魔・やっぱり、家族関係の方がよっぽど大変
「お~、確かにここの料理美味しい。流石だなワイバーン。」
「いやいや、やっぱここ美味いって有名な店ですからね~。俺以外の連中もよく食べに来ているらしいですけど。」
場末のバーみたいな雰囲気の店で、ハンバーグ(なんと、こっちでも味はあんまり変わらない)を頬張りながらワイバーンと会話する。
「意外に治安が整っていてビックリしたよ。もっとヒャッハーみたいな感じなのかと思ってたんだけどな。」
「ヒャッハーみたいな感じって何なんだろう......まぁ、先代の魔王は戦い大好きなヤツっちゃヤツだったけど、治安もある程度は良くしてはいたからさ。まぁ、魔王様みたいに自分の国の発展特化で政策を叩き出したりはしなかったけどな。」
ワイバーンも何の卵やら分からぬ卵が乗った丼をかっ込んでいる。
「ワイバーン、つかぬ事を聞くんだけどそれって何丼?」
「コレ?竜の卵丼。」
「え、それっていいの?お前、一応竜とのハーフなんだろ。」
「あー、竜って言っても別種の竜、地竜の卵だから。それにそもそも飛竜の卵なんて恐れ多くて金の亡者でもない限り手を出さないし、手を出したとしても親に殺されるのが目に見えてる。まぁ、人間だったら、猿が料理されてても何とも思わないのと一緒な事。」
「あ~、結構そういうトコ、シビアだな。」
「魔王様はハンバーグか、それって美味いよな。」
「ああ、牛肉かコレは?」
「そういや、牛肉で思い出したけど、この前スライムたちが戦いが無くなったから殺される心配なく牧場を運営できる!!ってぴょこぴょこ跳ね回りながら嬉しがってたな......」
「ふ~ん、スライム牧場か。なんか楽しそ。」
「まぁ、楽しそうで何よりだと思ったし、普通に食料とかを自国で生産できるって言うのは戦いのときとかにスゲェ大切な事だしな。」
「はっはっは......戦いとかは出来る限り回避したいんだけどなぁ......」
「まぁ、今の所よっぽどのことが無ければ戦争を吹っ掛けられる事なんて無いだろうとは思うけどな。」
「ワイバーン、そういえばだけどマモンの事をオカンみたいだって言った時、ちょっと複雑そうな顔してたけど、何か母親とあったのか?」
「げっ」
「相談に乗るぞ~。一人で悩むより、誰かに話した方が気が楽になるぞ。」
「じゃあ、俺の実家に行きながら話しますよ。」
店を出て、大通りを通る。現代日本じゃあり得ない髪色、赤とか青とかの髪色をした浅黒い肌色を人たちが道を闊歩し、他にもドワーフやスライム、ついでに元居た世界では絶対にありえないものもいた。
「馬車を引く大きな早いカタツムリってシュールな光景だな......」
「カタツムリって結構早い生き物に分類されてっけどな~。」
私の知るカタツムリは小さくてのっそりのっそり動いていたが、目の前を通っていったカタツムリはデカくて速い、ついでに馬車を引っ張ってた。いや、カタツムリが引っ張ってるんだからカタツムリ車って言うべきか?
「ワイバーンの実家ってどんな感じなんだ?」
「あ~、普通に住宅街の一角にある普通な家ですかね、まぁ、母ちゃんがちょっと......」
「母ちゃんがちょっと......もしかして病気だったりするのか?」
「いや、そういうわけでは......」
「ふ~ん、しっかしワイバーン、お前ってモテるんだな~。」
ちょっと重い空気になりかけたのでワイバーンをからかって即座に空気を戻す。
「モテてる?そんなに俺モテてるかな?」
「いや、お前十分だろ、その若さでギルド長、ついでに魔王の腹心。認めたかぁないがまぁまぁ美形。女の子がほっとかないだろ~。」
「いや、それ完全に魔王様にブーメラ......」
「それに、行き掛けにも女の子達の痺れる視線をいただいてたからな~。 」
アレは痛かった。ワイバーンのお嫁になりた~い。恋人になりた~い。みたいな子は多いのだろう。顔はいいしな、顔は。
「え、魔王様炸裂魔法とかぶっ放さなかったんですか?」
「いや、何でそんな事する必要が......」
「先代は男からの嫉妬の視線にはそれで応じてたから、炸裂魔法が一日最低でも十回はぶっ放されてたはずだと思う。」
「ヤバいやつだな。それに、私がやったら間違いなく死人がでるよ。」
「あ~、確かに死体を片付けるのは面倒だしな~。」
「いや、それは問題じゃない。」
色々な所でズレた答えを返したワイバーンにツッコミを入れ、歩き続ける。
「あ、今さっきまで結構大通りの商店街みたいな所だったけど、ここら辺は住宅地みたいな感じだな。家まではあとどれぐらいかかるんだ?」
「もうしばらくしたら着くと思いますけど......あ~、魔王様、驚かないで欲しいんですけどね、俺ん家、十人兄弟なんですよ。」
「十人兄弟、そりゃ凄いな。」
確かにそれはビックリ、まぁ、確かにワイバーンは兄貴って感じだしな。
「それでですね~。間違いなく魔王様にちょっかいかけてくると思うんですよ。」
「はぁ、そりゃまたなんでだ?」
「あ″~、ちょっと言葉を整理してきますんで、そこの噴水にでも座っててください。しばらくしたらまた来ますんで。」
「ああ、ちゃんと待っておくから安心してくれ。」
多分、お母さんに関する事なのだろう。もしかしたら病気で亡くなってしまったのかもしれないし、自分も忙しくてろくに兄弟達には会えていなかったと思う。まぁ、他の理由もあるかもしれないが、ちょっとは手伝えるかもしれない。
円形型の広間の中心にある噴水に腰掛けながら、ローブを被ったまま日向ぼっこをする。
「遅いな、ワイバーン......」
少なくとも十分はたっている。まぁ、しばらくって言うのには個人差はあるとは思うけど、流石にコレは遅すぎないか?
「ん~?ね~ちゃん待ち合わせ~?」
腰掛けていた私の顔を覗き込みながら小さな男の子が話しかけてくる。浅黒い肌と、赤銅色の髪にくりくりとした大きな目が特徴の男の子だった。
「ああ、うん、そうだよ。」
「へ~、誰と誰と~?」
「ええっと......友達と。」
「ね~ちゃん恥ずかしがらなくていいんだぞ~。彼氏と待ち合わせしてるんだろ~?」
「え、ちょっ、どうしてそう思ったの?」
いや~、あっちでは、恋人はおろか、友達もほとんどいなかったからこういう反応に.....って、なに悲しい思い出を思い出してるんだ私!!親友はいたじゃないか親友は!!まだマシだぞ我々の界隈では!!
「え~、だってここで待ち合わせしてるのは、大抵おばちゃんだったら井戸端会議の待ち合わせみたいなもんだし、若いね~ちゃんみたいな人がここに座ってたら、大体彼氏との待ち合わせだもん。」
「あ、そうなの?」
「そりゃまぁ俺の統計に間違いはないからな!!それにしても、ね~ちゃん珍しいな~。肌が俺達よりも白いや!!」
ま、まぁ、日本人だし、ここの人達よりも色は白いよな......まぁ、アルカードの姿だとほとんどヨーロッパ辺りの顔と肌色になってるけどね。
「俺のね~ちゃんもさ、肌を白くした~い!!って言ってさ、小麦粉を肌に塗りこんで母ちゃんにメッチャ怒られてたんだよ~。」
「うん、だよね。小麦粉塗りこんだからって肌が白くなるわけないし、それで白くなるんだったら世界中の女の子が真っ白になってるよ。」
「ははっ!!ね~ちゃん面白いな~。ねぇねぇ、俺ん家来てよ!!もっとお話ししよ!!」
「う~ん、どうしようかな......」
ワイバーン、帰って来る気配が無いし......まぁ、心配したマモンにオカンの如くワイバーンに私にだけ使える探知魔術や念話魔術を教えてたしな......この子もキラキラした目で見てきてるし、よし、大丈夫でしょ!!
「うん、いいよ~。一緒に行こうか。」
「うん!!こっちこっち!!」
男の子に連れられてやってきたのは極普通の一軒家、中東に近いヨーロッパの国の建築洋式で建てられている。
「かーちゃんただいまー!!」
男の子が大きな声で帰ってきたことを知らせるが、返事が来ない。
「ありゃりゃ、買い物に行っちゃったかな?そういえば今日、店の特売日だったな......」
「えーっと、大丈夫なの?」
「全く、うるさいのよアンタは!!もうちょっと静かにって......あら、お客さん?」
二階から走って出てきた軽装の女の子、こちらも同じく赤銅色の髪をした、くりくりとした目が特徴の可愛らしい子だった。
「あ、どうも。」
「あ~、もう、恥ずかしい所見せちゃったじゃない!!どうしてくれるのよ!!」
「え~、怒鳴って出てきたのね~ちゃんじゃんか~。」
「もうっ!!あ、お姉さんどうぞ、こちらです。」
案内されるまま、大きな机があるリビングへと通される。
「え~っと、お姉さんはどうしてこの子に連れられて家に?」
「このね~ちゃんが誰かと待ち合わせしていたみたいでさ~。話して面白かったからもっと一緒にお話ししたいって思って連れてきたんだよ~。」
「はぁ、全く、うちの弟がすいません。」
「あ、いや、いいんだよ。私も待ってた人が来なくて退屈してたから。君たちの名前は?」
「コイツがドレイクで、私がアイダです。」
「他にも兄弟はいるの?」
「はい、私は双子で、双子の兄の名前がウェドって言う名前なんです。」
「ね~ちゃんちょっと暑いだろ~?ローブ脱いだらどうだ~?」
「もう、お客さんにそんな言葉使わないの!!何回言ったらアンタは理解できるのよ!!」
この子達だったら多分大丈夫かな?まぁ、いざとなったら火炎竜でもぶっ放せばいいし......
「わあっ、お姉さん肌白ーい!!羨ましいな~。」
そりゃまぁ家でゲームしたりだとかマンガ読んだりだとかしかしていなかったからね~。ついでに言うといつも使っていた化粧水とかが肌白くなる成分入りだったからかな。それに、神のチート補正のお陰でニキビとかも全部無くなってる。ナイスだ神よ。
「ね~ちゃん珍しいな~。ね~ちゃんなんか肌白くなりたーい!!って言ってるのに肌は黒くなるばかりで......」
「うっさいわね!!母さんが帰ってきたらいい付けるわよ!!」
「わーん、ね~ちゃんが脅してくる~。」
私の後ろに隠れてくる。うん、小さい子ってやっぱり可愛いな。
「でも、お姉さんは何でローブを被っていたんですか。」
「いや~、連れが下手に注目集めてジロジロ見られて欲しくないって言って被せてくれたんだよ。」
まぁ、珍しがられちゃ本末転倒。私をジロジロ見ている人じゃなくって、私は普通に過ごしている皆の姿を見るのが目的だったからね。
「へ~、ジロジロ見られたくない。か~。」
アイダちゃんがニヤニヤしながら私を見てくる。ん?何か変なこと言ったかな?
「他の兄弟はどこに行ったの?」
「今日はお店の特売日で......私たちがお留守番しているんです。」
「もーすぐ帰ってくると思うんだけどな~。」
ドレイク君がそう言うと同時に、ドタドタと玄関が騒々しくなる。
「ドレイク、アイダ、ただいま!!」
「あ、母ちゃんお帰り~。」
二人によく似た子供たちと、背が高く、スラリとした出で立ちのエスニックな感じの美人さんが沢山の食料と一緒に部屋に入って来る。
「おや、お客さんかい?珍しいね。」
「おい、母ちゃん、それ言ってる場合か?俺、待ち合わせがあるんだけど。」
「あー、大丈夫だって、大体アンタの待ち合わせってむさ苦しい男どもとの待ち合わせだろ?女の子待たせてるわけじゃないだろうし、大丈夫でしょ!!」
あははははは!!と豪快に笑いながら大量の荷物を持たされているワイバーンの背中をバンバンと叩く。
「さっさとアンタも結婚しなさい!!お見合いの申し込みだったら沢山あるのよアンタ宛!!
可愛い子沢山いるんだから、アンタが気に入るような子だっているわよ~。」
何処からか取り出した女の子の写真をワイバーンに大量に見せている。
「母ちゃん、大体その手の写真って魔術で可愛く加工してるんだぜ、皆可愛いのは当たり前にきまってるだろ?」
「でもねぇ、アンタも今の内に結婚しとかないと婚期を逃すよ!!」
お母さんにバシバシ叩かれているワイバーンに話しかける。
「あ~、ワイバーン大丈夫?」
「あ、ああ、って言うかどうしてここに?」
「いや、ドレイク君が連れてきてくれたんだけど......ってここ、ワイバーンの実家?」
「そうだけど、ローブ脱いで大丈夫なのか?おい、ドレイク、アイダ、お前ら失礼な事していないだろうな?」
「はっ、つまりね~ちゃんの待ち合わせ相手って......」
「兄ちゃんだったの!?」
二人が同時に驚き、即座にワイバーンに詰め寄って質問攻めにする。
「ね~ちゃんとどんな関係なの!?」
「お姉さんと何してたのか教えてよ教えてよ!!」
「え、ちょっ、おい待て、お前ら勘違いしてないか?」
「勘違いって何を?」
「ね~ちゃん、今日は兄ちゃんと何をしたの?」
「え、今日は......一緒に昼ごはん食べて、ちょっと散歩を......」
当たり障りない発言だったはずだが、ワイバーンの兄弟御一同と、お母さんの動きが雷に当てられたかのように止まる。
「嘘―!!!!」
「あの兄ちゃんに彼女が出来ただとっ!?」
「ドッキリ?ドッキリなのコレ!?」
「ね~ちゃん、兄ちゃんなんかでホントにいいの!?」
「お姉さん肌白ーい!!」
リビングが阿鼻叫喚の地獄絵図と化する。
「よし、ちょっと静かに!!」
ワイバーンが一喝し、キャーキャー騒いでいた兄弟達が止まる。
「あのなぁ、俺とこのお姉ちゃんはだな......」
「分かってるよ、ワイバーン。」
ワイバーンのお母さんがポン、とワイバーンの肩を叩き、自信満々ないい笑顔で言う。
「婚約者、だろ?」
違-う!!!!!!
「しっかしいい子を捕まえたもんだねワイバーン!流石私の息子だよ!!」
話を聞かないワイバーンのお母さん、バシバシとワイバーンの背中を叩きまくる。ワイバーンはもう諦め顔だ。
「ちょ、ワイバーン......」
「すまない魔王様、ここは飲み込んでくれ......」
もういっそ悲痛にも聞こえるワイバーンの声。ワイバーンの目からいつもビームが出るんじゃないかってぐらいにあふれ出ている生命力が消えて死んだ魚の目のような状態になっている。
勘違いに勘違いが重なったまま、ワイバーンのお母さんと兄弟達との会話が始まってしまう事になったのであった。