悪・お勉強って大変
「もう、何ですのこの宿題の量は!!」
私は愚痴りながら朝らしく清々しい日の光が入り込んでいる図書室で、シェリーちゃんと一緒に家庭教師に出された宿題をこなしていく。
「し、しょうが無いですよお嬢様、お嬢様は私と違って貴婦人としての礼儀なども学ばなければなりませんし......」
「はぁ、こちらでは勉強しなくてもいいと思っていたのに......まぁ、学んで損する事は無いですし、きちんとやらなければなりませんわね。」
「お嬢様、私も一緒に家庭教師と勉強させてあげてくれって旦那様達に頼んでいらっしゃいましたがよろしかったのですか?」
「ええ、一人でお勉強するより、二人でお勉強した方が楽しいじゃない。」
勿論、お父様に対しては、お父様、おねが~い(きゃるんっ)としながら頼んだらすぐにOKしてくれた、チョロい、チョロすぎる。それでいいのか騎士団長。
「私も、お勉強できてうれしいです。メアリー様や他の召使の皆に読み書きを教えてもらってはいましたが、家庭教師の方に教えて頂いた方がとても分かりやすかったです。」
「まぁ、本業の方ですし、分かりやすいのは当然でしょうね。」
「ですよね。メイド長のメアリー様もビックリしていましたよ。私が難しい文字を読んだときにお嬢様が一緒にお勉強しましょうって言ってくれたって言った時なんか本当に腰を抜かしてしまって、お嬢様、今は昔より凄くお優しくなりましたしね。」
「そうね、昔の私ってどうかしてたわ。ねぇシェリーちゃん、宿題も終わった事だし、おやつでも食べましょうよ。」
「はい、そうですね。紅茶はいつもの......」
「カモルーミでお願い。」
「はい!!クッキーと一緒にお持ちしてきます!!」
しばらくシェリーちゃんがこちらに帰ってくるまで一人で読書をする。主に読んでいるのはこの国の歴史に関する本、人間と言うのは、よく小さな常識の違いで相手をおかしく思う事がある。いわば暗黙の了解のごとき常識があるのだ。その知識を本で吸収しておいた方が私も怪しまれることは無いだろうという算段だ。
「お嬢様、お持ちしました。あ、あとこれが......」
シェリーちゃんがお盆の上に二人分のクッキーや紅茶を持ちながらこちらへとやって来る。
「お嬢様宛のお手紙だそうです。可笑しいですよね、普通手紙は旦那様宛に来るはずなのに...」
「まぁ、読んでみない限りは分からないわ。取り敢えず読んでみましょう。」
「お嬢様、なんて書いてありますか?」
「えーと、ちょっと待ってね。王立魔術学院?ねぇ、シェリーちゃ......」
「ウソ、王立魔術学院!?」
シェリーちゃんが文字通り跳び上がって驚く。
「シェリーちゃん大丈夫?物凄く興奮しているみたいだけど......」
「興奮しているみたいだけど......じゃないですよお嬢様!!あの王立魔術学院から入学してくださいと言う書類が来るだなんて......やっぱりお嬢様は素晴らしいですね!!」
「シェリーちゃん、一人で盛り上がっている所悪いけど、王立魔術学院ってそんなに凄いの?」
「そりゃもう凄いですよ!!ご両親もこの学院で出会われてこの国の上流階級では珍しい恋愛結婚をなさったのですから!!」
「いや、お父様とお母様の出会いの話はいいのよシェリーちゃん。」
「それに、王立魔術学院と言ったら、この国の若き才能が集う最高の学び舎にして、ここに通わなければ騎士団には入れないと言われ、お嬢様方もこちらに通わられるだけで求婚者の数が物凄い数増えるのだとか......!!」
「と、とりあえず分かったからシェリーちゃん、ちょっと落ち着きましょ。ね?」
「はっ、す、すいません!!ついつい癖が出てしまって......」
「取り敢えず、お母様に持っていきましょう。お父様にはいつ伝えようかしら?」
「ご婦人が伝えてくださいますよ、早く行きましょうよお嬢様。」
「分かったわ、早く行きましょう。」
図書室を出て、二階にあるお母様の部屋へと向かう。」
「お母様、失礼致します。」
「あら、マリアンナ。どうしたの?」
「実は、王立魔術学院からの手紙が......」
「あら、良かったわね。貴女、皆のお手伝いをとても頑張っていたものね。大丈夫、お父様は私が説得するわ。」
「有難うお母様。」
「それで、あなたはついて行くの?」
「へ?私ですか。」
お母様がシェリーちゃんを指差す。
「ええ、そうよ、それぞれの学生には一人だけ一緒に勉強をすることが出来る召使いを連れていくことが学院では許されているの。」
「シェリーちゃん、一緒に行きましょうよ。」
「で、ですが......」
「大丈夫よ、費用なら私たちが出すわ。」
「ですが、この屋敷の人手が足りなくなるのでは......」
「その心配はいりませんわよシェリー。」
「あ、メアリー様!!」
「シェリー、貴女一人が抜けたところでどうという事はありません。安心してお嬢様と共に勉学に励みなさい。」
「素直になりなさいメアリ―、貴女本当は寂しいのでしょう?」
「何を言っておられるのですかマリア様、私はただ......」
「貴女、自分では気が付いていないかもしれないけれど、嘘を吐いている時や怒っている時、必ず耳が真っ赤になっているのよ。」
「そ、そんな事は!!」
メアリーが直ぐに耳を隠しにかかる。
「あら、その反応は......」
お母様、物凄く悪い顔してる、間違いなくメアリーの反応を楽しんでいる。
「言ってあげなさい、行ってらっしゃいって。寂しくなるけどね。」
「う、マリア様......」
苦虫を噛みつぶしたような顔でシェリーちゃんへと向き直る。
「取り敢えずだけど、シェリー、お嬢様の事を任せるわよ。貴女がこれからは一人でお嬢様のお世話をするのよ。ちゃんとしっかり勉強をして立派になって帰って来なければ、私が承知いたしませんからね!!」
「は、はい!!メアリー様!!頑張りますッ!!!」
「よろしい。コレを貴方に渡しておきます。」
「これは......?」
「うちの一人前のメイドが付けている髪飾りよ。セレナーデ家の家紋が付いているでしょう?」
「あ、本当ですね。風を纏った馬の絵が描いてある......」
「いい、召使いと言うのは大抵バカにされるものよ。それを見返せるほどに努力していい成績を出しなさい!!」
「な、何故かやたら詳しいわね、メアリー......」
「彼女、私と一緒に学園に通っていたメイドだったのよ。だから召使いへの当たりの強さは彼女が一番良く知っているわ。」
「なるほどねお母様、それで、新学期はいつから始まるのかしら......」
「明後日......それまでに制服なども取り揃えましょう。メアリー、今すぐに専属の服飾師の所まで行って採寸させましょう。」
「はい、それにこの子もバカにされない様に、ちゃんとした服を取り揃えなくては......」
「ええ、小物なども新調するわよ、ああ、楽しくなってきたわね......!!」
「お母様とメアリー、二人で物凄く盛り上がってる......」
「そ、そうですね。お二人共、今まで見た事ないぐらいに目が輝いてる......」
「さぁ、マリアンナ!!」
「さぁ、シェリー!!」
「「は、はい!!!」」
大きな声で私たち二人をお母様とメアリーが呼ぶ。
「早速制服や新しい服を採寸しに行きますわよ!!」
「その後には、ドレスや小物なども全て買いに行きましょう。大丈夫よシェリー、貴女のメイド服もオシャレな物に新調しましょうね。」
「い、いや、今の物でじゅうぶ......」
「私の時もお婆様に連れまわされたわ、この道は皆が通る道よ、さぁ、早速お買い物に行きましょう!!」
そして私とシェリーちゃんの必死の抵抗も空しく、二人仲良く馬車に入れられ、四人で町に出ることになってしまったのでした。