魔・神の手違いで死んで転生したら、魔王になっていました。
異世界転生。それは、思春期の少年達の永遠の憧れだろう。
大抵は、俺TUEEEEEEEE!!!!で、チート能力と武器持って、剣と魔法の世界を無双して女の子とキャッキャウフフでハーレムを夢見る事だろうし、他には孤高の剣聖にでも賢聖にでも拳聖にでもなって各地を放浪し、生きる伝説としてクールにカッコよく振舞うもよしだ。
そして、またその逆もしかり、どん底から這い上がり、厳しい現実の異世界を逞しく生きていく主人公たち、そんでもって成り上がりでざまぁ、それもまた楽しいものだろう。
だが、コレはいかがな物だろうかと思う。ゆっくりと目を開け、玉座から下を見下ろす。
自分の目の前にはありとあらゆるモンスターの皆様が居る。皆さんニヒニヒ笑いながら、命令を今か今かと待ち構えている。メンバーは、よく見るゴブリン、ドワーフ、スライム、その他もろもろ。人っぽい感じの中盤まで戦ったらアカンレベルの上級モンスターでさえ、今の私には頭を垂れて跪く。
「魔王様、どうぞ何なりとご命令ください。」
一番偉そうな人が私に命令してくれと言うと、私の目の前で跪いていた魔物の皆さんが雄たけびを上げ始める。
「魔王様ー!!」
「人間どもを血祭りにあげましょうか?それとも、人間どもを火祭りにあげましょうか?」
「我ら魔女ギルド、貴方様の忠実なる僕でございます。さぁ、なんなりとご命令を。」
「俺ら魔剣士ギルドも同じく!!」
「ふん、貴様らごときに魔王様がご命令なさるわけなかろう!!ささ、魔王様、どうぞ無能な魔剣士ギルドの連中と煩悩まみれの魔女ギルドの者どもは置いておき、我ら魔導師ギルドにご命令を!!」
皆がおいおいに私に命令をしてくれと頼んでくるので、右手で制して止める。
瞬時に静まった玉座の間、そこに私の声が響く。
「待て、人間を殺すのはダメだ。」
良く通るバリトンボイス。
「え?」
モンスターの皆さんぽかーん。開いた口が塞がっておりませんね、はい。
「お、恐れながら、もう一度お言葉を......」
恐る恐ると言わんばかりに、一番最前列で跪いていた人が、私に話しかけてくる。
「もう一度言うぞ、人を殺すのはダメだ。」
「え、ええええええええ!!!!」
モンスター達の驚きの声が響く中、私は思考を三時間前に飛ばす。ああ、一体全体どうしてこうなってしまったのだろうか。
三時間前......
「わーっ!!お母さん、お父さん!!娘は死にますた!!」
暴走トラックに信号待ちで突っ込まれ、僅か十四年の人生を終えた私の魂の叫び。
「おいおい、最後の言葉がそれってシャレか?」
「いやいや、心の中で叫んでたってだけでって......え、ここドコ!?クリーム色の美味しそうな壁がある!!」
ていうか、私死んだはずじゃ?何で喋れてるの?
「ったく、食い意地が張ってるな。ここは神の結界だ。俺は神、お前は人間、ドゥーユーアンダースターン?」
「は、はぁ、分かったけど。でも何で神様がここに......?」
「端的に説明すると、お前は暴走トラックに轢かれた哀れな女子中学生だ。」
「はいはい、今さっきでしたからね。ショッピングですよ。違った、ショッキングですよ。」
「で、お前が死んだの、アレ手違い。」
「手違い!?ちょっと、それで死んじゃった私って......」
「そう、それでだ、哀れなお前に俺が救済措置をとってやることにした!!」
「ひゅーひゅー、男前ー!!それで、救済措置って何かな~?」
「お前を異世界に転生させてやる!!」
「来たああああぁぁ!!お待ちしておりました!!テンプレだテンプレ!!」
異世界転生......うん、夢がある!!
「そこでだ、もうお前と一緒に手違いで死んだお前の親友、そいつはもう転生させておいた。」
「ほうほう、何にですかな?」
「フッ。それは後のお楽しみってもんよ!!」
「後のお楽しみだとっ!?いやぁ、美味しいですなぁ。」
「でだ、お前も早速転生させる。記憶も勿論そのままで行ってくれ。」
「ちょーっと待った!!」
「なんだ?質問か?」
「まず一つ、まさか最弱的なヤツじゃありませんよね?」
「最弱じゃないぞ。強くしておいてやる、チートだチート。」
「もう一つ、まさかとは思いますけど、男尊女卑だったりは?」
「しないしない。まぁ、中世のヨーロピアーンな感じの世界だ。」
「そりゃまたテンプレを地で行きますね~。」
「そ、お前第二の人生思いっきり楽しめよ~。サービスでチートや顔面偏差値も高めににし・と・い・た・か・ら。」
「え~っと、それで私は何をすれば?」
「目を閉じて~、1、2、3、でお前を転生させる!!」
「おお~っ、変な感じ~。」
「じゃあ、俺もできる限りサポートしたりだとかするからさ、質問したくなったら頭の中で俺の名前を呼んでくれたらいい。」
「了解。それじゃ、お願いしま~す。」
「じゃ、行くぞ、1、2、3!!!」
ぽわぽわぽわ~ん、キラキラキラ~ン。
気が付くと、重々しい中世のお城的な部屋の中に居た。それも中々な趣味の部屋で、端的に言うと逆さ十字だとか、髑髏だとか、そういう厨二病感溢れる小物満載の部屋だった。
「すごっ、水晶玉とかマジであるんだ。」
体を起こし、水晶玉が乗っかっている机を覗く。ほうほう、こりゃガラスじゃないみたいだな。
「ん?あー、あー、あいうえお~。」
ふと、声に違和感を感じる。今さっきまでは女子中学生らしい、高い声だったのに、今現在私の声は良く通るバリトンボイスになっている。
「え、何、何か神様手違いでもやらかした?」
バリトンボイスの女子中学生ってどうよ。ぶつぶつ言いながら部屋の中をうろうろしていると、男の人が居るのが目に映った。銀髪に、赤色の瞳をした珍しい配色の凛としたイケメンだ。年頃は、大体十代後半かな?服装は中々厨二病感溢れるこの部屋にあったいいセンスをした服装だ。異世界だし、当り前かな?服装も昔はあんな感じだったかもしれないし、瞳だけが赤いから、充血じゃないみたい。
「あの~、すいませ~ん。」
私が手を上げながら男の人に近づこうとすると、なんと相手の人も同じことを言ってきた。なぬっ、まさか、我が親友が彼に転生でもしたのか!?
「いや~、ここって異世界ですかね~?いや~、あってたらいいんですけどって......鏡?」
そう、男の人が居たのは大きな鏡の中、え?つまりこのイケメンさんの正体って......
「私ー!?」
思いっきり形のいい顔をつねったり引っ張ったりして確かめる、全部痛い。
「うそうそうそー!!神様アンタ酷いよ~!!あ、でもこの顔だったらなんかやってけそうだな。」
うん、取り敢えずこの豪奢な装備とかを売っぱらったらそれ相応のお金にはなると思う。どれを売っぱらうか考えていた所に、ドタドタと騒々しい足音が響く。
「ヤベッ、そういやここがどこか私知らないし......もしかして、見つかったらヤバいのかも...!」
私が慌てている間にも、足音はドタドタ言いながら近づいてくる。うそ~ん、第二の人生、これにて終了?
「いや、確かチートにしておいたって神様言ってたじゃん!!きっとイチコロだって。」
いや、でもあの人、私をイケメンにしてるよね。ちょっとの手違いで私を死なせたよね。
「ダメだー!!信用ならね~!!」
その間にも、着々と死神の足音は近づいてくる。ああ、終わった。
「何者だ!!」
バァン、と勢いよく扉がオープン、私の心はゴートゥ―ヘブン。勢いよく開けてここに飛び込んできたのはアニメとかでよく見る参謀格!!的な人で金髪に緑色の目、モノクルをかけている短髪のこれまた私に負けず劣らずのイッケメ~ンだった。
「いや~、何者という訳でもないんですけどね~、たまたまここに居たんですよ~。じゃ、失礼しました~。アハハハハ。」
もうココは自然な流れで自主退出、これで殺されないっしょ!!......追いかけられない限り。
「お待ちを。」
「はい、すいませんでしたー!!でも私が悪いわけじゃないんだよー!!文句言うなら神に言ってよ私は悪くないからね!!」
「いえ、先程のご無礼、お許しください。」
なんと、跪いて許しを乞うてきたのである。もう私の脳内パニック、どゆこと?よし、一回確認。私死んで転生してそんでもってなんかイケメンに転生して部屋の中に居たのを見つかって逃げようとしたら私を発見したモノクルイケメンさんに跪かれてるって......
「私、マモンと申します。恐れながら、貴方様のお名前は......」
「え、あ、名前......」
でも本名だったらなんかヤバくね?日本人丸出しじゃん、ここって一応ヨーロッパの中世みたいなトコなんでしょ?だったら......
「我が名はアルカードだ、マモンよ。」
おおっ、元の私が言ったら痛いだけの台詞が、この姿だとメッチャカッコいい台詞に大変身!!
ちょっとこの姿になってからやってみたかったんだよね~。
「は、恐悦至極にございます、魔王様!!直ちに魔王軍全軍を集め、人間界への進行を......!!」
「え、ゴメンちょっともう一回。」
「は、直ちに魔王軍全軍を集め、人間界への」
「違う、ちょっと前。」
「恐悦至極にございます。」
「惜しい、あとちょっと後ろ。」
「魔王様!!」
そこだ!!え、なに、まさか、薄々勘づいてはいたけど、私が転生したのって......
「魔王なのかよー!!!!!」
そして私が心の底から絶叫した後、魔王軍の主な幹部格の皆さんが玉座の間に集まり、私に向かって跪いている訳だ。
「魔王様、それは一体......」
「言ったはずだ、人は殺すな。殺したとしても、争いの火種にしかならん。」
さて、どうやら私は......魔王として転生し、このモンスター達を率いて、国を率いていかねばならんらしい。
その為にまず......
「ですが、人を殺してこそ我らが本望!!」
「そんな事、誰が決めた?」
首を傾げながらねめつける。これでいい、まずは、この人たちの凝り固まった頭をリーダーとして、魔王としてどうにかしてやらねばな!!