敵意の籠もった赤い光が揺らめく。

 弱い敵とはいえ、剣一本で複数を相手にするのは辛い。

 それにヒーラーが居ないのだ。小さな負傷でも後が続かなくなる。

 不安が胸に広がる。

 大丈夫、スケルトンだ。こんなのいつも楽勝だ。自分に言い聞かせる。

 振り回される錆び剣を躱し、隙きを見付けて蹴りを入れる。スケルトンはよろめき倒る。

 仕留める! 心の中で叫ぶ。2体同時に捉える軌跡で、横薙ぎに剣を振るう。1体は後ろ飛んで躱されたが、もう1体は直撃し、背骨を砕く。

 踏み込み、攻撃を躱したスケルトンに追撃する。斬撃はスケルトンの首骨を断ち、頭を落とす。

 と、肩に痛みが走る。起き上がっていたスケルトンに斬り付けられたのだ。だが動ける、筋肉には達していない。

 ディックは最後のスケルトンを力任せに斬り潰した。


「スケルトン排除! レオ、ペトラ大丈夫かか?」


「ああ、大丈夫だ。ありがとう。そっちは?」


「軽症、今消毒ポーションを使う」


 ディックは傷口に消毒液を少量かける。心臓がバクバクしている。たかがスケルトン相手だというのに。


「さぁ、先を急ぐぞ」


 5層は遠い。しかし、行かなければ。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 その子は逃げていた。木の枝が飛んできて、当たると痛いのだ。

 村の裏の小さな山、木々の間をオロオロと走る。


 彼は狩りごっこの獲物役だった。


 飛んでくるのは子供が適当に拾い投げた枝だ。大した威力は無いけれど、それでも男の子は必死に逃げていた。

 当ったときの痛みは小さくとも、狙われるのは怖かった。

 皆の楽しそうな声が追いかけてくる。

 男の子は背の高い草の繁みを見付けた。家の貧しい彼は他の子供より体が小さい。繁みに入ってしゃがんで隠れる。

 幾つかの足音が過ぎていく。「狐はどこだー」「きっとあっちー」騒ぎながら遠ざかっていく。


 男の子は立ち上がり、皆が行った方向とは逆に走り出す。「あっ!いたー」「やをはなてー」彼に気付き"友達"が追いかけてくる。

 男の子は逃げた。逃げて……崖から足を滑らせた。





読んでいただきありがとうございます。

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