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無価値なもの

十分な睡眠も取れず、鶏の鳴き声により朝がきたこと告げられ、憂鬱な気分でテーブルに落ち着く。


「あんまり寝れなかったな~~」


「確かにな~~」


いやいや、普通に突っ込むからね?

なにしれっと起きて貴重な食材食い散らかした挙句、ベッド占領しちゃってるんです?


「あ、あのぉお嬢さん、昨日のことは覚えておりますでしょうか?」


「ん、うむ。我はちゃんと覚えておるぞ。それがどうかしたのか?」


「それならいいんですけどね、サタンがどうとかって...」


「それは我の名だ。我は、悪魔の長であったサタンだ」


そんな気は薄々してたんだが、結構軽いのね、悪魔って。

というか、悪魔とか実在するんだ。

なんで悪魔の長であるサタンがこんなところにいるんだ。

普通に駄目だろ、しもべみたいなの連れとけよ。

というか、だったってなんで過去形なんだ。


「我は既に悪魔の長ではないし、悪魔でもない」


「つまり?」


「なんか飽きたからお前に全ての権限を渡した」


飽きたから渡すってどういう神経してんだよ。

突っ込む所多すぎて疲れてきた。


「えっと、では、今は俺が悪魔なんですか?」


「そうだな、詳しく言うと悪魔の長だ」


納得は出来ないが、アルドーンオオムカデを消し飛ばしたってのは事実だ。

取り合えず早々にお帰り頂いて、これからのことを考えよう。


「話は大体わかったんで、一先ずお引き取り願えますか?」


「やだ」


即答かよ。


「どうしてなんすか!?家の方が落ち着くでしょ!?」


「家と呼べるような建物はあるが、あそこはどうも好かん」


好みで選ばれても...。

ここに飽きたらどっか行ってくれるのを期待しよう。


「分かりました。じゃあ俺はギルドへ向かうんで、静かにしててくださいね」


「ギルドとは何か?我は貴様に問う」


「あ~ギルドっていうのはお金を貰える所です」


「なに!?素晴らしいところだな」


「ちょっと語弊があるんで、言い直すと、

魔物を倒したり物を集めてきたりすれば、それの見返りで、

お金が貰えたりするんです」


「うむ、大体把握した。では、我の為に働いてくるということだな?」


「いや、二人の為っすね。俺も生きなきゃいけないんで」


「そうか、分かった。頑張ってくるのだぞ」


意外と素直?なのかな。

ベンは身支度を済ませ、冒険者ギルドへと向かう。


ギルドに入るや否や、怒号が聞こえる。


「おい!誰だって聞いてんだよ、あのオオムカデを殺った奴ってのはよ!」


「ですから!こちらとしても現在捜索中なんですよ!」


どうやら受付嬢と冒険者が言い合いをしているようだ。

あの冒険者の顔に見覚えがある。

階級「鳥」のバルツイン=アーゼフ

【豪刀】と呼ばれる固有スキルを所持しており、

刀での攻撃時に、斬撃判定か物理判定かを選択できる。

つまり、刀にもなるし槌にもなる。

素早い剣捌きでハンマーを扱うことだって出来るわけだ。

出来るだけ絡みたくはないな...。


「今日の依頼は~っと」


「おい、そこのへなちょこ」


あの、早くない?

自分でもびっくりしたわ。


「あ、俺っすか?」


「お前以外に誰がいんだよ、お前、俺の依頼についてこい」


ここで疑問に思う方もいると思うので説明しておく。

俺の階級は「蟲」、対して「鳥」のバルツイン、

もし二人が「魚」の依頼を受けようとしたら、受けることが出来る。

ただパーティを組むことが条件となる。

パーティを組むことで、一番階級の高い冒険者が適正となるからだ。

だが、断る事も出来る。

お互いの同意無しでは組むことは出来ないからだ。


よし、断ろう。絶対断ろう。


「よしいくかぁ」


無理でした。

いや、目つき怖いし、行かなかったら因縁つけられて面倒そうだし。


「今回の依頼はアルドーン森林の魔物退治っすよね?」


「あぁ。お前は囮役だ」


やはりか。

そんな気はしてたし、こういうことは頻繁に起こっている。

冒険者になった以上、連携は必要になる。

そして囮は連携の一つの手段だからだ。

それを断るということは、協力的ではないということだ。

依頼の成功率を低下させる行為は出来ない。


「分かりました、じゃあ行きましょう」


ゴブリンの群れが今回の目的。

20m先に4匹のゴブリンと、その奥に1匹、計5匹ぐらいか。

恐らく奥にいる奴が大将だな。


「頼んだぞ」


「了解っす」


作戦は簡単だ。

俺があいつらの目の前に飛び出してこっちに走って戻ってくる。

そこでバルツインの斬撃で一網打尽、簡単だ。


「うぉーー!!!」


ゴブリンたちはこちらに気が付くと、なぜか、静止した。

計画では知能の低いゴブリンは冒険者を見つけると襲ってくるはずなのだが。

対峙する俺は気づいた。

止まってるんじゃない、気絶してるんだと。


「おいおい!何やってんだ!」


「何やってるって!気絶してるんすよこいつら!」


バルツインも、この光景には唖然とする他なく、ゴブリンたちではなく、

俺を訝しげに見つめ、その眼は何かを疑う目へと変わっていった。


「この森でオオムカデがやられたのは知ってるよな?」


「昨日のことですからね、知ってますけど」


「そん時、アルドーン森林に言った奴がいないか受付嬢に聞いたんだが、

たった一人だけいたんだよ......お前がな!」


刀が目の前を横切った。

その一閃は落ち葉を粉々に砕き、骨の様に風に運ばれた。


「いきなりなにするんすか。冒険者同士の決闘は許可がないと無理ですよね」


「こんな森の中で誰かが見てるとでも思ってんのか?」


再び振り下ろされる刀を何とか躱し、次の斬撃に備える。

早く、逃げないと。

後ろを振り返った直後に頭に激痛が走る。


「うあああああああああ!!!」


ぽたぽたと流れる血は、紛れもなく自分自身のもの。

動くことすら困難で、身体を必死に擦りながらパークルを目指す。


「悪いな、お前じゃなかったらしいわ。傍観者に愚痴られんのも面倒だから、

ここで永遠に休んでな」


あ、終わった。完全に終わった。

ここ最近良いことなかったな~。

死ぬ前に沢山色んな物食べたかった。


「じゃあな」


一太刀は、ベンの額の前で止まった。


「あなた様が、新たな主でよろしいのでしょうか」


「なんだ....こいつ...!なんて怪力だ...!!」


バルツインの刀を素手で粉砕すると、こちらに手を差し伸べ、笑顔でこう言った。


「初めまして、主。名をベリアルと申します、お見知りおきを」


「どっから湧いて出た!」


「まずはうるさい蠅を処理しますので、暫しお待ち頂けますか?」


やばい、止めないとバルツインが殺される。


「待って!」


「どうなされたのですか?あの者を始末するために、

お呼びになったのではないのですか?」


「間違って呼んじゃって...ごめんなさい」


「ああ///主様が私に謝罪を!あぁ、イケませんわ、イケません。

でしたらベリアル、主の為にここは一先ず一人あそb...いえ、

退散させて頂きますね、失礼いたします」


今のはなんだったんだ。

めちゃくちゃエロいお姉さんが現れたと思ったら、主って俺のこと?

とにかく、バルツインから逃げないと。


「すみませんした!!!」


はい?

なんでこの人謝ってんの?


「俺!!オオムカデを倒したっていう人に弟子入りしたくて!まさか、

貴方様だったとは思わなかったっす!!弟子入りさせてください!」


急展開過ぎて、ちょっとギブ。

次に俺が目を覚ましたのは、自宅だった。

そこにはサタンと、バルツインが俺の顔を覗き込むようにして、

いや、サタンの方はどことなく面白がってやがるな。


「あぁ、ベンの師匠!ご無事でよかったっす!」


「あ...あぁ、それにしても、よく家まで運んでくれたな」


「運んだのはサタンの姉御っすよ!」


「褒めてくれてもいいのだぞ」


「力は無くなったんじゃ...?」


「ある程度の事は出来る。羽を生やしたり、治癒したりな」


何はともあれ助かってよかった...。

一時はどうなる事かと思ったが、生きてる!それだけでおっけい!


「あ、サタン?森でめっちゃエロいお姉さんに助けられたんだけど、あれって?」


「あぁ、ベリアルのことか。あいつは主に危機が迫ると自動的に召喚される使い魔で、

スキル【無価値なもの】だよ」


「自動ってことは、手動で出すことも出来るのか?」


「勿論」


じゃあ、あのお姉さんとラブラブランデブーも夢じゃないのか。


「他にはどんなのがあるんだよ、教えてくれよ」


「駄目だ。それはお前自身が見つけろ」


「ケチだなぁ、教えてくれたっていいのに」


「ベンよ、我が与えたスキルを全て習得した時、それが我との別れになると知れ」


いつかベンは、その言葉の意味を痛感する事になる。



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