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溺れる灰  作者: 水園ト去
退屈な祈り
77/114

4-2

 シミョール通り。四つのジョッキ亭、赤煉瓦館、義手の天使亭、白馬亭、大釜亭を通り過ぎる。通りを行き交う人々の層は明らかに柄が悪く品がない。都市の恩恵から漏れたならず者。物乞い、放浪者、病人、娼婦、酔っ払い、阿片中毒者、育ちも性格も悪そうな奴らばかりだった。

「カジート地区と同じだよな」とエリオット。

 自分の住んでいるマリアノフの街を思い出す。割られた窓、壊れた屋根、カビだらけの壁とそこら中にある糞尿。

「昔、私が来たとき、この通りはこんなんではなかったな」とアンナ。

 別の思い出に浸っているようだ。

「俺が来たときはこの状況だったよ」

「で、ならずの王はどこだ?」

「それだ」

 エリオットのすぐ手前にある民家だった。横には裏の庭へ続く小道がある。

「ノックすると足と性格の悪い爺さんが出てくる。悪魔じゃないから殺すなよ。そいつがならずの王だ」

「忠告ありがとう」

 アンナが扉を叩いた。

「誰の性格が悪いって」

 扉が開いた。中から老人が顔を出す。「うちの扉は薄いんだ」

 老人は続けた。前歯が欠けており、禿げ頭には茶色い染み。「けっ。エリオットか。久しぶりだな。入んな」

 足を引き摺りながら、家の奥への消えていった。

 エリオットはアンナを見る。

「いい出会いだったな」とエリオット。

「さっさと入んな。いつまでも扉開けんじゃないよ。さみぃんだ。けっ」

 部屋の奥から老人の声がした。言われた通り、家へあがった。

「あの、けっ、ってのはなんだ?」とアンナ。

「知らん」


   ■


「金払え けっ」

 老人が言った。

 ならずの王の部屋は質素だった。テーブル、椅子、黄ばんだ食器。窓は汚れて、光が入り辛い。室内には尿の匂いが漂う。隅に鼠の死体。魔除けではなさそうだ。

「いくらだ?」とアンナ。

「いいから払え」と老人。

 アンナはエリオットを睨んでから、金貨を一枚テーブルに置いた。

「あんた、本当にならずの王なんだな?」

 アンナが言った。

 ならずの王は、街の物乞いたちを束ねるのが仕事だ。市参事会から正式に承認も受けている。物乞いたちは街の至るところにいる。広場、教会、目抜き通り、富裕層の溜まり場、貧困街。それは天然の目であり耳となり、全ての噂、情報がならずの王に集約される。

「この街には三人のならずの王がいる。わしはそのうちの人だ。けっ」

 複数人いることは珍しくない。

「四人じゃなかったのか?」

「けっ、一人死んだ」

「寿命か?」とアンナ。

「違う。けっ」

 殺されたのか。

 老人はテーブルの金貨一枚を取った。「今の情報で一枚分だ」

「仕組みはわかった」

 アンナがもう一枚金貨を出した。「ニベス会の男がジュペールにいる」

「けっ。それで何が知りたい」と老人。

「ニベス会の居場所だ」

「もう一枚だ。けっ、けっ」

「ほら、拾え」

 アンナはもう一枚の金貨を床に落とした。

 老人は憮然として動かない。拾おうとしない。

 どうしてこう喧嘩腰なのだろうか。エリオットは「すまん」といい、金貨を拾いテーブルに置いた。

「エリオット。けっ」と老人が言った。「ニベス会の情報は教えてやらん。けっ」

「ふざけるなよ」

 アンナが言ったが、老人は一方的に喋る。

「だが金貨と私の願いを叶えたら教えてやる。けっ」

「貴様は少女か。可愛い女の子が、わたしの願いを叶えてじゃないんだぞ」とアンナ。

「ニーナ・アマドールを殺せ。けっ。ニーナには懸賞金がかけられてる。私はその金が欲しい。その金がニベス会の情報料だ。けっ」

「ニーナ・アマドールって、あのニーナ・アマドールか? 錆亭で馬の世話をしてるニーナ・アマドールか?」

 エリオットが言った。早口になっていた。

「けっ、そうだ。お前の知り合いだよな。けっ」

「あいつ――」

 エリオットは頭を抱える。

「どういうことだ?」とアンナ。

「俺の元彼女だよ。ニーナは」

 ニーナ。元恋人の顔が浮かんだ。なんでこんなことになってるんだ。

 老人は二枚の金貨を取った。


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