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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
7/114

2-1

「準備はできたか?」

 朝になりアンナと合流した。第四市門近くにある居酒屋の前だった。居酒屋はまだ閉まっている。

「バッチリだよ。あんたは?」

「馬を二頭用意した」

 併設している厩へ回り込む。

「これか? 小さいな」とエリオット。「猫は?」

「猫は家だ」

「飼うのか?」

「違う」

「家に置いたんだから飼ってるだろ。それとも喰うのか?」

「殺すぞ」

「はーい。すいませーん」

「馬はあれだ。あれで移動する」

 茶色と黒の馬が二頭。アンナの話だとこの二頭だという。

「これで二千グルテンだ」

 アンナが鞍を載せる。

「二頭で?」

「一頭だ」

「高い。他のより小さいだろ」

「アラインガルド産の馬だ。身が締まってとにかく速い」

「なるほど」

 アラインガルドはミッドガルドの東に位置する同盟国だった。大戦でもその名を馳せたバンディッツ騎兵隊の実力は誰もが知るところだ。「アラインガルド産ならそりゃするわ」

「お前の金だからな」

「は?」

「借金が増えたということだ。一万六千グルテンだ」

「あんたの馬の分も入ってるだろ」

「そういう計算は早いんだな。馬鹿じゃないという点は評価してやる」

「指を使って数えた。知らない? 簡単だよ」

「やはり馬鹿だな」

「経費は折半にしよう」

「私に命令か?」

「奥ゆかしくて控えめな提案だ」

「考えておこう」

 アンナが黒い馬をみる。「乗れ、行くぞ。市門が開く。こっちの馬の名前はルドルフ。そっちはエルモアだ」

「馬には名前をつけるのか?」

 エリオットは笑った。「猫にはつけてないのに」

「だめなのか? あぁん」とアンナ。

「案外かわいいんだな、あんた」

「クソが」

 尻を蹴られた。

 それから黙ってエリオットも馬に乗った。第四市門を抜け、街の外へ。マリアノフ街道を南へ進みクショーノフを目指す。


   ■


 街を抜けてすぐは居酒屋や醸造所、小さな村などが点在する。

 それらがなくなってくると、街道の体裁もなくなり、ただ獣道のような筋が土の上に続いているだけになる。

「クショーノフまで今夜中に着くぞ」

 走りながらアンナがいった。

「無理だ。三日はかかった」

 絨毯を仕入れたときはそうだった。

「この馬は速い。休みなしで走れば可能だ」

「馬が潰れる。休まないと駄目になる。こいつは二千グルテンだぞ」

 それに眠りたい。

「時は金なり。私は馬を買ったんじゃなく、掛け替えのない時間を買ったんだよ」

「あんたの価値観はわからねぇ」

「だからいつまでも貧乏なんだ。これは投資だよ」

「頭が痛くなる」

「どうしようもない馬鹿だな、お前は。話してると馬鹿がうつる」

 アンナを乗せた馬が加速した。

「ふざけんなよ」

 エリオットも後を追う。


   ■


 夜の十時過ぎ。クショーノフに着いた。途中の集落で馬への飼葉を盗んだとき以外、休みはなかった。

 クショーノフはマリアノフのような城壁はない。小規模の炭鉱町だった。街道沿いにある詰め所で、通行税を払えば誰でも入ることができる。

「分け前は?」とエリオット。

「借金の返済に回った」

 アンナがいった。

 厩に乗ってきた馬を売った。二頭とも相当疲れていて、もう走れない。アンナが厩の主人と話をつけて、二頭合わせて七百五十グルテンで捌いた。

「それを聞いたらさらに腹が減った」

「食事をしたいのか?」

「あぁ。あと眠りたい」

 クショーノフの目抜き通りにいた。居酒屋から明かりと男の歌声が漏れてくる。夜はまだまだ長く続きそうだ。炭鉱町だけあって野太い声しかしない。街灯はあるが、マリアノフほど多くない。火が灯っていないものもある。衛兵の姿もない。典型的な田舎町だ。

「クショーノフに来たことは?」

 エリオットがアンナに聞く。

「ある。ここに来るまでお前に道を聞いたか?」

「あんたは何でも知ってるし、何でもやってる。そのうち世界も手に入れるさ」

「食事は仕事の後だ。金を手に入れに来たんだぞ」

 ダレン通りのル=ゴフ商会へ向かって歩く。

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