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鬼がきた

ひょんなことから仲間が出来た訳なんだが、サタンは俺に何も教えてくれない。

あれからバルツインとは、様々な依頼をペアで熟し、俺の階級は「魚」へと上がった。

今の俺のメインウェポンは、「無価値なもの」と呼ばれるスキルで、

発動時に、一定の血液を代償にしなくてはならない。

その後は自律して行動し、主である俺が命令するまでは退散しない。

あの時にベリアルが現れたのは、血を流していた為だったらしいが、

自動的に召喚される場合でも、血液は必要になる為、

出血がなければ、召喚はされないようだ。

段々「無価値なもの」の扱いにも慣れ、少しずつ自分に自信が持ててきた。


「師匠、今日はこの辺で」


「あぁ、今日もありがとう、また明日ね」


「はい!では失礼します!」


バルツインの一変した態度には数日で慣れたが、気分は悪くない。

アルドーン森林での一件はパークルの町だけでなく、隣町の「ヴェーリヘ」にまで及んだ。


ルクターシアには五つの大陸が存在し、俺が生活している大陸は、

「アルベルド大陸」と呼ばれている。

この大陸は、比較的温厚な種族が住みつき、人間、ドワーフ、エルフ等が挙げられる。

アルベルド大陸から架けられた大きな長い橋が、他の四つの大陸に繋がっている。


一つは、「モンフ大陸」と呼ばれ、獣人族や知性の高い種族が住みつく。


二つ目、「エルマール大陸」、巨人族などの、大きく気高い種族が住みついている。


三つ目、「パシフィカント大陸」、主に水性の種族が住みつく、

綺麗な人魚などもここで生活をしているようだ。


四つ、「グリンズガルディア大陸」、凶暴な魔物や、未踏地域が多数存在する。

階級「鬼」以上の冒険者でなければ通行すら許可されない領域だ。


まぁ、人間が普通の生活をするのであれば、他の大陸に移動する事はまずない。

ヴェーリヘは、このパークルから歩いて半時間の場所に位置し、

この町よりも少し貿易が盛んなぐらいで、こことそれ程の変わりはない。

俺はこの町から出たことはないし、出る必要もなかったから気には留めなかったが、

なんでも冒険者ギルドで聞いた話では、近々アルドーン森林での一件を受け、

多数の冒険者チームを派遣し、調査を開始するとかなんとか。

トラブルに関わりたくはないんで、ひっそりとしてようっと。


薄暮が訪れ、ベンは帰路に着いた。

家で大口を開き眠る少女に目もくれず、自らの置かれている状況に笑みを零す。

窓から入り込み風が頬を掠め、肌寒さを覚える。


「今日の晩御飯は暖かいものにしよう」


身体を小刻みに震わせ、夕飯の用意を進める。


「ん、帰ったのか...」


起きてきた少女に軽く返事を返し、完成間近のスープに仕上げを終え、

テーブルへと運ぶ。


「今日は森で取れたキノコとか報酬で買った野菜を入れたスープにしてみた」


「おお~我はキノコ大好きなのだ、早くよこせ~~」


目を輝かせ、飛びつこうとするサタンを落ち着かせ、とりわける。


「サタン、あんたって俺のこと、聞いてこないよな」


彼女の表情が一瞬固まったかと思うと、いつもの口調で答える。


「お前のことを知ってどうなるんだ、我には関係のないこと」


「そっか」


ベンは少しほっとした。

彼は、自分の事をあまり話したがらない。

それは恥ずかしさなどからではなく、悲しくなるからだ。

自らの過去、母がルクターシアの意志により、消滅したあの日。

彼の思い出には、いつも母がいた。

思い出すと、悲しみで押しつぶされそうになる。

6歳の頃から、一人暮らしを余儀なくされ、親戚はいなかった。

だが、彼は生きることを諦めなかった。

挫けそうになりながらも、過酷な道である冒険者という選択を取った。

それは、様々な場所へ赴き、ルクターシアの意志とはなんなのかを知る為だ。

今の俺になら、それが出来るんじゃないか?

頭の片隅で、彼はそんなことを思った。


「おーい、なにぼーっとしてるんだ?」


頬を突く感触で、はっと我に返る。


「我はもう寝るぞ、お前も明日早いのだろう?寝るのだぞ」


一足先に寝床を占領され、今日もまた冷たい床で寝ることが確定し、

憂鬱になりながら就寝した。


「師匠~~~!!!」


目覚ましが男の声だなんて目覚めは最低だが、時刻を確認すると、

ギルドに依頼が掲載される時間だ。

昔の俺なら、もう二眠り程するが、今は違う。

バルツインを連れ、冒険者ギルドへと歩みを進める。


「あ、そういえば聞きました?今日らしいですよ、派遣されてくるの」


「あぁ、アルドーン森林の調査だっけ?、えらい早いな」


「なんでも階級「鬼」冒険者が調査チームのリーダーとして来るらしいですよ」


階級「鬼」、その階級を持つ者は、ここアルベルド大陸では数十人程度だ。

その強さは、宛ら鬼人の如く凄まじい影響力だそうだ。

十分に警戒しておこう。


冒険者ギルドに着いた二人は、依頼掲示板に目を通していると、

背後から声をかけてくる男性がいた。

男はローブを纏い、顔は口元までしか確認できない。


「すまない、パーティを組みたいんだが、いいかね?」


「おっさん、階級はどれぐらいだ?」


バルツインは、俺とサタン以外の人間には大体こんな感じでドスをきかせる。

少し恥ずかしいので控えてほしいが、まぁ、変な虫がよってこないからいいけど。


「私は「鳥」だよ、問題ないかい?」


「師匠、問題ないですか?」


「あ、ああ全然かまわないよ」


「ありがとう、恩に着るよ」


「にしても、なんで俺たちなんです?」


「他の人たちはパーティを組んで、出て行ってしまってね、

君たちぐらいしかいなかったんだ。」


周りを見渡すと、冒険者の姿はおらず、3人だけが依頼掲示板の前に居るだけだった。


「私の依頼、一緒に来てくれるかい?」


「あぁ、構わないぜ」


「俺の名前はベン、こっちはバルツインだ、よろしく」


「名をイルイダと申します」


一行は、アルドーン森林に生息するカマキリヤンマの討伐に向かった。

カマキリヤンマは、素早い動きと木の幹ですらなぎ倒す鎌を保有する。

スキル「切れ味」を所持し、大抵のものなら容易に切断が可能だ。


「師匠」


「来たな」


刹那、凄まじい羽音と木を抉り倒す音が響く。

3人はそれを避け、イルイダは弱点属性の炎魔法の詠唱、

後の二人は囮として、標的を逃がさないようにポイントへとおびき寄せる。

次々となぎ倒される大木の残骸は、その圧倒的な切れ味を証明し、

数々の冒険者を葬ってきたのも合点がいく。


「バルツイン、次のポイントで、迂回して戻れ!」


「分かりました!」


こういう場所だと長い刀や、槍といった武器は邪魔になりやすい。

俺の持つ短剣などで軽傷を与えつつ、被害を抑える。

攻撃は見事に命中し、カマキリヤンマは逃亡を図るが、


「ありがとうございます、行け!ファイアースナイプ!」


魔力で生成された炎を纏った大きな矢は、カマキリヤンマの心臓を貫く。

身は焦げ、依頼は成功した。


「ナイスです!いやぁ、凄い魔法だな」


「中々やるじゃねえかあんた」


「いえいえ、お二人のおかげですよ」


一同が依頼の成功に安堵し、気が抜けたその時。


茂みから現れた大蛇を目撃した。


「あれは...」


「オオムカデが居なくなった影響でしょうね」


「双蛇・ウロトキアプルだ、まずい」


こいつは本来、アルドーン森林を抜けた先のイブリヘル洞窟に生息している。

二つの首は、お互いに意志を持ち、スキルも二つ持ちだ。

階級「鳥」の冒険者では、到底太刀打ち出来ない。

だが、ここで「無価値なもの」を召喚したとして、どう説明すればいい。

あまり他の人には見せたくないし、出来れば隠しておきたい。


「お二人共、申し訳ありません」


突如、イルイダは二人に謝罪をする。


「ここは私がなんとかしますので、お逃げなさい」


「おいおい!死にてぇのか!あんたじゃ無理だ!それに、

詠唱してる間なんて与えてくれねえぞ!」


「いやぁ、私、本当は...」


ローブを振り払い、上等な装備を身にまとった戦士がそこにはいた。

殺意のような、恐ろしい覇気を浴びながら、

2本の大剣を背負い、ウロトキアプルと対峙する。


「「鬼」なんです」

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