魔・さぁ、お勉強の時間です!!(嫌だーっ!!!!)
さて、昼寝王国の野望開始の次の日の朝、私は図書室に居た。
「まずは、この国の周りの情勢などを知っていただかねばなりませんので。」
「つまり、お勉強ね~、で、なんでワイバーンも居るんだ?」
「魔王様、俺も勉強しようと思ってさ!!あのクソ爺を見返すためにな!!」
「はい、ではコレが周辺諸国の地図です。」
ワイバーンの存在を完全に無視したマモンが地図を広げる。広げられた地図を覗き込んでみると、全く読めない文字の羅列と、国境らしき線が書いてある。
全く読めない文字の羅列、コレは見るうちに内容が分かって来る。神よ、チート補正サンキュ。
「えーっと、大体六か国に分かれてるんだな。」
「はい、それぞれの国の二つ名は、暴食、色欲、傲慢、嫉妬、怠惰、そしてこの国、強欲が六か国です。」
「ちょっと待て、おかしくないか?この地図、憤怒が無いじゃないか。」
薄々感づいてはいたが、間違いなく厨二病のバイブル、七つの大罪が元ネタに決まっているこの国たちの異名の中に一つだけ無い大罪がある事に気が付いた私は、マモンに質問する。
「はい、憤怒は強欲に戦争に負け、取り込まれました。」
「あ、そういう事か......じゃあ、虚飾、憂鬱も?」
「はい、もともと九か国あった所を虚飾を色欲が、憂鬱を怠惰が、強欲が憤怒を取り込んだのです。」
「なぁ、マモン、一つ聞いてもいいか?」
「はい、何なりと。」
「これらの国の王の名前は?」
「はい、暴食はベルゼブブ。色欲がアスモデウス。傲慢がルシファーで、嫉妬はレヴィアタン。怠惰がベルフェゴール、そして強欲が......」
「俺、アルカードってな訳だな。」
だが、一つだけ可笑しい点がある。
「おい、マモン。」
「はい。」
「お前、まさかとは思うんだが、マモンって偽名だったり?」
「はい、偽名ですが。」
「はぁ!?おい、マモンの兄ちゃん、どういう事だよ!?」
地図に落書きしていたワイバーンが反応し、マモンに噛みつく。
「いつ、お気づかれに?」
「いや......なんとなくだな。」
「嘘だろ......なんとなくで見抜くなんて、魔王様パネェ...!!」
言えねぇな......まさか、あっちの世界でノリで買った悪魔辞典に、マモンが強欲担当だって書いてあったから......だなんて、恥ずかしくて言えるわけあるかばっきゃろー!!
「って言うか、否定しないのね......」
「はい、先代の時代では私も殺害される可能性がありましたが、あなたのご時世なので否定しませんでした。」
「先代の時代?」
「まぁ、今はもう『めんどくせー、俺は美少女とハーレム作るんだっ!!』と言って山の方で隠居されておられます。」
「なんじゃそのドスケベ爺。」
「見た目は若いですよ、爺ですけどね。」
「なんかよくわかんねぇけど、見た目若い爺さんが多いな......」
黙っていれば若々しいジークフリートが私の脳内に出てきてブイピース!!
「あのジークフリートの爺さんもとっととくたばってくれりゃあいいのに。」
「そういう事言わない言わない、で、お前の本名って?」
「魔王様、当ててみてください。」
「俺分かるぜ~!!」
「お前には言ってない。」
「片メガネ根暗ツンツン冷酷冷血お前の血は何色野郎だ!!」
「サタン。」
私は一瞬吹き出しかけたが、ギリギリの所で平然とした顔してマモンに言う。
「なぜお分かりに?」
「いや、なんとなく。」
「魔王様スゲェ、カンで言い当てるだなんて事、俺には出来ねぇ......そこに痺れる、尊敬しちゃう!!」
すまない、ワイバーン。お前の期待を裏切って......まさか、本屋で定価1200円で売られていた世界の悪魔辞典に憤怒担当サタンって書いてあったから、定例的に憤怒の国の王様がその名前のはずだからって適当に言ったんだよ、まぁ、カンってトコは合ってるか、一応。
「つまり、こういう事だな?お前の本名はサタン。サタンって多分憤怒の国の......」
「元、ですがね。」
マモンは少し遠い目をしながら語った。
「あの時は、命からがら逃げて長かった髪もバッサリ、まぁ、知能はあったので殺されはしませんでしたがね。」
「なるほどね~。知能ってやっぱり大事なもんだな。」
「命ガラガラ......」
「蛇じゃないからな。言おうとしただろワイバーン。」
「バレたか。でも、光の国の方はどうなんだよ。」
「おっ、懐かしいなその単語、M何星雲にあるんだ?その国。」
「西の側に、ラ・リュミエール王国ですね。」
「一つ疑問に思ってたんだけどな。こっちの人と、あっちの人、何が違う?」
「人と言うと......」
「おれのお袋とかの事か?」
「そうだ、同じ人間なんだろ?」
「あちら側はどっちかと言うとヒョロッと色白、こちら側は、ガッシリ色黒。と言うような感じですかね。」
「なるほどな、俺みたいなのとは違って、健康的でいいんじゃないのか?」
机にペタンと顎を乗せていたワイバーンの頭をワシワシ撫でてやる。幸せそうな顔をしながらワイバーンが言う。
「でも、俺はちょっと他の連中とは違うけどな。」
「どういう事だ?」
「俺、人間と竜族とのハーフ。だから、ホラ、目とかが......」
確かに、浅黒い肌、赤銅色の髪、そして猫のような瞳孔がうっすらと見える黄色と緑が入り混じった瞳。確かに普通の人の瞳には猫みたいな瞳孔なんて無いよな。
「ま、魔王様の方がよっぽど珍しいけどな。」
「まぁ、まだ慣れてないから、たまに鏡を見ると、充血した!?ってなる......」
朝起きたとき、鏡を見たときに何回も夢かどうかを確かめるために頬っぺたつねりまくったのだ。あのシーン、年頃の女の子(私もだけどね、私も。)が見たら泣くかもね。
「慣れてない?何にだよ魔王様。」
「やっぱり、竜族とのハーフだと何かあったり?」
即座に話題を変える、ふぃ~あっぶね!!
「やっぱりコレとかが一番の特徴。」
右腕に巻き付けていた布をシュルリとほどくと、そこから見えたのは......
「鱗、確かに普通の人間にはコレも無いな。」
とても立派な赤い鱗が生えた腕がそこにあった。
「ちゃんと人間の肌にも戻せるし、他の部位に移すことも可能!!」
右腕の鱗が無くなり、左腕に鱗が現れる。
「おー、便利だな。やっぱり何かに使えたり?」
「竜の鱗は、魔術などを弾く効果があります。それに、コイツの鱗を見る限り、上級種である飛竜の様ですし、コイツ自身も鍛えている。ほぼすべての魔術を弾くでしょうね。」
「おいおい、マモンの兄ちゃんそれ俺の台詞ー!!」
ぶーすか言ってるワイバーンを置き、マモンが話を続ける。
「それに、父親が飛竜という事は、人間への変身能力を備えているという事、つまり......」
「そっ、俺も逆に飛竜に変身できるんだよ。」
「へー、スゲェな!!やっぱり空飛ぶのってどうだよ。」
「魔王様だったら乗せてあげるぞ!!飛竜は世界最速の魔物だからな!!」
「コイツの喧嘩っ早い性格からすると、確かに納得がいきますね。」
「おい、マモンの兄ちゃん!!今さっきの一言で全世界の飛竜を兄ちゃんは敵に回したぞ!!」
「まぁまぁ、お前ら落ち着け。」
今すぐにでも取っ組み合いになりそうな二人を抑える。
「まぁ、取り敢えずだ。おさらいしようぜぜおさらい。」
「六か国あるけど元は九か国。別に光の国がある。肌の色は人間はあっちとこっちじゃ差がある
けど中身は同じ。マモンはまさかの先代魔王に倒された憤怒の国の魔王様、だっけ?」
「まぁ、今の私はこれくらいが丁度いいんですけどね。憤怒の連中はお上に興味はちゃんちゃらありませんでしたから。」
「で、ワイバーンは飛竜と人間のハーフ。もしかして、他の連中よりも力が強いのって......」
「ま、竜の力ってやつですよ、魔王様。」
「カッコつけてるところ済まないが、お前が凄いわけじゃないからな。」
ふっ、と言わんばかりに手を頭に当てて決めポーズをしていたワイバーンが思いっきりマモンにラリアットをかます。
「この冷徹根暗片メガネ野郎!!」
「これでも昔は武闘派でした。」
ワイバーンとマモン、なっかよっく喧嘩しな。
「じゃ、俺はちょっと面白そうな本を見つけてきたから、これに書いてある事、実践してみるわ
~。」
「あ、ちょっと待ってくれよ魔王様~!!」
「全く、今行きますから、何を見つけたんですか?」
「これこれ。」
俺が持つ本の題名は、
『魔術の発動の仕方』
と言う、重篤な病(中学生の患者が大多数、たまに高校生もいる)を患っている連中が喉から手が出そうなほど欲しがりそうな題名の本を持ち、俺達は図書室を出て中庭へと足を運んだのであった。