スキルと探索
勘違いしていた人は余りいないかもだけど
那糸=男
ユナ=女
です。
異世界だ。
来てしまったのだ。憧れの異世界に。
異世界に来たら言ってみたいセリフ。
「まずは状況を整理しよう。」
そうだ。コレが言ってみたかったのだ。
茶番抜きにマジで状況を整理しよう。
俺はまず異世界に転移した。コレは確定事項だ。まちがいない…多分。それから、俺が転移した場所は洞窟だ。ここはまず抜け出さなければならない。抜け出さなければ、俺の楽しい異世界ライフが堪能できないではないか。
それから異世界といえばチート能力だ。これに関しては前者以上に確かめる術が分からない。とりあえず物は試しだ。
「スキル一覧、展開!」
思い切って上を向き、叫んでみる。反応は…無しか。もう一度俯き考えてみる。当然だ。こんなんで分かったら甘々だ。
そう思うと、視界に異変を感じた。視界端、主に上の方に変なものが見えるのだ。?、と思い上を向くと、
『SKILL LIST』
…マジ?
そう、薄緑色の一覧の背景みたいなのが開いたのだ。こんな簡単に開いちゃっていいの?
でもおかしいな。中身がすっからかんだ。
スキル一覧こと、スキルリストが開くのにラグがあったように中身の反映に時間がかかるのか?そんな旧世代のPCみたいな仕様ちょっと嫌だ。そう思いつつ(自称)辛抱強い俺は待つことにした。
一分後。
「…出ねえ!」
そう、一切何も出ないと言うのだ。いくら(自称)辛抱強いと言っても一分も表示されないとは何事だ。ラグとかそれ以前の問題のような気がしてきた。
しかしここで俺は一つの可能性に思い至った。
「もしかして俺…スキル持ってない…?」
それだけはマジで勘弁だ。それだったら何に使うかも分からない謎スキルの方が良かった。
せめて暗視スキルとかはあって欲しかった。何せ暗いのだ。洞窟の中なのだから当然ともいえるが。
しかしスキルリストはうんともすんとも言わない。悲しすぎないか?意気揚々と異世界に来たのに何もスキルがないなんて。
この本一冊でいったいそうしろと言うのだ。これは鈍器です、ってか?
冗談じゃない。
………ん?鈍器?そういえば物理攻撃の方はそうなのだろうか。もしかしたら物理攻撃最強かもしれない。そう思い、自分を奮い立たせる。とりあえず邪魔なスキルリストを消そう。
「スキルリスト、クローズ!」
ちょっとカッコつけてスキルリストを消すと、パンチの構えを取り…
「うおおおお!!」
精一杯の気合を込めて洞窟の壁を殴る。すると、ヒビすら入る間も無く、洞窟の壁が割れ……
なかった。
強いていえば殴った方の拳が痛い。ヤバイ、泣きそうだ。
こんなに痛いのはいつぶりだろう。あれか、小学生の時に調子に乗って、階段で足を折った時ぐらいか。
泣くな俺。俺は男だ。ひたすらそう念じ続けると少しは痛みが引いた気がした。
しかしあれか。物理攻撃力も大したこと無し、か。そう考えると、さっきとは別の意味で涙がこみ上げてくる。俺は半分悲観的になりながら、むしろ冷静になって考え…ようとしたその瞬間。
スゥー スゥー スゥー
そう、どう考えても人間の寝息が聞こえて来たのである。こんな洞窟に誰か住んでいるのだろうか。
いや…流石にありえないよな…。と思いながらもその寝息の方へ歩んでいくのであった。
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あの異世界大全とかいう、胡散臭い本を読んでいたら、いつの間にかここに来ていた訳だが…。
ここはどこだ?
トンネル状で、天井には光を発する円柱状の物体。地面には金属と木が不規則に並んでいる。
「とりあえず進んでみるか…。」
自惚れているわけではないが、副団長の肩書きは伊達ではない。故に、基本どんな魔物が出ても一人で討伐できるだろう、という考えの元だ。
歩くこと五分。
トンネルに終わりが見えてこない。幻ではないか?、と思い始めてきたほどだ。その時だった。
ブオオォォン
と、象の鳴き声のような音が聞こえてきたのである。
魔物か!?と思い、腰に差した剣に手をかけ、抜刀術の構えを取る。
数秒後、ガタゴトと大きな音を立て、ソレはやってきた。
横長長方形で全身を銀色の金属で覆い、脇腹はガラス、そして体内で光を発する。それが8体も繋がり、約150メートルに及ぶ人工物かとも思える怪物が、ものすごい速度で突撃してきたのだ。
さらに、私のスキル『物質感知』が体内に生きた人間を取り込んでいることを感知している。
(これは簡単に片付く相手ではなさそうだ)
それを敵と見做し、一撃で勝負をつけるべく、力の根源たる霊素をありったけ練り込む。
そしてそれが自らに触れる直前、練り上げた霊素を技に変換し、繰り出した。
「秘義・竜巻滅覇斬!」
またたくような十一連撃。その剣先は音速に迫り、一撃で一体ずつ敵を破壊し、有り余る連撃がトンネルを切り裂いた。
(ふう…流石に霊素の残量がまずいな…。)
思った通り一撃で仕留めることはできたが、見たこともない圧倒的な金属を破壊した衝撃で、剣が折れてしまったが、
さらに霊素の消費量が激しく、歩くことも厳しくなってしまった。
しかし、囚われていた人々を助けねば、という思いで歩を進め、声をかけた。
「大丈夫か?」
すると、とても恐ろしいものを見たような目でこちらを見つめる。
(可哀想に…とても恐ろしい魔物だったんだな。)
「もう大丈夫だ。あいつはもういない。君たちも早くこの洞窟から出るといい。」
皆に聞こえるくらいの声でそう言い、よそ者がいたらパニックになるだろうとその場を離れ、洞窟を後に使用と歩を進めるのであった。
ちなみに彼女が魔物と見做し破壊したのは、こちらの世界では"電車"と呼ばれ、こちらの世界の重要な交通手段の一つだったのだが、彼女にそんなことは知る由もないことである。
電車って電車を知らない人が見たら、どう表現するんでしょうね。