魔・配下達への説得
「ま、魔王様!?ですが人間どもを殺すのが我らの本望......」
「じゃあ、お前たちは人を殺して何を得てきた?」
今までだったら厨二病扱いされて絶対に言えないような台詞を言う。まぁ、こんなイケメンが言うんだったら許してもらえるよね。
「そ、それは......」
「ならば俺が答えてやる。一時の食料と栄誉、そして長い争いだ。」
全員が黙りこくる。心当たりがあるらしい。
「争うだけでは国は荒れていくばかりだろう、人間どもの領地に襲い掛かり、返り討ちに会うよりは、この国を大きくしてみないか?」
「大きく、だべ?」
反応してきたヤツに、私は質問返しをする。
「そうだ、お前の名は?」
「オ、オラだべ?オラ、ゴブリンのゴルだべ、魔王様。」
「ではゴルよ、国が大きくなれば、どうなると思う?」
「お、おっきくなったら、オラたち、力、強くなるべ?他の種族に......馬鹿に、されなくなるべ?」
「まぁ、最終目標はそこだな。」
「だべ!?オラたち、ずっと今まで力も弱い、脳みそもないのーたりんだって、馬鹿にされてきたべ、それを、変えてくれるべ!?」
「それ、本当なんですか?」
後ろ側から声が上がる。出てきたのは、青色の小さいアーマーを纏ったスライムだった。
「スライムか......名は?」
「あっ、スライムの、リーゼです。それは、僕らスライムにも......?」
「ああ、まぁな、俺の目標的には、お前らの差別も無くす気だ。」
「そ、そうなのですか!?」
ぽにょぽにょとリーゼが嬉しそうに跳ねる。
「お待ちを、魔王様、貴方様の目的は、一体......?」
ざわついていた室内が静まり返る。そう、私の目的は、誰一人として分かってくれていないらしい。まぁ、分からなくも無いけどさ、新しい考えに戸惑う気持ちって。
「目的?そんなものは簡単だ。俺の目的は、この国を豊かに、平和にする事だ。以上。」
ざわざわとまた騒がしくなる。
「待ってくれよ魔王様!!どういう事なんだよ?」
「お前は、確か魔剣士ギルド......」
「魔剣士ギルド総長、ワイバーンだ。なぁなぁ、平和にするって、どういう事だよ?」
「平和だ平和、分からないのか?」
「分かるも何もだ魔王様~、この国は、魔物の国だぜ?暴れてなんぼだろ。」
何人か頷いている。まぁ、魔物だしそりゃそうだろう。
「暴れてなんぼ、か......」
「そもそも平和って何なんだよ~?」
「昼寝だ。」
「はぁ?」
「昼寝が出来る事。」
皆がポカーン、あれ、昼寝王国ってよくね?
「昼寝が出来るという事は、平和という事だ。平和な場所、国じゃなきゃ出来ないことだ。他にもあるぞ、平和になったらできる事。」
「例えばだべ?がっこにも行けるようになるべ?」
「戦火の中、どうやって学校に行けと?ああ、平和になったら行ける。」
「農作業をして......牧場で、ゆっくり牛や、カタツムリを育てたりする事も?」
「出来るようになるな。牧場だったらジャンジャン作れ。」
そもそも、カタツムリって何に使うの?
「ま、待てよ魔王様!!俺達ギルドは殺してなんぼ、俺達はどうなる!!」
「なら、殺すための力、守るための力に変えればいい。」
「な......!?」
魔導師ギルド、魔女ギルド、魔剣士ギルド、全員がポカンとしている。
「守るって、何をだよ!!」
「命をだ、誰かの生活をだ、国をだ。殺して恨まれるより、守って尊敬された方が嬉しくないか?」
魔剣士ギルドの長である、ワイバーンは、下に俯いた。
「一つ聞かせてください、魔王様。」
「何だ?魔女ギルドの長。」
「エルザでございます。あたし達は、殺す事しか知りません、そう、教えられてきました。母は母の母に、祖母は、祖母の母に、そのように繋げてきました。今更、守れと言われても......」
「だったら、曲げれば良い。癒しの魔術を使えるようになればいい。」
「で、ですが!!そのような魔術は今まで......」
「破壊の魔術ならあるんだろ、それを逆にしてみればいい。破壊の逆なら癒しだろ。」
「それに、魔女って、悪いやつらばっかじゃないんだろ?俺の中では少なくともそうだ。俺の知ってる魔女は、泣いてる子を助けたりする魔女も居たし、宅急便をしている魔女も居た。」
「あ、あっ......」
あ、もしかして言いすぎちゃったかな?顔が真っ赤になっている。
「じゃ、じゃあ、平和になったら、いい事ばっかりだべ!!」
「え、ええ、そういう訳ね......アンタ、名前は......」
「オラはゴルだべ、魔女の姉ちゃん。」
「ふっ、私はエルザよ。そうね。平和になったら......」
だったら、俺達は平和になったら思いっきり海水浴でもしたい!!ばっきゃろー、海にはクラーケンが居るぞー!!魔導師ギルド......魔導の学校、開けるかもしれぬな......
「じゃ、じゃあ、魔王様、一つ聞かせてくれ。」
「なんだ、ワイバーン。」
「もし、もしも、平和になったなら......」
「俺みたいなヤツでも、いいやつになれるのかな?」
「まぁ、手を貸してくれたらなれると思う。」
「......分かったよ、魔王様。」
二ッ、と笑ったワイバーンが、膝をつき、手を合わせこう言った。
「我ら、魔剣士ギルド、長であるワイバーンが誓う!!我が魔王、アルカード様に、絶対の忠誠を!!」
「あっ、あ、オラたちも誓うべ!!たのむべ魔王様、この国を平和に、お昼寝できるようにしてくれだべ!!オラたちゴブリン、長であるオラが誓うべ!絶対の忠誠を誓うべ!!」
「全く、ゴブリンに引けを取っちゃうなんて......あたし達も、貴方について行くわ魔王様。長であるあたしが誓う!!魔王様に、絶対なる忠誠を!!」
「はっ、長く生きてきたが、このような事を言った魔王など初めて見たな。面白い。分かった、我、魔導師ギルド長、ジークフリートが誓う!!我ら魔導師ギルド、魔王様に絶対なる忠誠を!!」
「スッ、スライムも!!僕が誓います!!いつか、牧場を作れるようにしてください!!」
「コボルトも、いつか、温泉などを作れるように......」
我が種族も、我が種族も!!どんどん私に忠誠を誓ってくる。魔王って、凄いな。
「へ~ん、魔導師ギルドのクソ爺が重すぎる腰を動かしたのかよ。」
「はん、魔剣士ギルドのクソ餓鬼が、馬鹿な頭を働かせて動いたか。」
「魔王様、では改めて、貴方様の目的を......」
「ひとまず、国を立て直して平和にする!!そして、昼寝王国を作る!!」
「分かりました。では......」
「聞け、魔王様がお目覚めになられた!!魔王様は、平和な国を......弱者を守り、子供を育て
夢を追う者を応援する!!そのような国を作られる!!魔王様の意思に反する者共は、このマモンが、この世の果てまで逃げようと、追い詰めて始末する!!」
「勿論、魔剣士ギルド、魔導師ギルド、魔女ギルド、そして、この城に居る全ての種族長が魔王様に忠誠を誓った!!さぁ、国を作るぞ!!魔王様の名のもとに!!」
わああああああああああああ!!!!!歓声が上がり、城が揺れる。
「ああ、うん、取り敢えず、ミッションコンプリート。」
そして、私の昼寝王国の野望は動き始めたのであった。