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溺れる灰  作者: 水園ト去
退屈な祈り
85/114

5-1

 ジュペールに戻ってきた。

「ここだ」

 死体運びの家。

 夜の街にであっても、この家の周りは特に静まっていた。窓のない壁。飾りのない扉。屋根は補修された跡。牢獄のような印象だった。

「俺が話をするから、あんたは何もしないでくれよ」

 アンナに念を押した。

「さっさと終わらせろ」

「なんで偉そうなんだよ」

 エリオットが扉を叩いた。「ロビン、いるか?」

「出ないな」

 もう一回、扉を叩く。

 出ない。反応がない。

「どけ」

 アンナが扉に手をかけた。

 開いた。鍵がかかっていなかったのか。

「無用心な奴だな」とアンナ。

「いや、もっと心配なことあるだろ」

 鍵のかかっていない扉。返事もない。

「死体運びの名前はロビンか?」

「そうだ」

「つまらん名だな」

「文句つけさせたら天才だな、あんたは」

 家の中へ入った。

 酒瓶だらけだ。

 アルコール臭が充満している。

「あれがロビンか?」とアンナ。

「つまんないこと言うなよ」

 テーブルに突っ伏していた。下がった手には酒瓶。

 鼾が聞こえる。

「仕事してないみたいだが大丈夫か?」

 アンナが続けて言った。

「検証しなくちゃな」

 エリオットは近づいた。「おい、ロビン。起きろ」

 身体を揺すった。

 顔をこちらに向けた。目は瞑ったままだ。鼾は続く。

「不幸ではなさそうだ」

 エリオットはアンナに言う。寝顔は悪くない。

 茶色く短いクセ毛に無精ひげ。緑色の上着を着ていた。片足だけ靴を履いていない。

「早く起こせ」とアンナ。

「起きろ」

 後頭部を引っ叩いた。

 びくんと身体を震わせて、ロビンは上体を起こす。

 開いた目で辺りを見渡し、エリオットとアンナでそれぞれ一回ずつ目線を止めた。

「エリオット」

 ロビンが言った。「エリオット・アングストマンなのか」

「違う」

 アンナに向かって言ってた。

「俺はこっちだ。ロビン」

「あぁ。ごめん」

 ロビンが椅子から立ち上がり、エリオットに握手を求める。

「久しぶりだな」とエリオット。

「どのくらいだ。十年とか、それくらいだよな。本当に時間が経つのは早い」

 ロビンは顔を崩して笑った。

「少し飲みすぎじゃないのか?」

「あぁ、これ。これはまぁ色々だ」

 ロビンは言葉を濁す。「それで何をしに来たんだ? 飲むか?」

「いや、飲まない。実は頼みがあってきた」

「ネクロポリスまで案内しろ」

 アンナが言った。

「言うの早いよ」

 エリオットは頭を抱えた。

「お前が遅い」とアンナ。

「エリオット、その女は誰だ?」

 ロビンが訝しげな視線を送る。

「仕事仲間だ。名前はアンナ」

 エリオットが紹介した。「気にしなくていい」

 アンナが舌打ちした。

「では、改めて聞くが頼みとは?」とロビン。

「ネクロポリスに行きたい。場所を教えてくれ」

 エリオットが言った。

「同じ頼みなら、女性から聞きいたことにしたいんだが」

 ロビンが言った。「それは出来ないんだ。すまない、アンナさん」

「なんとかしてくれ。切羽詰ってる」

「まず一つ。ネクロポリスに入るには、これがいる」

 ロビンが上着の袖を捲くった。金色の腕輪をしている。「この腕輪が、墓守り人への鍵になっている。これがなければ入れない」

「じゃそれを貸せ」とアンナ。

「無理だ」

「いくらだ?」

「これは金じゃない。だが――、私が一緒にいれば入れる。死体運び見習いという身分にすればいい」

「じゃそうする。だからネクロポリスへ連れて行ってくれ」

 エリオットが言った。

「けどやっぱり無理」

「なぜ?」

「私は街から出れない」

「足があるんだから出れる。歩けよ、ロビン。お前なら出来る」

「それが、ちょっとした面倒を起こして、処分を受けたんだ」

「何をした」

「死体をさ――。ほら、ちょっとな。色々あって――」

 ロビンが言いにくそうにする。

「お前、まさか――。犯したのか?」

 エリオットが言った。

「違う。そうじゃない。死体を食べたんだよ。ちょっとだけ」

「そっちのがやばいだろ」

「腹が減ってて仕方なかった」

「パンを食うのとは違うんだぞ」

「裁判所からの命令なんだ。街から出たのがばれたら、もう死体運びの仕事には戻れない」

 ロビンが物欲しそうにエリオットのことを見た。

 視線が刺さる。

「お前を食べたいみたいだぞ」とアンナ。

「違う。俺にはわかってる」

 エリオットが言った。「こいつとは古い付き合いだ」

「なぁエリオット――。昔、俺が言ったこと覚えてるか?」

「俺と駆け引きか。こう見えても、俺は今、商人なんだ。手ごわいぞ」

 儲かってないことは秘密にした。

「儲かってない商人だ」とアンナが言った。

「台無しだ」

「なぁ、エリオット。あんたはまだ首斬り親方たちと関係はあるんだろ?」

 ロビンが探るように話をしてくる。

「うちの家計は代々、首斬って生きてる」

「そこでだ――。覚えてるだろう? 俺が昔、言ったこと」

「それが条件か?」とエリオット。「それを俺が飲めば、お前は俺たちをネクロポリスに連れて行ってくれるのか?」

「もちろんだよ」

 ロビンの引き笑い。黒い歯茎が見えた。童顔だが目尻の寄った皺の数を見ると、歳を重ねた大人の部分が見える。

「いいぞ。約束する」とエリオット。

「ちなみに条件って何だ」

 アンナが聞いた。

「逆立ちしながら口笛を吹く方法を教えるだよな? ロビン」

 エリオットが言った。

「違う。俺を死刑執行人にしろってことだ」

 ロビンが大声を出した。「ずっと憧れてたんだ。あの仕事に。小さい頃からずっとあんたたちみたいになりたかった」

 ロビンは目を輝かせる。「死刑執行人にしてくれれば、仕事の心配もしなくていい。街を出たことがばれて、死体運びの仕事を失ってもかまいやしない。だって俺は死刑執行人になってみんなの前で、みんなの注目を浴びながら、合法的に首を斬れるんだから」

「な? マジでやばいだろ? こいつ」

 エリオットはアンナに言った。

「確かにな。だが死体を運ばせるには適任だろ」

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