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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
22/114

3-9

 アンナと向かいの牢屋に入った。

「こんなんでうまくいくのか?」とエリオット。

「黙ってろ」

 アンナが小石を投げてくる。

 匂いが酷い。慣れるということがない。後ろを見ると鼠の死体があった。蛆が沸いている。

「聞いていいか?」

「さっき私がなんていったか覚えてないのか?」

「だから一応許可を求めた」

「ダメだ」

「あのさ、他の案はなかったのか?」

「ダメっていったろ」

「悪いね」

 すぐに他の牢から「うるせーぞ」と声がする。

「お前がうるさい。黙ってればここから出してやる」

 アンナが早速、喧嘩を売った。「私に従え、クズ」

「出せるのか、お前なんかに。この俺様をここから出せるのかよ」と囚人。

 エリオットはため息をつく。

 それから足音が聞こえてきた。アンナをみる。視線を牢の外へ向けると、見張りが歩いてくる。松明の明かりが、ここでは眩しいくらいだった。

 こちらへ来れば、すぐに自分たちが囚人でないことはわかるだろう。不真面目な見張りだったら、そろそろ踵を返して持ち場へ戻るが、そうでもないらしい。

 足音は近づいてくる。

 カレンを見ると心配そうに、エリオットを見ていた。あんな顔でこちらを見られては、異常を訴えているようなものだ。エリオットは瞼を瞑って横になるように指示を出した。カレンは要領よくそれを受取り、壁を見て体を横にする。

 だが肝心の問題は解決していない。相談するわけにもいかない。

 エリオットはアンナを見る。アンナは牢の奥に座っているだけだ。このままやり過ごす可能性に賭けるのか。

 足音。

 松明の明かり。

 次第に大きくなっていく。

「おーい、おーい。飯はまだかよー」

 さっきアンナと言い合った囚人の声だった。

 見張りの足音が止まる。いいぞ。その調子だ。

「食事ならもう終わりだ」

 高圧的な態度で喋る見張り。

「腹が減ってんだよ、こっちは」と囚人が悪態をつく。「てめぇの顔じゃなくて飯を寄越せっつってんだよ」

 アンナを見た。頷いている。このままでいい。

「妙に突っかかるな、お前。どういう意味かわかってるのか?」

「うるせーよ。どうせ俺は死ぬんだ。それなら飯くらい腹いっぱい食わせろ、クソ野郎」

「わかった」

 短い言葉に見張りの怒りを感じた。「痛めつけてやる」

 牢が開かれる音。それに続いたのは肉が弾かれるような鈍い音と囚人の悲鳴だった。見張りの荒い息に混じる怒声と許しを求める囚人の声が地下牢に響く。実態が見えないだけに、悲惨さが増した。

 エリオットは息を潜める。

「ごめん――、もう助けて――、もうごめんなさい」

 囚人は泣いていた。「もう――、痛い。お願いします――、やめて下さい――」

 アンナをみた。エリオットは膝を立てる。

 やりすぎだ。これじゃ拷問だ。

 アンナは動かず、首を横に振る。

 待て、の合図。マジかよ。

 囚人の悲鳴は続く。

 エリオットは立ち上がった。

 アンナも動く。首を振った。動くなの指示。

 エリオットは無視して牢から出て行こうと格子に手を伸ばした。

 もう見過ごすことなんてできない。

「おい、あんた、上で呼ばれるぞ」

 声がした。タタの声だ。

 異常を察知して地下牢まで降りてきたらしい。見張りの拷問が止まったのは囚人の声が途絶えた。

「なんだって」と見張り。

「呼ばれてる。戻れ。見回りが長いんだよ」

 タタがいった。僅かに声が震えている。こういうことに慣れていないのだろう。

 それからすぐに牢が閉まる音がした。

 次第に足音が遠ざかっていく。

 タタも見張りもいなくなったらしい。

「おい、お前ら――」

 あの囚人の声だった。声は今にも絶えそうなほどか弱い。「絶対に――、ここから出れるのか」

「静かにしてれば出してやる」

 アンナがいった。

「必ず出せよ」

 囚人がいった。

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