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憤怒

支度をする彼に、サタンが問いかける。


「どこへ行くんだ?」


彼は、彼女にどう説明しようか悩んでいた。

自分がこの場を離れようとしたら、付いてくるのではないかと。

だが、これから向かう先は、危険な場所であることが予想される。

そこに微力な魔族が入り込んだとすれば、どうなるか分からなかった。


「ちょっとな、依頼で少し遠くへ行くことになったんだ。

留守番、頼むな。」


「そうか、任せておけ。そう簡単に飢え死にせんよ」


「帰ったら沢山食べ物持って帰ってくるから、楽しみにしててくれ」


「その言葉が聞けて良かったよ。我は食べ物にはうるさいからな?」


他愛ない会話を終え、外で待つバルツインと、イルイダの元へ向かう。


「じゃあ、行ってくるな」


「あぁ。良かったな」


彼女のその言葉に少しばかりの疑問を持ったが、気には留めなかった。


「では、向かうとするか」


ルーデンツには二日かけて向かう予定で、まずはヴェーリヘの町を目指し、

一行は歩みを進めることになった。


「それにしても現状はあまりよろしくないな」


「うーむ、国のほぼすべての人間が魔物の支配を受けているのは、

大きな痛手だ」


「どんな魔物なんすか?」


「素性が一切割れてないんだ、こちらで情報を集めるしかないな」


イルイダですらお手上げとなると相当しんどい気がする。

ただ、一つ判明しているのは、魔物のスキルだ。

洗脳ということは、心理系統であることが分かる。

つまり、知能の高そうな奴らが所持していると考えたほうがいい。


「一つ思ったんだけど、アルベルド大陸出身の奴が犯人って訳でもないなら、

モンフ大陸から渡ってきた奴の仕業ってこともあり得るんだよな?」


「十分に考えられるな」


「流石師匠、モンフ大陸の種族は賢い奴が多いですからね」


「だが、それが分かったところで解決策にはならん」


一理ある。

出身が割れた程度で何かが変わるわけじゃない。

ルーデンツ周辺での聞き込みも視野に入れてみたが、

そいつらも洗脳されてたら思う壺だ。


「そいつのスキルは「洗脳」なのか、メタモルフォーゼしたものなのか、

はたまた別のものなのか...」


「あぁ~~!考えてても埒が明かないっすね!」


「一先ずは、何事も無くルーデンツに辿り着くことを考えよう。

既に「鬼」冒険者の計画も奴らに漏れている可能性があるからな」


危険分子は潰しておくに越したことはないってか。


一行はアルドーン森林を抜け、道中で見つけた古い小屋で休憩を取ることにした。


「結構歩いたけど、やっぱ遠いんだな~」


「ヴェーリヘにはあと二、三時間程度で到着する、気を抜かずにな」


「イルイダ、聞いてもいいか?」


「ん?なんだ」


「あんたの凄まじい力で、国を守ることは出来なかったのか?

その気になれば、出来たんじゃないのか?」


「それは無理だ。心理系統のスキルを持つ者と戦う際は、集団戦が基本となる。

洗脳自体は本来時間経過或いは、意識の遮断で解決可能だが、

ルーデンツを襲った魔物は一週間かけて、全ての国民を洗脳した。

この異常なほどの魔力で、分かるだろ?

相手は「鬼」以上、「龍」や「天」レベルの災害級だ。」


これから戦わなくてはいけない相手が格上で、心理系統持ち。

たった3人で勝機は果たしてあるのか?


「では進もう」


一時の休息が終わり、再び歩を進める。

災害級、それがどれほどのものなのか...

始めて、武者震いをした。


ヴェーリヘの町が段々と見えてきた。


「やっと宿で泊まれる~!」


正直な所、俺も早くベッドで横になりたい。

ずっと冷たい床だったからな...。


「止まれ」


イルイダが慎重な声で告げる。


「どうしたんすか!イルイダさん、もうすぐそこっすよ?」


「おかしい」


「ここに来る途中にもヴェーリヘには寄っていったが、

まだそんなに遅い時間でもないはずなのに、この辺りに人がいない」


「それが何かおかしいんすか?」


「ヴェーリヘにはドワーフがいるんだが、

そいつらは割と商売上手でな、この辺りにも旅人が見えると寄ってくるはずなんだ」


一瞬の静寂、警戒しながら町の中へと入っていく。

町に人は愚か、ドワーフの姿すら見えない。


「確かにおかしいっすね」


「後方に気を付けろ、全員背中を合わせろ」


その瞬間、わらわらと人々が群れて、こちらに押し寄せてきた。

動きは鈍く、まるでゾンビのようだ。


「危害を加える訳にはいかない、一人一人気絶させるぞ」


「了解!」


一人、また一人と動きの読みやすい奴から順番に気絶させていく。


「おやおや~、まだいたんですか」


中性的な声が背後で聞こえた。

そこには、仮面を被った長身の存在があった。


「お前は誰だ」


「あなたたちもすぐにそいつらの仲間になるんですから教える必要はないですね!」


杖を振りかざし、地面から複数の腐った死体が現れる。


「ネクロマンサーか」


甲高い笑い声と共に、死体は襲い掛かってくる。

先ほどまでの個体とは明らかに違うのは、速さと正確さと、そして凶暴さだ。


「価値あるもの!」


「主、お呼びでしょうか?」


「こいつらを救ってやれ」


後光が差しこみ、複数の穢れた存在は塵となって消え失せた。


「う~ん?なんだか面白い才能持ちがいますね、気になるな~。

ヴァンドス様の土産にしたいな~」


「ヴァンドス?誰だそいつ」


「至高の方、我が主であり、世界を統べる者ですよ。スキル「死者への冒涜」!」


先ほど塵になった死体たちがまた土の中から顔を出し、ベンの足を掴む。


「くっそ!」


「師匠!今行きます!」


「そうはさせないよ~」


四方から土の壁が出現し、ベンとネクロマンサーを囲んだ。


「この壁...」


「スキル「死体壁」って言ってね、人の死体で出来てるんだ。

骨とかも混ざってるから強度はそれなりって感じでね。」


「お前、死者を愚弄するのはその程度にしとけよ」


「説教かい?あははは。僕にとって死体なんてゴミと一緒なんだよ。

だって死んだら動かないじゃん、人形と同じ。

それなら利用した方が価値あるよね、あははは。」


「俺は、母が死んだから得るものがあった。

死んだ者ってのはな、ただ居なくなるんじゃない。

生者に色んな物を残して死んでいくんだよ。

死んだら価値がない...?なら俺が、価値を与えてやるさ」


ベンは怒りにより、新たなサタンのスキルを発現した。


「スキル「憤怒」!」


「また面白そうなスキルですね!もっと見せてください!」


壁から無数の手が飛び出し、ベンを捉える。

その手は次々に燃え上がり、灰と化す。


「このスキルは、怒りを力に、そして高熱に変換する。

俺の心拍数や血圧に反応し、触れる者を溶かす

ただ、それじゃ俺の皮膚も溶かししてしまうから、

存在証明のスキルを使って、肌に熱耐性コーティングが"有る"と錯覚させている。

だから...溶けるのはお前らだけだ」


「素晴らしいですね~!とても興味深い!弄り遊びたいな!君の体!」


周囲に生えた死体の腕は、竜巻のように回転し、足を切断しようとするが、

触れる前に、異常な熱量で瞬時に灰へと変わってしまう。


「あながち間違ってなかったかもしれないな。

お前の死体は、無価値だよ」


「ああああああああああああ!!溶ける!あぁ!」


全てが溶け消え、何も残らない。


「悪い、お前の場合は死体すら残らない程価値が無かったみたいだ」


「大丈夫か!ベンくん!」


「師匠!ご無事で!」


二人は壁の外のゾンビ達を一掃し、ここに存在した全ての人間は、

ルーデンツに幽閉されているのではないかという考えに至った。


一方、ルーデンツでは...


「ヴァンドス様、ヴェーリヘに送っていたネクロマンサーの死亡が確認されました」


「あらそう、あいつ気持ち悪かったから死んで良かったんじゃないかしら」


「「鬼」冒険者率いる3命により駆逐されたと思われます」


「「鬼」かぁ、ちょっとは楽しめたらいいんだけどな~」


「次の刺客は既に送っております、ご堪能ください」


ヴェーリヘの町を抜けた一行は、ルーデンツを目指すのだった。

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