悪・Primus Magia
図書室から、王城の近くにある練習場へと私とシェリーちゃんは足を運んだ。
「ここに居る人たちは、皆さん立派な服を着ていらっしゃるわね。」
「は、はい!!ここは、上級貴族の皆様や、その召使などのみが使用を許されている我が国最高の魔術練習場ですからね。」
「それで、これからどうすればいいの?」
「えーっと、まずはあの受付に行くのではないかと......」
「分かったわ、行きましょう。」
シェリーちゃんに応対を任せ、しばらくしてから係の人に連れられて、最も奥にある最高級の練習場へと私とシェリーちゃんは向かった。
「す、凄いです!!上級貴族の皆様がこんなにいらっしゃる所なんて、私初めて見ました!!」
「確かにそうね。物凄く豪華な服を着た方が多いですものね。」
アホか、と言いたくなるぐらいに宝石をふんだんに使った服を自慢げに見せびらかしながら貴族たちが魔術を放っている。
「あ、あちらに、伯爵家のご令嬢が......」
「あら、マリアンナ様、お久しぶりでございますわね。」
「え、ええ、お久しぶりね。」
つかつかと寄ってきた気の強そうな少女が声をかけてくる。マリアンナと言う存在であれば知り合いなのかもしれないけど、今の私からしたら初対面の人だ、どうやってこの窮地を抜け出そうか......
「あら、マリアンナ様いかがしたの?」
彼女の取り巻きらしい少女がドレスを蹴り上げながら歩いて近づいてくる。
「いえ、どうもしないわ。」
まさか名前が分からないなんて言ったら、何を言われる事か......
「ああっ、それにしてもマリエット様はお美しゅうございますわ!!」
「ええ、そうですわね。流石は由緒正しきモンタニエ家のご令嬢!!」
「都では知らぬ者はいない美少女、マリエット・ジョルジーヌ・モンタニエ様!!」
何処からか湧いて出てきた取り巻きの女の子達その2その3その4が親切にも彼女の名前と地位を教えてくれる。
「マリアンナ様も、こちらで魔術のご練習をなさりに来たの?」
「ええ、そうですわ。」
「まぁ、私も練習に来たんですの!!良ければご一緒しない?」
「え、ええ、喜んで。」
「まぁ、嬉しいですわ!!では、早速......」
「も、申し訳ございませんモンタニエ様!!お嬢様の今の髪形ですと、美しい絹のような髪に砂ぼこりが付いてしまうかもしれません、ですので、髪を結う時間を頂きたいのですが......」
「そう、確かに髪に砂ぼこりが付くのは嫌ね。分かったわ。どうぞマリアンナ様、あちらに化粧室がございます。こちらは待っておりますので髪を結われたらこちらへと来てください。」
取り巻きの少女たちからの「マリエット様を待たすんじゃないわよ!!」と言う視線を感じながら化粧室へと向かう。
「シェリーちゃん、いきなりどうしてあのような事を言ったの?」
魔術の発動の仕方の本を読んでいる私の後ろで、台を使って髪を結っているシェリーちゃんに私は話しかける。
「お、お嬢様、モンタニエ様の御一族は先祖代々強力な魔術の使い手を代々輩出している名門貴族でいらっしゃいます!!対してお嬢様のお家であるセレナーデ家は王直轄の騎士を輩出してきた名門貴族......恐らく、モンタニエ様と取り巻き達は、お嬢様を笑いものにしようとしているのではないかと......」
「でも、シェリーちゃん、ここで引いたら負けよ。」
「ですが......」
「大丈夫よ、勝負もせず逃げ帰るよりは、勝負して負けた方が5,6倍はましよ。」
「......分かりましたお嬢様、あのモンタニエ様をぎゃふん。って言わせちゃってください!」
「ぎゃふん。って、完全に死語よね......」
可愛いポーズを取りながら死語を使ったシェリーちゃんを連れ、ポニーテールに髪を結った私は練習場へと向かう。
「あら、髪を結われると随分と雰囲気がお変わりになられますわね。」
「あら、有難う。では、始めましょうか。 」
「まずは小手調べですわね......【風】!!」
彼女が念じ、魔法陣が現れた次の瞬間に即座に指で古代文字を書き魔法陣が発動、小さなつむじ風が的に当たり、周りから拍手が起こる。
「ふぅ、ではマリアンナ様もどうぞ。」
「ええ、分かったわ。」
私も的の前に立ち、本に書いてあったことを頭の中で反芻し、魔法陣を発動させる。
青色の魔法陣の中に文字を瞬時に書き込む。
「【風舞】《ふうぶ》!!」
モンタニエ嬢よりも強力な風が舞うようにして的を襲い、的を破壊する。
「なっ......!!」
「何、先程のあの古代文字!!」
「セレナーデ様のお母様は大賢者の一族の出......」
「も、もしかして新しく発見された古代文字!?」
「ふぅ、初めて使ってみましたが、中々簡単ですわね。」
コレは事実、だって漢字書いたら発動したんだもの。漢字も一応三千年ぐらいの歴史はあるらしいし、古代文字と言われれば古代文字ね。
「っ、次に行きますわよ!!【風鈴《ヴァン・クロシェット】!!!」
新たに魔法陣を発動させ、無音の風が的の下にまとわりつき、上へと撫で上げ、的を破壊。
「お見事ですわ!!」
「音もなく敵に忍び寄り、優雅に倒す、モンタニエ様を体現したかのようなお美しい技ですわ!!」
「素敵ですわ、私もいつかあの様になりたいんですの......」
「......【風遊び】」
どうやらひらがなを入れてもセーフ、この感じじゃカタカナもOKね、どちらも千年前のものだし大丈夫でしょう。
無数の風が的にまとわりつき、クルクルと回っている風が砂塵を蒔き、相手の視界を封じる。その後、容赦なく鋭い風が正面から的に突き刺さり、あまりの風圧によって耐えきれなくなった的が破壊された。
「す、凄いですっ!マリアンナ様!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて手を叩きながら私を褒めちぎってくれているシェリーちゃんに優雅に手を振り返した後、モンタニエ様へと目を向けると、顔を真っ赤にしながらわなわなと震えていた。
「あ、貴女その奇怪な古代文字は何!?まさか、大賢者の一族秘伝の古代文字でも使っていらっしゃるの?」
「いえ、コレは私が見つけた古代文字ですわ。それに、この古代文字、誰でも使えるという訳ではなく、古代文字同じで、内容が理解出来ないと使用不可能ですの。」
そう、例えば風鈴。直ぐに思い浮かぶならば、古代文字を書けるのであれば直ぐに使えるようになる。
「っつ~~~~~~!!!!」
顔が真っ赤だったのが更に赤くなり、わなわなと震えていたのが一瞬だけ止まると、
「もう、帰りますわ!!」
「お、お待ちくださいモンタニエ様~!!」
と言ってその他4人の取り巻き達をお供に帰ってしまったのであった。
「お、お嬢様、凄いです、素晴らしいです、感動です!!お嬢様は天才ですね!!」
「いえ、そこまで大したことじゃないわ。もう帰りましょうシェリーちゃん。邸宅で一緒にお茶でもしましょう。」
「はい、お嬢様!!お紅茶は何がよろしいですか?」
「そうね、カモルーミでお願い。」
「はい!!では、帰りましょうか。」
そして、私とシェリーちゃんが練習場を後にする中、私達からとても遠い場所にいた老人がこう言っていた事を、私は全く聞き取れていなかった。
「なるほど、アレが女神の愛し娘か、さて、王に報告せねばな......」
あ、よっこらせ。と言った後、歩き出した彼は、いつの間にか、何処へと消えてしまった。
豆知識・タイトルのPrimus Magiaとは、ラテン語で初めての魔法と言う意味です。
結局、マリアンナは漢字使って魔術発動していましたが、魔王様と区別付けたかったのでラテン語でなんかお上品な物をつかってみました。