悪・入学式と、少しキレた私
「立派な校舎ですわね~。」
目の前に広がるは、レンガ造りの巨大な建物。
「はい、物凄く立派で、優雅な校舎ですね!!」
「行くわよシェリーちゃん、ワクワクするわね、これから始まるのよ、私達のスクールライフ!!」
「すくーるらいふ?ですか、まぁ、取り敢えずクラス分けを見ましょうよお嬢様。」
そう、私とシェリーちゃんは今......王立魔術学院に居る!!(ババーン!!)
歩を進めると、ワイワイと騒がしい広間に、クラス分けの表が張り出されている。
「えーと、お嬢様と私は同じ学級になるんですよ、従者と主だから。えーっと、知ってる人いるかなぁ?」
この表を見ることは私にはほとんど関係ない。何しろこちらの友人だなんて誰一人として......
「あ、マリアンナ様!!」
居た。こちらに制服をきた、三つ編みでビン底メガネの少女、アルテラッツィオーネ、通称ルーネが手を振りながらこちらへと向かってくる。
「ルーネ、一昨日ぶりね、元気だった?」
「は、はい!!マリアンナ様と同じ学級に入れて光栄です!!」
「まぁ、本当!?嬉しいわ、これでシェリーちゃん以外の話し相手ができた!!」
「あ、お嬢様、ルーネちゃんが......って、ルーネちゃん!!もういたんですか!?」
「はい、先程マリアンナ様をお見掛けして......あの、ご一緒しても...」
照れくさそうにルーネが答える。
「勿論よ、一緒に行きましょう、友達なんだから。」
校舎の中を進み、クラスの席へと向かう。
「一列に席が並んでいるのね。初めて見たわ。」
「私もです、平民の学校は、一人一つの木の机でしたが、だ、大理石......」
「ルーネちゃん、安心してください、私も今震えています。」
「取り敢えず座りましょ、席は自由でいいみたい。」
並んで座ると意外にいい感じだ。日本ではこういう席で授業を受けたことが無かったからしばらく慣れるのに時間がかかりそう。
私たちが最後だったらしく、先生がキビキビとした歩き方で入って来る。
「生徒の皆さん、よくぞこの王立魔術学院に入学されました。おめでとうございます。」
美人な鬼教官と言う言葉がぴったりの先生が鞭を叩きながら話している。
「このクラスでは貴族であろうが平民であろうが関係ありません。例えどれほど地位が高かろうと私は一切容赦しないのでそのつもりで授業を受ける事!!」
「以上、次は入学式、早急に列を作りなさい。」
「お嬢様、あの方お名前忘れちゃってますよ。」
「ちょっと抜けてるわね。」
「あ、マリアンナ様、早く並びましょう。」
歩き続けると、とても広い講堂へと出た。
何人もの上級生たちが一列に動くことなく並び、私たちを待ち構えて居る。
「生徒会長、式辞」
とても美しい女性が前へ出て、これこれこうで、それそれそうだから......といってご退場。
「新入生代表、式辞。」
金髪の美少年が前へ出ると同時に、女子から一気にため息が漏れる。
「あの方は我が国の王子ですよ。凄いですね、あんなに難しい事をすらすらと言えるなんて。」
「なるほど、だからあんなに貴族の女の子達の目がハートなのね。」
入学式は早々に終わり、クラスに戻った、その時だった。
ゲシッ、とルーネが足を蹴られ、危うく転びそうになる。
「ルーネ、大丈夫!?」
「は、はい。有難う......ございます。」
ルーネの声も若干震えている。危なかった、もしも私が即座に受け止めていなければ彼女はこけていた事だったろう。クスクスと笑いながらルーネを見ているのは意地の悪そうな女子三人。揃いも揃って人相悪っ!!
「あら、ごめんあそばせ。」
確信犯、そう思い私が彼女たちに憤慨しながら話しかけようとした時だった。誰かの手が目の前に表れ、やんわりと制止される。誰よ!!と思いながら相手を見れば、なんと先程の王子様が私のすぐ横に立っていた。
「君たち、ここで一体何をしているんだい?」
壇上に居た王子そのものだ。それはこっちの台詞である。今すぐにあの女たちに魔術をぶちかましてやりたい気分なのに、何故邪魔してくるのだろう。
「いえ、ただちょっとそちらの貧相な女子がこけかけておりましたので......」
三人ともがクネクネしながら王子にじりじり近づく。見ればわかるが仲良くしたいのだろう。
ああ、思いっきり風武でもぶちかましてやりたい......
「お嬢様、顔が悪人面に......!!」
あら失礼、ちょっと悪い事考えていたものでして。
「そうか、だが、僕が見たものは見間違いだったのかな?」
「見間違い...とは?」
「今さっき、君があの女の子の足に蹴りを入れていた事。しっかり見ていたよ。」
「んなっ、見間違いですわ!!ねぇ?」
「そうですわ。」 「見間違いですわよ。」
その言葉に、私の堪忍袋の緒が切れる。
「貴女達!!」
ビクッ、と女の子達が震える。ツカツカとシェリーちゃんが止めるのも聞かずに近づく。
「な、何ですの?貴女、少し失礼でなくって?」
「失礼なのは貴女達でしょう?何もしていない子に蹴りを入れるだなんて呆れたわ、多分普段からこのような事をしていたのでしょうね。」
「あら、でも証拠がありませんわ。証拠が無ければ誰も私がやっただなんて証明できませんわ。」
「あらそう。ならこうするしかないわね。」
後ろ側にある掃除用具入れの入っているロッカーに近づき、魔法陣を発動させる。
『記憶』
書き込むと同時にボウッ、とロッカーからフワフワとした雲が現れ、それがスクリーンとなり、一部始終を映す。ルーネを蹴った決定的な瞬間も、完全に映っていた。
「貴女、これでも言い逃れ出来ると思って?」
「い、陰謀ですわ!!私を陥れる......!!」
「たかが貴女程度、陥れて何になりますの?」
あ、やば、本心出ちゃった。
「今の魔術は一体......」
「少しあのロッカーから記憶を引き出しましたの。」
驚いている王子様に答える。これが使えたらどこのどんな名探偵も真っ青よ。
「証拠なら出しましたわ。さぁ、早くこの子に謝罪しなさい!!」
クラス中の視線がこちらに集まる。
「申し訳ありませんでしたわ。」
モンタニエ様だとかよりはいざぎよく謝罪をした。
「あ、いえ、そんな......」
「いいのよ、あの人が悪いのよ。ルーネはそんな事言わなくてもいいの!」
パスッ、と逆に謝り返そうとしたルーネに喝を入れる。
「は、はい!!」
「さて、貴女達も、もう授業が始まりますわよ。早く席に着きましょう。」
その一言と共に、私たちを呆然と見ていたクラスメート達も動き出し、驚いている顔をしていた王子様もお付きの者と共に席に座る。
ああ、私の学院生活、ちょっと大変な事になるかもしれない......
そんな予感と共に、学院生活は幕を開けたのでした。