男の娘ってめんどくさいかも
ちやほやされたり人気を得るって楽しいですよね、っまそんな感じで。
もちろんそんなことがあるってわからないじゃない? まあ相手も悪いんだよ、ちょっと状況考えればさ、ってかそんなことわかってやってたんじゃないのって言ったら失礼だよね。
「うっす、今日も綺麗だな」
「はよ、今日子」
若干暗い表情を隠し、挨拶を交わす。
「あーん? なんかテメエ顔くれーぞ」
ってほっとけ。
「あー昨日、親とさ……」
「やっぱりオレの心配した通りになったか……でも懲りないで女装してくるんだから圭はかっこいいよ」
まあ今日子の予想通りになったわけで、でも今日も男の娘でいることから、ボクの決意は変わらないし変えるつもりも無いしで、まあそういう事で。
バスを降りて、すっかり葉桜に変わり、青葉の薫りがむんむんとし始める五月、東京東部の江戸蔵高校は隣県のせいなのか、風に乗って田んぼの泥の匂いが流れてくるの。
場所柄この辺り一帯は蓮の産地として有名で、わが校のモチーフにもなっていたりでね、嫌いじゃないのって、ていうか好きな花なんだけど、泥の中でしか綺麗な華を咲かせられないの。
下駄箱でさ、こんなシチュエーションって漫画なんじゃないかっていう、なんか手紙が一通はいってるんだもん。
「……」
固まったって、ううん。相手に失礼よね、思考停止したっていうのか、身動きが出来ないって……その背後から心愛ちゃんがのぞき込んでくるの、
「な、なに!」
挙動不審ってこんなの言うのかって、もうちょっと反応どうにかできないのかって、馬鹿じゃないのボク!
急いで背中で下駄箱を隠した、超嫌な予感が頭よぎったし。
「な、何でもないし、下駄箱の体臭嗅がれるの嫌なだけだし、って心愛……おはよ」って顔近いって! 唇触れちゃいそうじゃん!
「後ろ……何隠していますの?」
ぎくりっ、なんて目のイイ、勘の鋭い娘だろう、でもここはトボケなくちゃいけない。嘘を吐くのは悪いことじゃない、相手を守るのに方便ってあって何が悪いっていう訳? 悪くないよね、ボクは正しい。
「し、知らない、なにもみてないし、みてないからね、みてないって」
言った途端、あ、こいつつまんね~って顔した、もうちょっと言い方ないのかよってシラケた表情。
「何もないのでしたら隠す必要ないのでは? ほら、そこどいてくださいません!」
「ちょ、ちょっと、まって」
「待ちません、なにか香ばしい薫がそこからしますわ」
「しないしない! 人の足の匂いなんて香ばしくないって!」
必死に背中を隠すボクを心愛ちゃん力ずくで背中見ようとするの、えーこんな娘だったっけ? 身体で力でグイグイ押してくるの、こんな力どこにこんなカワイイ顔してって感じで、朝っぱらから傍目に美少女同士の痴話げんかみたいな感じになっちゃった。
「なに朝っぱらから相撲してんだテメエら」
って今日子呆れてんし、てか絶対に見られちゃいけないっって、やっべ負けそ……どうでもいいけど見世物じゃないし、生徒のみんな渋滞してこっち見てるしって、
「ボケっとしてないで手伝いなさい! 今日子!」
あまりの気迫に周囲集まってきた人が引くくらいの剣幕だ、
「お、おう」
心愛とボクの力が釣り合っている所を、急に今日子が腕でどしんって押したもんだから、ボクと心愛がもつれて転んじゃって、つうかなんだこのパワー? この娘ホントに女?
そのどさくさ紛れにね、
……!
甘い熟れた桃のような感触をボクは忘れない、あ~あ、また口紅とれちったし。
つまりさ、心愛と口づけしてしまったの。
ざわざわざわざわ……
僕が下で、心愛が上。何このシチュ? 見た目女の子同士がそれも誰からみても美少女どうしのキスって、やばいでしょ。
「圭君、浮気ならボクの見えないところでしてくれないかな?」
ざわめく群衆の中、さめざめとし、でも口を尖んがらせた恋人春花が、冷ややかに上履きに履き替え、さっさと教室に向かってしまった。案外クールなところあるんだね、でも心ン中マグマが凄いだろうな。
「……うわ、この中身ヤバそう……」
そう言って今日子は渦中の手紙をスカートにしまい込んだわ。
「まあ鼻突っ込みたいっていうのは理解できるけどよ、人に当てたラブレターを回し読みとかってちょっと下衆だと思うんだよ、何怖い顔してんの春花? いや圭と付き合ってるのは重々わかってもさ、この手紙は圭宛だし、オレらがかかわるべきじゃないと、決めるのは圭でいいということで」
珍しく今日子がボクの味方に立ってくれたの、超うれしい、この娘意外に姉御肌なんだね。
「絶対に嫌です! 下衆で良いんです!」
こんなおいしい話ないって、興味深々で引くきゼロの心愛だ、
「頼むから堪忍してください」
「嫌、絶対嫌」
即答!? 大体今日子の言うとおりボクの案件なのに……
「大体今日子さんだって絶対興味あるはずですのに、それに春花ちゃんだって圭君の彼女なんですから読む権利はあるはずです、その友達の私が彼女を支えるのも当然でしょう! だったら私がその手紙を読むのも当然の権利なのですわ」
ここまでいうか! って感じ。
「凄げ~ジャイアニズムだな、昔から付き合いなげーけど、やっぱ心愛だなって、でも決めるのは圭だろ?」
心も身体も憑依できるってこういうときすごく厄介だ、ボクの得た情報とか感情、全部ダダ漏れになっちゃう。それをもし春花が話せばそれはみんなで共有する情報ということになる。
春花はそういう行動に出る娘だろうか?
それはわからない、未来の人の心がどちらに傾くかなんて、きっと神様でもわからないんじゃないかと思うし、今日子の握っている(おそらくラブレターだと思われる)手紙を読んだボクが何を思うのかも想像つかないしで、もしかしたら心愛の言うとおりここで開示して見せれば解決するのかなって、そんなこと考えてみてしまう。
「春花がどう思っているかわからないけど……一番最初に読むのはボクでいいでしょ?」
春花とのボクの頭のなかでのセックスはもうホントウに蕩けそうになるくらいキモチ良いけど、そういうこととはおいて置いて、これは一人で決めたかった。どうしてそう思ったのか、自分自身よく分からないのだけれど。
「勝手にすれば……」
拗ねた顔してつぶやく春花だった。
そもそも書いたのは男なのか女なのか、一体誰なの? って、これを読んだ後、ボクの心はどっちに傾くの?
今年はこれで最後かな、では良いお年を!