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溺れる灰  作者: 水園ト去
退屈な祈り
60/114

1-3

「質問だ」

 アンナが言った。

 トマスの部屋にいた。机、聖書、ベッド。シーツは綺麗なままだ。狭く簡素な部屋で、特に見所がない。

「好きにしろ」とロドマン。

 エリオットも含めて大人が三人いると窮屈だった。部屋の扉は開けっ放しになっている。窓から外を見る。朝日はまだだった。月も見えない。

「トマスが出かけることは?」

「外へか?」

「さっさと答えろ」

「説法のために外へ出ることがある。特にトマスは、小さい集落や村なんかを回ってたよ。都市からはぐれた人間に祈りと信仰をとか言ってな」

 ロドマンが言った。くだらなそうに言う姿は信仰からかけ離れている。

「最後に行った場所はわかるか?」とアンナ。

「知るかよ」

「調べて来い」

「待ってろ」

 ロドマンが部屋から出た。

「一人いないだけで随分違うな」

 広く感じる。エリオットが言った。

「見せろ」とアンナが言った。「何を見つけた」

 エリオットは足元を靴の裏で叩く。床が鳴った。反響がある。

「鼻がきくな。開けろ」

「命令かよ」

「私がやるのか?」

「もちろん俺がやる」

 エリオットが言った。

 跪くと床の板と板との隙間に指を掛け、引っ張った。剥がれる。手紙が出てきた。

「寄越せ」とアンナが引っ手繰る。

「ロドマンがいても良かったんじゃないか」

「あいつも盗人の仲間かもしれない」

 アンナが言った。床から取り出した手紙を広げる。

「なんだって?」

「恋文だ」

 エリオットは受取る。


 あなたに渡したこの手紙を書いているとき、私は幸せと当時に不幸を感じます。

 この手紙を渡すということは、あなたがまた村から去ってしまうということだから。

 修道院では私のことを忘れてしまうのでしょうか。

 私はひと時もあなたのことを忘れたりしません。

 この思いは溢れるばかりで、私の胸を常にいっぱいにしてしまいます。

 帰りの道中、寒さにお気をつけて下さい。

 あなたが立ってから、こちらはとても寒い日々が続いています。

 村から見えるペルノ山が白く染まっていたのもあなたも見たでしょう。

 とにかくあなたに会いたい。恋しくて、早く会わないと私は何もできません。


「トマスってどんな顔してるんだろうな。男冥利に尽きるよ」

 エリオットは言った。

「寒いって書いてあるから、最近のことだろうな」

 季節は冬だ。

 ロドマンが戻ってきた。

「トマスの説法先は?」とアンナ。

「ウトラだ」

 ロドマンが言った。得意そうだった。

「それはどこだ?」とエリオット。

「ペルノ山の近くの村らしい」

「なるほど」

 エリオットはアンナを見る。

「そこへ行く。馬だ」

 アンナが部屋から出た。


   ■


 ローゼンベルク修道院を出て馬を走らせた。

 イブラヴィーチ川に沿って北上する。

「クソ寒い」

 太陽は昇っていない。暗い中、ウトラを目指す。

 エリオットは愚痴を吐き、アンナを見た。

「夏まで待つか?」

 並走するアンナが言った。

「出来ることならそうしたいよ。ウトラまでどれくらいだっけ」

「聞く限りだと一日くらいか。この川を上ればいつか着くらしい」

「聞いて損した。どう思う? この事件」とエリオット。

「さぁな」

「トマスはウトラにいると思うか?」

「いないと思う」

「俺もそうだ」

 たぶんトマスはウトラにはいない。

「だが私たちはウトラに向かってる」

「女は男を狂わせるからな」とエリオット。

「妹はどうだ?」

 エリオットの妹、カテリーナのことだ。

「嫁に行った」

「一人で寂しいな」

「俺も女が欲しいよ。狂いたい」

 エリオットは言った。「たぶんトマスは、あの恋文を送った相手に唆されたんだと思う」

「女は賊だったのかもな」

「だとしたらトマスはもう用済みにされてるかもな」

「手間が省ける。救いたいのか?」

「いや、別に。けど、トマスの手紙を読むと悪い奴じゃなさそうだし」

「同情か」

「奴にとっては人生で初めての過ちだったかもしれないって思うと、命を奪う必要まであるのかとは思うよ」

「どんな奴かは会えばわかる」

「そりゃそうだ」

 馬を走らせた。「男前だったら腹が立つだろうし」


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