ガタガタ震えて追放宣言
全体で2万字弱の短い作品です。
最後まで書いているのでエタることはないはず。
「あ、アルベルト・ブラウエル、お前をパーティーから追放する」
長期滞在している宿の食堂で、パーティーリーダーの剣士ディックが突然そう言った。
「どうした? 何を言っているんだ」
俺は困惑してそう返す。俺はパーティーの回復兼支援役として活躍してきた。ギルド認定のパーティーランクもAになったばかりだ。
神聖魔法協会への手続きで数日留守にしている間に何かあったのだろうか。
「こ、言葉通り、だ。お前はパーティーから出ていけ」
ディックの顔は青く、言葉は震えている。槍戦士のレオも黒魔術師のペトラも、その表情は恐怖に染まっている。
「なぁ、何があった? 突然どうした? 数日前まで何の問題もなくやってきたじゃないか」
「うるさいよっ! 追放って言ったら追放なんだから、どっか行って!」
赤茶色の長い髪を振り乱してペトラが叫ぶ。キョロキョロと目を動かし、視線は彷徨っている。
彼女はクリッとした目でカラカラと笑う明るい子だった筈だ。その愛くるしい雰囲気は今は欠片もない。
「そうだ、出ていけ。いや、頼むから出て行ってくれよ」
そう言うのはレオだ。両手を合わせ、指をせわしなく動かしている。
「これ以上の言葉は不要だ。消えろアルベルト」
「ディック……分かった。出ていくよ。今までありがとな」
この調子ではどうにもならない。リーダーであるディックには俺をパーティーから除外する権限が確かにあるのだ。
仕方なく、俺は元仲間に背を向け、歩き出す。ちょうど協会から戻ってきたところだったから荷物は全て手元にある。
こうして俺は冒険者パーティーを追放された。
◇◇ ◆ ◇◇
「素直に出て行ってくれて良かったな」
アルベルトが宿から出ていき数秒後ディックはそう言って息を吐いた。
「そうだな……もっと粘られるかとも思ったが」
「ううっ、もうやだ……この先どうするのよヒーラーなしで」
ポロポロと涙を零すペトラ。
「どうにもならないだろ。こうするしか、従うしか」
頭を抱えてレオが言う。
「その銅貨捨てて逃げるとか」
ペトラが言った瞬間、鼻に微かに獣の臭いがした。3人にしか感知できない臭い。いる。それは間違いなくそこにいる。
「やめろ。分かっているだろう。無理だ」
子供が狐の鳴き真似をするような声が微かに聞こえた。昔、どこかで聞いた声のような気がした。