気になるし、調べるか
パーティーを追放された俺は、元仲間達が滞在する宿から離れた場所にある宿屋を選び、部屋を取った。ここノアハの街を離れることも少し考えたが、そこまでする必要もあるまい。
荷物を置き、ベッドに腰掛ける。部屋は可もなく不可もなく。飾り気は欠片もないが清潔で、冒険者が泊まるには必要十分だ。
さて、これからどうするか。俺はソロでも低~中ランクのダンジョンなら行ける。それに冒険者を始めたのも神聖魔法の腕を磨きたかっただけだ。冒険に拘る必要もない。
しかし……気になる。ディック達の様子は明らかに異常だった。何かに怯えていた。俺が協会に行っていた8日間に何かがあったのだ。
調べるか。
俺はそう思った。幸い当面の生活に困らないお金はある。
そうと決まれば早速聞き込みだ。人の記憶は急速に薄れていく、早い方がいい。
財布だけ持って部屋を出る。
聞き込みならまずは酒場と相場が決まっている。早足に道を歩いて、いつも元仲間達と酒を飲んでいた馴染みの店へ行く。
まだ日は沈んでいないが、既に開店している。木製のドアをギィと開け、中へ。カウンターに座る。流石にこの時間だと客はまばらだ。
「アルベルトさんいらっしゃいませー」
すぐに店員の少女、トリカがやってくる。
「適当に食事と水を。酒は要らない」
「はいです。今日はパーティーの皆さんはご一緒じゃないんですか?」
「ああ、色々あってな。そうだ、俺は数日この街を離れていたんだが、ディック達に何か変わった事はなかったか?」
「ん~特には。前に来たのは3日前、あれ4日前かな?普通に楽しそうに飲んでましたよ」
「そうか、ありがとう」
俺はトリカに礼を言う。
3日ないし4日前には普通と。もちろん普通に見えただけかも知れないが、一つ情報が得られた。
少し待つと、パンと燻製肉、キャベツの酢漬けの載った木製の大皿が出てくる。適当に腹に詰め込む。
酒場の客には見知った顔が2人程いた。そいつらにも話を聞いたが、そちらからは何の情報も得られなかった。
続いて俺は冒険者ギルドに向かった。中に入ると受付嬢に話しかける。
「お疲れ様。つかぬことを聞くけど、俺が協会への手続きで留守にしてる間、ディック達は何か任務をこなしていたか?」
「こんにちは。アルベルトさん。ええ、まぁ比較的簡単な採取依頼とかをやってた筈ですけど、どうしました?」
「いや、ディック達の様子が変でな。気になっただけなんだ」
「そうですか。でも特に変わったことはなかったですよ。依頼品以外にも色々見付けたみたいで嬉しそうでしたし」
「どんなものを見付けたのかは分かるか?」
「いえ、そこまでは知りませんよ」
少し怪訝な顔をされてしまう。ここまでだな。
「そうか。ありがとう」
そう言って俺はギルドを後にした。
次に向かったのは冒険者から素材の買取をしている店だ。
依頼をこなす中でディック達は何かを手に入れたらしい。なら、売りに来たかもしれない。
店に入る。店内は薄暗い、素材や物品の中には太陽光で劣化するものもあるからだ。
カウンターの奥に店主のロバートが気怠げな顔で座っている。
「ロバート、今日は聞きたいことがあって来た」
俺はパーティー追放から今までの流れを一通り説明した。
「そう言う訳で、教えてくれ。何か知らないか?」
「おいおい、お前はもうディック達とは仲間じゃないんだろ。他パーティーの情報なんて言えないぜ」
カウンターに頬杖を付いて、ロバートが言う。
「ロバート、俺がパーティーを追放されたのは今日だ。昨日まではパーティーの一員だせ?聞きたいのは俺がパーティーメンバーだった頃の話だ」
言いながら俺はカウンターの上に金貨を一枚置く。ロバートは金に弱い。
「屁理屈だな。まぁしかし悪意は無いようだし、屁でも理屈だ」
金貨を懐に仕舞いながら、ロバートは言う。
「薬草やモンスターの爪を売って行ったぜ。何の変哲もない素材だ。だが、一つ鑑定したが買取っていないものがあった。異世界の銅貨だ。随分と珍しい品ではあるが、値付けが難しくてな。俺の提示額が納得いかなかったみたいで持って帰ったよ」
「ありがとう。その時は怯えた様子とかはなかったんだな?」
「ああ、いつも通りだったぜ」
「ありがとう。感謝する」
俺はそう言って店を出た。