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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
43/114

6-5

 扉を開け、階段を下りる。

「視界がほとんどないな」とエリオット。

「蝋燭を探せ」

 狭い通路だった。壁は土がむき出しで、真っ暗闇だ。埃っぽいく、かび臭い。確かにあのプライドの高そうな女は来たりしないだろう。

 手探りで先へ。

「なんか広い感じだな」とエリオット。

 空気の雰囲気がかわった。暗闇の中でも空間が広がったのがわかった。

「火口箱だ」

 アンナがいった。

「ほら」と手渡す。

 視界が開けた。アンナが蝋燭に火をつけていた。

「そこそこ広い」とエリオット。

 それなりの空間だった。倉庫のようでもあり、作業所のようでもあり、書斎のようでもある。「男の仕事場って感じだな」

「秘密の場所だ」

 アンナがいった。

「ということは秘密のものもある」

 エリオットは部屋を見渡す。本棚、机、詰まれた箱。どこにあるのか。

「何か証拠になるようなものを探せ」

「証拠って?」

「そんなこともわからないのか。帳簿か手紙、その類だ。素早くいくぞ。どうせすぐにあの馬鹿女は見つかる」

「俺たちって忙しかったんだな」

「口じゃなくて手を動かせ」

 襲うように二人で取り掛かった。本棚の本を崩すようにして出して、片っ端から捲る。箱は封を開け、中身を引っ繰り返す。机の引き出しも同じく、そのまま引っ張り出してさかさまにして、中身をさらった。

「アンナ」

 エリオットが手を止めた。机の横にあった箱をさらっていたときだった。くしゃくしゃにされた手紙が捨てられていたのだが、その中から気になるものを見つけた。

「あったか?」

「これ読んでくれ」

 アンナに渡す。

「なるほどな」


 アルベールへ


 阿片を捌いた。金を渡す。新しい阿片も必要だ。

 ヨムンゲル砦近くに十字路がある。いつもの場所だ。森に入って取引だ。金曜日の夜二時に会おう。

 あと、手紙ってのは面倒だ。直接会って話せばいいだろう。俺の部下は市内にもいる。

 

                             ホーボー


「ホーボーってのはヨムンゲル砦を占拠してる傭兵団の頭だよ」とアンナ。「馬鹿だが字は書けるのか。それとも賢い部下がいるのか」

「知り合いか?」

「奴は賭場を開いてる。つまり客層が被る」

「俺を見るなよ」

「だがいいぞ。アルベールは阿片を横流しして私腹を肥やしてた。ほら」

 今度はアンナから冊子を渡される。

「これは?」とエリオット。

「ご存知、裏帳簿だ。阿片、兵器、奴隷。全ての裏取引が記録されてる」

「完璧だな」

「これで弱みは握った。あと気になるものもあった」

「もう十分だろ」

「こいつを見ろよ」とアンナ。

「ナイフか」

 アンナは刃を持ち柄を見せてくる。

 柄には魔導が刻まれていた。

「エドゥアルドの家にあったナイフを覚えてるか? ヴェトゥーラが使う魔導の文法が刻まれたナイフだ」

「同じものなのか?」

「あぁ」

「関係が入り組んできたな。考えたくないよ」とエリオット。

「働いてるふりだけはうまいな」

「あ、アンナ」

 エリオットはいった。

「なんだ」

「俺たち、見つかったみたいだ」

 アンナの肩の向こうに男が立っていた。大男だ。アンナが振り返り確認する。

「よう」と大男。

「確かどっかであった誰かだよな」とアンナ。

「ハンスだ。エーリカの屋敷で会った」

 酒臭い。喋る度に大口が開いて、黒い歯が見える。汚い男だ。

「苗字はないのか? それとも忘れたか?」とアンナ。

「ゲルンだよ」

 ハンスが唾を吐き捨てる。

「挑発すんな」とエリオット。

 ハンスの奥に警備兵が二人いた。

「三対二だぞ。お前ら」とハンス。

 四角い顔を傾けて首を鳴らす。このなり、この仕草で弱いはずがない。

「数もわかるのか。上出来な頭だな」

 アンナが拳を撫でた。

「舐めるな」

 ハンスがいった。

「アルベールはどこだ?」

 アンナがいう。

「あいつは忙しいみたいだ」とハンス。

「なるほどな。おい、エリオット、こっちにこい」

 アンナに手招きされる。エリオットはアンナに近寄った。

「おい、ハンス・クソ馬鹿・ゲルン。これをやるよ」

 アンナがエリオットの肩を掴んで、ハンスに向かって投げた。

 エリオットの視界がひっくり返る。衝撃。ハンスと衝突した。壁と天井が見える。アンナが壁を蹴り、弾みをつけて後ろにいた衛兵の顔に膝蹴りを見舞っていた。残った一人にも顎に拳をめり込ませる。

「じゃあな、エリオット」

 アンナは走り去った。

「え、――。待てよ」

 エリオットが立ち上がると、足をつかまれた。すぐに倒れる。引っ繰り返されて、ハンスが馬乗りになった。

「そういうことか」とエリオット。

 馬乗りになったハンスが腕を振り上げて微笑んでいた。

「文明人らしく話し合おう」

「無理だ」

 殴られた。

 何度も殴られた。

 視界の輪郭がぼやけて、黒く滲んでいく。

 いつか目の前が暗闇になった。声も出ない。痛みがなくなり、顔がただ熱い。鼻血が詰まって呼吸が辛い。喉へ何かがこみ上げてくるが、何も出せない。

 クソ――。

 このままじゃ――。

 気を失った。

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