圭君 おとこの こ になる そしてキスの味
やっと男の娘になります、ではでは
「こっちわたしくしのお部屋ですわ」
母屋から離れた子供部屋に、私たちは上がり、お菓子を広げ、心愛はお茶を入れてくれた。
「ボクに任せて圭君! すっごくカワイイ娘に仕上げちゃうからね、絶対期待してていいよ!」
自信満々の春花に、冷淡で小ばかに嗤う今日子だった、心愛はホストとして面白がっている感じ。
「じゃあ春花、圭に憑依って奴、みせてみろよ」
はじめから信用してない言い方だった、まあ無理もないけどね。自分でも半信半疑なとこあるし。
心愛のベットに寄り掛かっていた春花が急に脱力したみたいに、意識を失ったような、眠ったようになって、それから自分の中にゾクッとするように感じた。あの時と同じような感覚……
「さあこれで圭君はもうボクの支配下だよ」
『春花ちゃん……無茶しないでよ……』
「これから色々教えていってあげるからね、ボクの知識は圭君のものでもあるんだよ」
ぽかんとしている今日子と心愛だ、だって二人の心の会話は僕達にしかわからないのだから……
「な、なに急にボクなんていいだして……え? どうして?」
「まだ信用してないの? ボクだよ春花だようふふ」
そういって、ボク圭の意識を保ったまま、心愛の鏡台に向かい、
「これ位色白で、きめの細かい肌してるならコンシーラなんていらないね、ボクから見ても羨ましいくらいだよ」
「え、いえ、本当に? 疑っているわけではありませんでしたけど……」
唖然となっている二人の顔が鏡に映っている。
洗顔がまず入念だった、スクラブ入りの洗顔を短時間に済ませ皮膚の皮脂を取り除く。短時間であることにも理由がある、潤いまで損ねないためである。
化粧水を付ける所作が女性的、決して爪を立てず、おでこから左は左手、右は右手で指・手のひら全体を使って、肌に優しく押し当て”染み込ませる”ようあくまで優しく潤いを与えていく。それを二度三度と繰り返し、最後に乳液を極々薄く塗る。
ファンデはパウダーでラメ入りを選び(塗り方を盗もうとガン見してくる今日子が怖い圭塗り方は顔の中心から外側に向かってのセオリー通り。もちろんチークを入れるのも忘れない。そこから眉毛を切り、抜き、ぐっと細い眉に整える。
イジられていて圭がちょっと怖いと思ったのは瞼を二重にするための方法だ。アイプチをする春花だが、その時に圭の眼球を指で抓む様に持ち、動かさないようにするのだ。おかげで明らかに目がぱっちりとした印象に変わる。そこまで描いたところでボクは少し驚く。
『どう圭君? かなーり印象が変わって来たんじゃない、そうだね~何か男性でも女性でもないような、あえて言えば中性的とでも言ったところかな~♪』
「うーんこりゃ確かに男には出来ない芸当だな……」まじまじと一部始終を観察し、その職人的メイクに圧倒される今日子と、
「今日子さんももう少し見習われたほうがいいくらいですわね」
それとなく茶化す心愛ちゃんだ。
「心愛も認めてくれる?」
「はい、認めますわ、心愛にとってはカワイイは正義、絶対に正義ですもの」
ボクは変な気持ちになってきてる、アレ? いつの間にか自分の事ボクなんて言い出してる、いつの間に? 春花の意識とかさなりはじめてるのかも……でもこの気持ちはなんだろう? 恥ずかしさもあるけどそれが気持ちイイ、何て言うのか不思議なくすぐったさみたいな感じ、ボクが変わっていくのがうれしい、人から、美少女の心愛ちゃんからも認められる満足感、達成感が至福のように感じられた、幸せだったの。大げさかもしれないけど天にも昇る様な気持ちだった。
更に取り出されたものに、ボクは見覚えがある。たまに風呂場で見かけるゲジゲジみたいなやつ。ただ生きたゲジゲジじゃなくて、付け睫毛! その付け睫毛をさらにマスカラで強調させる春花。
「今度一緒にマツエクの付けっこしようね」
こんな事言われて嬉しい、そんな気持ちだって春花に全部筒抜けだと思うと、恥ずかしくって心地よくって、はぁー
この辺りから中性からかなり女性寄りに変わるのを体感する圭で、心が益々くすぐったかった。
「オイオイ、マジかよ、お前ホントに男か!?」
「なんだか……ちょっと悔しいですわ」
全体像を確かめ、アイシャドウの色を決め、ご丁寧に涙袋に涙ホクロまでえがいてみせ、グロス入りの薄紅のルージュを最後に、顔が決まった。
「どうだい圭君? リアルJKが同級生を男の娘のしてみたよ。ボクが言うのもなんだけど……圭君めっちゃカワイイよ!!! 」
「げぇマジかよコレ? なんかオレの目から見ても春花どころか、心愛より可愛い位だぜ」普段から化粧っ気のない今日子が冷静に分析してる。
「カワイイ、カワイイですわ、ちょっと嫉妬しちゃうくらい色気すら感じます……」イロモノが出来上がるのではと内心小馬鹿にしていた心愛が正直驚嘆している。
〈うわぁぁぁ、これホントに俺なの……〉圭から見てもまるで自分ではないかのような浮遊感というような、変な満足感、くすぐったいったらないって。ボクという概念が変わっていく変身していく、間違いなくかわいいとしか……それ以上は考えたくないけどボクに嘘は吐けない。
髪をきつくネットで覆いかぶせて、頬の輪郭をかくすウィッグをかぶれば、元が男子高校生とは信じられないような姿になった。
「えーいこーなったらもうノリノリでいっちゃうんだから! 心愛ちゃん制服余計に持ってるのかしてね!」
制服って記号だよね、でもそこには魔力があってさ、胸こそぺったんこなのに、それが余計に色めきたってモデルの仕事してる心愛ちゃんよりJKになるの!
くるっと一回転、回ってその姿を二人があっけになって見ている、それを放って置いて、春花は彼女の意識を失った体に近づいて、
「圭君、よく見ていて」
本当にゆっくり、春花の唇に近づいてさ、
『ちょ、ちょっと、春花!』
『圭君、ボクの気持ち、君にわかるだろ? もう我慢なんかできないよ……』
眠る姫君春花の唇を奪い、舌まで入れてきた!
好きになった春花のファーストキスを、春花は圭と意識を共有しながらさ、圭の、男の娘圭の身体を使って自分で味わって、春花を奪う、圭の喜びを共有するんだ!
「な、なにしてくれちゃってるんだテメエ! ハ、ハレンチだ!」
今日子が叫んでいる、でもそんな事、もうどうでもよかった。
相思相愛の暴力的キスは身体がとろけそうになるほど甘い甘い味がしたの……