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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
34/114

5-3

 服がたちまち水を吸い、鉄のように重くなる。波打つ濁流の中で、顔を出すのすらおぼつかず、ひたすらに呼吸を求めて身体を捻った。

「エリオ――」

 アンナがエリオットの名前を呼んでいる。入って早速、二人は離れた。

「アンナ、こ――、こっちだ」

 川の流れに逆らうことは出来ない。手を伸ばしても、距離は縮まらず、気まぐれな水流に身を任せるしかない。

 アンナの顔は消え、しばらくすると浮かんでくる。だがまたすぐに沈み、浮上のたびにエリオットの名前を何とか叫ぼうとし、言葉にならなず喉を擦ったような声をあげる。

 川はマリアノフの城壁を潜り、市の外へ。エリオットとアンナもその流れに乗って、市外へ出た。

 アンナのほうへ、と思うがエリオットも強い流れの中で体力を消耗していた。次第に彼もアンナのような状態となって、手足が動かなくなっていく。そのまま意識の糸がぷつりと切れた。


   ■


 目を覚ました。体中の関節が軋む。体が重い。一度、立ち上がったが再び倒れこみ、仰向けになった。どれくらい時間が経ったのか、どうやらまだ夜だ。木の隙間から月が覗く。

「アンナは――」

 どこにもいない。離してしまった。呼吸を整えてから、立ち上がる。腹が減った。疲れが酷い。

「おい、アンナ」

 声を出した。

 返事はない。川沿いを歩いて下流へ進む。普段の半分くらいのペースだ。「どこだ、どこにいる?」

 雑草が擦れる音。

 立ち止まった。エリオットは辺りを見回す。

「クソ――」とエリオット。

 唸り声がきこえた。木々の影から姿を現したのは狼たちだった。群れをなしている。目視できるだけで四頭。

 剣はどこかへいった。川辺に落ちていた木の枝を掴んだ。腕くらいの長さで、これで自分を守れるとは到底思えない。

 整えた呼吸が再び荒くなる。狼たちは半円状に並び、エリオットの周りを行ったり来たりを繰り返す。品定めしているのだ。

「あっちへいけ」

 枝を左右に振る。もう一度、川に飛び込むのも選択肢にあるが、もう体力が持たないかもしれない。こんな森の中で死にたくない。

 一頭の狼が動かずに、エリオットをじっと見つめている。群れの長か。黒い毛が目立つ。

 他の狼たちの唸り声が大きくなる。いよいよか。

「こっちにくるな」

 人の言葉が通じる相手とは思えない。

 狼たちが距離を縮めてくる。

 一頭だけ殺しても意味がない。戦いになったら全頭殺す必要がある。できるのか、いや無理だ。できない。

 黒毛の狼が、牙を見せ一際大きい唸り声を出す。

 合図だった。

 他の狼たちが襲いかかってきた。

「ふざけんなよ」

 覚悟を決めて、木の枝を構えた。

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