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溺れる灰  作者: 水園ト去
溺れる灰
14/114

3-1

 上流へ。すでに辺りは暗い。道なき道を進んできた。店の明かり、街灯のない都市の外は夕方を過ぎればもう夜だった。

「ここからは歩こう」

 アンナがいった。「馬は目立つ」

「そろそろなのか?」とエリオット。

「私が知るか。川が細くなってきてる」

 馬を降りて、手前の木に手綱を繋げた。

「その馬の名前はなんだ?」とエリオット。半分笑っていた。

「ない。名前なんてない」

 きっぱりとアンナはいった。「二度と聞くな」


   ■


 けもの道を進むと、視界が開けた。風が通る。暗闇の中だが、人工物が並んでいるのがわかった。木造のあばら家だ。雨風がしのげればいい程度の質素な造りだった。三軒から四軒、まとまっており、それが二十メートル間隔に並んでいる。幾つかの家からは灯りが漏れている。かまどの火だろう。

「やっとか」

 エリオットは声を漏らした。息が白く染まる。たどり着くまで一時間近く歩いていた。足は限界に近い。

「あそこをみろ。行くぞ」

 アンナが指差した先には畑があった。丁度、あばら家の前にある。村人らしき姿はないが、警戒して屈みながら移動する。

「これは、これは」とアンナ。畑で栽培されている青い草を撫でる。

「なんだ」

 エリオットはいう。

「ケシだよ」

 つまり阿片だ。「あそこに一つ蕾がなってるやつがある」

 ケシ畑の中を移動した。

 青い茎の先に丸い蕾がついていた。

「阿片だ」

 アンナは蕾にナイフで切れ目を入れる。切れ目から白い液体が垂れてきた。

「これが阿片の元か?」

 エリオットは液体に触れる。粘性があった。

「このまま空気に触れさせていると黒くなってもっとネバネバしてくる」とアンナ。

「詳しいんだな」

「理由は聞くなよ」

「講義は有料?」

「初回はタダだ」

「それを聞いて安心したよ」

「よし。次はあの家に乗り込むぞ」

 アンナの視線の向こうに、この集落で最も大きい家があった。「たぶん村長か何かの家だろう。ちんたらしてる暇はない。上の人間と話をするのがいい」

「暴力はなしだよな? 手荒なのはいやだぞ」

「手荒な真似はしない。約束するよ」とアンナの笑み。

「それを聞いて安心した。ノックもするよな?」

「こいつらは悪党だからな」

 アンナはケシの茎をへし折った。「慎重にいく。異論は?」

「ない」とエリオット。

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