圭君、尻軽と叱られる
明けましておめでとうございます、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
☆
初めまして
いきなりこんな手紙渡して、ごめんなさい
バスで何度か逢っていますが、きっと気が付いていないでしょうね
前から言いたかったんだけど、圭君のことが好きだった
話したこともなく、みているだけの存在だったけど、こんなカワイイ人がいるなんて、心臓が潰れるのではないかというくらい驚きました。
この感情を整理し、言葉にすれば
圭のことが好きです、このキモチに嘘はありません
つきあって欲しいです、お返事をお待ちしています。
☆
開いていた視聴覚室に隠れ、誰も見ていないところで手紙を開封して読んだ。
「まあ、ラブレターだ、ね」
つぶやきながら、何度も字面を追うの、なんでって嬉しいから。イマドキLINEとかスマホでのやり取りじゃないラブレターってところ、思わず笑っちゃった、嬉しくってさ、別に悪くなんかないし、ボクのことカワイイって書いてくれるところなんかニコニコしながら何度でもみてしまうし音読しちゃうくらい。短くて簡潔な内容なんだけど、手書きって言うのもポイント高くて、真心が伝わってくるみたい。とにかくうれし楽しい、ボクみたいに一度でも陰キャラになったことのある影を抱えた存在を認めてくれるってホントウに満たされる、もうここまで言うと恥ずかしいくらいだけどこれって渇望っていうのかな、魂ってあるのか分からないけどそれくらい根深く承認されたいっておもっているの、罪深いくらい。
そうなると気になるのは一体だれがこんな素敵な、でも爆弾みたいなラブレターをくれたのかって、つまり問題はこの差出人ってとこなんですけど……
「もし逢ってもいいと思ってくれるのなら、明日の登校時、ピンクのリボンをつけて欲しいです 田畑純平」
とあったから……えっ? 男の子! って、いやいやいや男の子からって、なんかびっくりしちゃうっていう。モデルやってる心愛より可愛い姿って言われるの嬉しくて、街で二度見されることを楽しんできたけど、うーん、どうしようか? 気持ち的には嬉しいけど、ところでこの純平さんどなただったかな。どこかで聞いたことのある人なんだけど……? ボクのことなのに、なんかひどく複雑な感じで、どうせだったらみんなに相談してみることにした、つまり態度は決めかねちゃう感じ……
「圭君のその姿勢は正しいとおもいますわ」
嬉しそうに褒めてくれる心愛ちゃん、すっごい楽しそう。今日子もやっぱり興味はあるのか、「この田畑純平って確か……」って手紙にみいってる。春花はなにか怒ったように頬ふくらましているしで。
「化学の先生かいっこ上も先輩のどっちかだな」
「すごいですわ! まさか先生から告白を受けるなんて! その先生だとするならどちらの圭君に思いを寄せているのかしら」
直球のえげつないこと言う子だなあって、心愛ちゃん怖いよ。
「先生が本気で告白なんかするかしら? ボクはそんな先生嫌いだな」
すねた様にいう春花だ、別に気持ちは分からないわけじゃないけど、もともとは彼女の悪戯心から起こっている事なのにさって。
「じゃあ先輩なのかな?」難しい顔の今日子だ。
「この手紙の文面からだけじゃわからないよね」いったいどっちなんだろうか? ってそれはやっぱり知りたいし。
「ホントに先生だったら、ちょっとたいへんなことになるだろ、圭の親にばれたらもっとめんどくさくなるじゃん、非常識っちゃヒジョーシキだけど、結構熱烈なこと書いてるもんな、どーする? お前の正直な気持ちいってみろよ、案外スッキリするかもよ、春花もそれでどうだ?」
自分の心を頭を整理することは大事なことなのかもね、まあ折角だし、話してみることにしよう。
「まあ、ビックリしたっていうのかな」
春花の表情が曇っていく、でもそんな顔してくれるのも嬉しいし、もうちょっと行ってみようかなって。
「案外まんざらでもないってのはあるよ」
「……圭君!」
なんか彼女が顔を赤くしてプルプル震え出してる、反応超面白いって。そんなに心配してくれるんだね。心愛そんなにニヤニヤしないでよって。
「でも春花のことが好きだからね」
ぱあって顔が明るくなるの、わっかりやすいなあ、ホント面白い! 嫉妬してくれて嬉しいってのあるし。
「なんかテメエらのやり取り見てるとムカつくなあ、まあいいや、で、じゅあ返事はどーすんだよ?」
…………………………………………
その日家に帰ると妹がいて、両親はまだ帰ってきてないって、
「なんかまだ違和感あるんですけどぉ、やめる気はないの? まあ兄貴が好きでやってるのは認めてもいいかなって思うんだけど、お父さんがこの間一人で夜中泣いていたのはちょっとショックだし」
「えっ」
ドキリとさせられる、お父さんの泣いている所を想像してしまったから。
あれから数日間、ほとんど両親とは口をきいていない、だって空気おもいし、でもちょっとだけだけど妹は何とか話すことは出来るようにはなった。
だから学校でもらったラブレターの一部始終を思い切って話してみた。とても両親には告白できないけど、まだ妹ならって。
「うわーそんな事あったんだ~」
ってやっぱり驚かれた、当たり前だけど、なんか心配してくれてるみたい。
「で、兄貴はどうするの?」
「茜のピンクのカチューシャ……」
時々妹が付けてる、リボンの付いたカチューシャのことを思い出したの。
「……それ、マジに言ってるの……?」
告白を受け取るっておもっているだろうね、
「大丈夫、心配かけないから、アレ一日貸して!」
増々わからないって顔された、まあでもきっとうまく立ち回れるって、「大丈夫!」って、何とか説得したわ。
翌朝、あざといくらい大きなピンクのカチューシャを頭に乗せ、ちょっと子供っぽくメイクをしあげてみた。
「まあこんなのもカワイイかな?」
鏡にむかってひとりごと。
そして颯爽と玄関を飛び出した、もう近所の目なんか気にしないんだ。かわいいことは悪いことじゃない、自分のできる範囲でボクの世界で生きていけばいいじゃん。
登校のバスに乗り込んで、今日子の一つ前の席に座る、そしてその時を待つの。もちろん結構緊張したよ、もう前も後ろも分からなくなる位ね。
バスの走行中、ボクの隣りに座ってくる男の人がいて、
「ありがとう、手紙読んでくれたんだね」
チラッと車窓に写る彼の横顔をみる、拍動が早まるのを感じた。
結構なハンサムさんだ、ってか先生だよ! 田畑純平、まだ若くて、女子の間ではポイント高い先生だ。え~~~~~~!!
後ろで今日子も驚いてるだろうな、顔は見えないけど、一体どんな顔してんだろう……
「後で学校付いたら、進路相談室でお話があります」
少しの恥じらいを見せ、ってか、本気でハズイんで、棒読みもいいとこ。
「……」
居たたまれない、なんか言葉に出来ない変な空気を乗せたまま、バスは何時も通りのコースを走り、私達を江戸蔵高校に運んでくれる。
リボンのカチューシャを見て、心愛も春花もそして今日子まで、進路相談室の前で聞き耳を立てているんじゃないかな、見えないけど何か物音するし、多分ね。
「まず本当にごめんなさい、手紙に書いてある通り、ピンクのリボンを付けて来たの、先生を炙りだすためだったんです」
手紙はそして動かぬ証拠となるでしょ、もしこんな手紙が明るみになれば最悪、懲戒免職されるかもしれないし、処分歴くらいはついちゃう、でもそれだと親にもバレて、ますます関係悪くしちゃうし、なんとか穏便に済ませたい。
「ボクは先生のことがちょっと心配なんですよ、歳の差で10歳も離れていると、ほら高校生って1歳の差でも大きいでしょ? こんなことで先生を追い詰めたくないけど、これはお断りするしかないって……でも、手紙は嬉しかったんですよ、ちやほやされるのって好きだし楽しいし」
フォローも入れたけど、きっぱりと断るのも必要だ、今のボクでは先生の気持ちに応えられないもん。
「そうか、済まなかった、自分もどうかしてた、君が男の子だとわかってから、大人としてのふんべつを欠いていた……」
じゃあ先生って、ボクが男だとわかって行動していたんだ! いやこれは意外な告白でした。でも、あんまりちゃらちゃら、ひらひらしてると手痛い目にも逢うって、少し反省することにしようって。
「先生、いい思い出、ありがとうございました!」
そういって机隔てた先生のおでこに「ちゅっ」って軽く唇を当てたわ。これ以上すると大変なことになっちゃうし、思い出としてねって、そしたら先生顔真っ赤にして黙っちゃう。ヤバイね、誘惑するのって楽しいよ!
そしたらその時、例の寒気がして、春花にバッチリみられちゃたんだ、もう凄い怒っちゃうの、妬かれたのって、地獄の様な心象風景、さながら百鬼夜行を見せられて、その後大変だったんだから!
実は後日談があって、進路指導室の前で三人が相談し合っていたんだけど、
「春花ちゃんが先生に憑依して、記憶消してあげればよくありませんか」って心愛が言っていて、
「嫌です、却下」
「別にそれで良くね?」
合理的でいいと今日子は思ったんだろうね。
「好きでもない人に憑依するのなんて、考えただけでぞっとしちゃう……」
で、心配になってボクに乗り移ってきたってのが真相で、
「あんま先生からかうようなことすると、誤解されるから気をつけな、この尻軽!」ってしっかり今日子に叱られました。
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