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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
48/114

7-5

 アンナが走り出し、兵士の中へ飛び込んだ。回転し裏拳。そのまま勢いで体を翻して、顔面に回し蹴り。兵士の脇に差してある剣を奪い、その奥にいる兵士の喉へ突き刺す。後ろに飛び掛ってたやつの攻撃を屈んで回避して、倒れた相手の顎を踵で踏みつけ破壊し、左右の兵士の喉を掴んで目の前で頭をかち合わせ潰した。

「エリオット、先へ進むぞ」

 アンナは相手を殴りながら、叫んだ。

「とんでもねぇな」

 エリオットも必死にアーシュ騎士団の兵士を相手していた。剣を振る。昔は自分の腕のような感覚なるまで、この剣で鍛錬をした。一方、新興派閥アーシュ騎士団の兵士は訓練が浅い。勝てる相手ではあった。

「クソ――」

 だが量が多い。一対一を繰り返しているが、どこまで体力が続くかわからない。力を振り絞って、剣を振り上げ、兵士を切り倒した。ハンスからの拷問で負傷した左腕も痛む。傷口が広がって血が滲んできた。

 アンナに追いつく。背中を合わせた。

「どうだ?」

「これはきつい」

 呼吸が辛い。黒い仮面を外した。

「やばそうだな。できるか?」

「正直、自信がない」

「ほんとお前はダメだな」

 アンナが相手を殴りながら微笑む。「私が妹のところまで連れて行ってやるから堪えろ」

「ありがとな」

「感謝はあとだ。クソボケ」

 アンナが吼えた。

 腹の底を震わせて獣のように喉を鳴らす。下品な叫び。首から顔にかけて血管が走るように浮き上がる。黒い血が肌を這い、黒目が広がり瞳の全てを覆う。

 姿は異形。人間ではなく悪魔に近い。

 今までよりも素早く、そして力強い。宙を舞うのではなく、空を滑るような早さで攻撃を繰り出し、相手の目を抉り、口を裂き、喉を掻っ切り、腕を引き千切り、胸を貫く。重馬車のような強引さでアーシュ騎士団の兵士をなぎ倒し、道をあけていく。

「エリオット、先へ行け。細工を調べろ」

 アンナが叫んだ。

 エリオットは突っ走る。高廊の入り口へ。礼拝堂の脇にある階段、扉の開いた踊り場へ駆け込んだ。

「アンナ、早く来い」

「命令すんな」

 半開きの扉。アンナが滑り込んできた。すぐに扉を閉める。エリオットは背中を預けて、扉を抑えた。背後には兵士たちが扉を破ろうと力を加えてくる。

「エリオット、どけ」

 踊り場にあった棚をアンナが持ち上げていた。エリオットは飛び込むようにして避ける。アンナが扉に棚をかけて、封鎖した。「そっちの机も寄せろ」

「結構重い」とエリオット。

「根性出せ」

「出しまくりだよ」

 机を棚に押しつけた。

「よし、時間は稼いだぞ」

 アンナはいった。「いけ」

 階段をあがった。

 交唱のための部屋へ出た。中央には主祭壇がある。先には高廊。ついさっきまでヴァレンシュタインとカテリーナがいた。

「奴らはそこの高廊から姿を消した。たぶんここにきているはずだ」とアンナ。

「だけど階段を下りた先の入り口は一つで、俺たちが封鎖した」

 棚と机で抑えた扉だ。

「落ち着け。隠し扉があるはずだ。細工を調べろといったろ。教会なら必ずある。探せ」

「なんか俺たち馬鹿みたいだな」

「馬鹿はお前だけだ。いいから探せ」

「どこだよ」

 見渡した。精巧な意匠が施された壁と椅子。床には幾何学的な模様が描かれたタイルが敷き詰められていた。

「必ずある」

「そんなのない」

「いや、絶対にある」

 アンナがいった。

 壁に組み込まれた柱をなぞる。柱頭には葉と蔦を絡ませた意匠が施されていた。

「これだ」

 柱の中ほど、腰辺りに十字架が彫られていた。指が入るほどの窪みもある。「これが取っ手だ」

 アンナが十字に指を掛けて回す。柱が開いた。エリオットが近づく。

「地下だ」

「どこへ続いてるんだよ」とエリオット。

「だから地下だ。下だよ。行くぞ」

 扉が屈んでやっと入れるくらいの大きさだった。階段は急で狭く、壁と足元は湿って滑りやすい。

「音、聞こえるか?」

 エリオットがいった。

「あぁ」とアンナ。「水の音がする」

「地下水脈と繋がってるな。もしかしたら市庁舎の牢獄まで行けるかもしれない」

「マリアノフの地下は迷宮だからな」

「地下聖堂があるって話は?」

「さぁな。けどあっても不思議じゃない。そもそもマリアノフは遺跡の上に栄えた都市だ」

「急がなくちゃな。地下に迷い込まれたら面倒だ」

「休憩するつもりだったのか?」

「ワインでも持ってくればよかったよ。ここは狭いし空も見えない。飲むには最高だ」

「お兄様――」

 カテリーナの声がきこえた。急ぎで階段を降りきる。狭い通路に出た。中腰の姿勢でいなければ頭を天井にぶつけてしまう。

「カテリーナ」

 通路の奥へエリオットは叫ぶ。「今行く」

 先では橙色の明かりが揺れていた。

「ほら、走れ」とアンナ。

 ケツを叩かれた。

「わかってるよ」

 走った。

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