戦場の
セミダブルベッドの上で春花になったボクと、圭になった彼女、行為の後疼く左腕をさすられるんだ。
「やっぱり痛む?」
リストカットの傷口って痛むというより、ちょっとビリビリ痺れるみたい、春花に言われるほうが疼くし、春花という彼女自身になったときにどうしてそんなことしてみようって思ったのか、やっぱり彼女を守らないとなんて、こう見えたってれっきとした男の娘なんだから、おんなのこを守らなきゃって。
でも戦うとかは出来ないし、おんなのこの身体でお父さんに力で敵うわけないじゃない、だから彼の前で自殺するという演技をして、話を盛って、どうにかその場だけは乗り切ったの。
次に成功するとは限らない、いちど限りの方法、それをしただけだし、春花ちゃんから何様のつもりなのッて言われたって仕方ない、親は変えられないと思う、家庭環境なんてそうそう変化なんかしない、遅かれ早かれ春花のお父さんはまた春花を性的に虐待し始める予感があるの、残念だけど、多分この勘は当たると思う、自分は被害者になったと思って、逆にキレだしたりしてさ、どうして娘なのにそんなことも分からないんだとか、お前とお父さんの秘密にしておけばいいんだ、お母さんはお母さんで勝手にしているんだ、だからお父さんも勝手にするし、お前もそれでいいだろう? お父さんを見捨てないでくれ、なんて感じで春花を責める様な事いう、春花を罪人みたく咎めて、自分は悪くなんかない、被害者だって。
そうしてそんなことわかるのかっていえば、彼女の、春花の脳内を共有できるから、苦しみも楽しみも全部わかってあげられるから、それだけに逆にボク達の違いや、どうしたら春花の将来の為になるかもおぼろげながら分かりつつもあったの。
「やっぱり圭君の身体いいなぁ」
初めてなのに、
三回も受け入れたのに、
それでもまだ求めてくるのかな、嬉しいけどさ、
「じゃ、じゃあさ、次はカラダ入れ替えてしてみない?」
彼女がボクの身体が気に入った様に、ボクもしてみたかったし、攻められるだけじゃなくって攻める事だってしてみたいじゃない、
「それはちょっと……」
そう言ってボクを抱きしめ、濃厚なキスをしてくる春花ちゃん、その唇が可愛いなあって、自分のお口なのにさ。
お父さんとの嫌な思いを、フラッシュバックしたく無いんだろうけど、仕方ないんだけど、なんかズルいなって。
「そういえば圭君はボクに隠し事をしているよね?」
真っ暗な閨房の語らいは意外な方へとむかっていったの……
「きょ、今日子とは何もないって、身体交換したんだし、わかってるでしょ」
罪悪感を抱かせるような春花の言い方に、息を止めて、時間が経つのを待つだけ、
「言ってくれないんだ……圭君のこと信じていたのに」
ドキリとする、親に叱られ怒られる前みたいな感情だった。
「か、隠し事なんて、あ、あるわけ……」
その時、急に思い出した、心愛との官能小説を時々交換してたのを、そ、それは心の奥底に閉じ込め、封印していた記憶のはずなのに、どうしてこの娘は……
「ボクは理解ある女性を目指してるからさ、隠し事しないで何でも相談してよ、圭君の一番の理解者になりたいのよ」
子供を諭すみたく、優しくささやきかけるんだ。
「う、うん」
言葉で肯定して、心では否定していた、めんどくさいけど。
「……圭君、ボクにも秘密があってね、聞いて欲しいの、プロギノンデポーってお薬、どんなクスリか知ってる?」
突然聞いたこともない薬品名を上げられても、今からその記憶を春花から探すの大変だし、一体何のことかと……
「うふふ、知らないわよね、君にお注射してあげたいの、だけどそれはとっても残酷な結果になるだろうし、ボクとしてもそんなことにならないようにって願っているんだけど、圭君がもしもボクを裏切ったらって、その時には×としてお注射しちゃうぞって、思ってるのよ、ボクの気持ちわかるでしょ」
一体全体なんの話なのだろうか、皆目見当もつかない、残酷な結果って、裏切りって、
「圭君が好きになればなるだけ、なんか壊してしまいたくなるの、必死でそれを抑えてるの、圭君だって分かってるでしょ、この気持ち」
「そういうとこあるよね、春花ちゃん」
実際そう、今だってそう、どう見ても支配的な娘だし、今更告白なんかされなくたってよくわかって付き合ってるつもりだった、それが嬉しかったし。
「コレ飲んで、圭君」
暗闇の中、お口に指を入れて、ボクに飲ませるの、
「ナニコレ?」
「避妊用のピルよ、これがボクの、圭君の身体に入れたらどうなると思う?」
「……まさか」
とっさに記憶の宮殿からプロギノンデポーという意味を探り当て、その言わんとするところに愕然となったわ、
「いくら男の娘の圭君だって、ピル飲ませても避妊出来ないわ、だからボクの代わりに飲んで、ね?」
これからナニされるのかの意味深な発言じゃないかしらって、興奮しつつ、底知れない恐怖をみせられ、身体交換しているとはいえ、男の娘にはない、子宮を急に感じちゃって、はしたないけどうずいて疼いて仕方なくなってたわ、肌と肌が合うのがよくわかった、しっとりとすいつくようなって、おぞましいまでの相性の良さ、侵食しあいお互いに溶け込んでいくような一体感。
~プロギノンデポーって、女性ホルモン剤で、閉経後の更年期を抑制するための目的で筋注射するんだけど、男性の身体に取り入れれば、女性化してしまうお薬だった、当然ボクの體を無茶苦茶にしてしまうくらい強いお薬、なんて恐ろしいことを考える娘だろう。
「こんなお薬、投与してたらこんなコトできなくなっちゃうね、でも、人に盗られるくらいだったら……ボクの手で壊してしまいたいのよ」
急に春花のお父さんに抱きつかれたおぞましさを再体験する、体がこわばって汚される、あの感覚、そして春花って、お父さんによく似てるなって、よく似た父娘なんだなって気がついた、このサディズムの源泉は育ちを通して、血が目覚めたのだと。
お父さんの妻が、ボクみたいに従順だったなら春花はこんな娘にならなかったのかな、 浮気する妻じゃなかったなら、そんな家庭じゃなかったら、そんなこと思いながらボクのことを抱いているんじゃないかって思う、彼女は血を呪い、自分を罰するかのごとく、春花の体を犯すの、
「圭君我慢しなくていいのよ、もっと君の声を聞かせてよ」
ほらね、きっと春花のお父さんにできなかったことまで彼女はしてるんだぞって、彼女のことをもっとずたずたにしたのは圭という体に憑依した彼女自身なんだって、避妊具をはずしてピルを恋人に飲ませることまで同意させたの春花で、最初のオトコは彼女自身なんだって、お父さんに勝ったのよって、きっと思ってる、どうしてそんなことまでわかるかですって? わかるわよ、当然でしょ、だって今は彼女と体を交換し、彼女の脳すら共有しているんだもの!
「ボクってお父さんそっくりでしょ?」
「え、そ、そんなコト……」
どんなに彼女のことを思って言葉にしても、彼女を守るためにボクなりに戦っても、心という真理に一切に偽証は不可能だ。春花と性的虐待を共に分かち合った圭に、春花のお父さんは気持ち悪いに決まっている、でも同時にそうでないときのお父さんも知っているから、『それでも家族』という狂った感覚も同じときに存在して、そんな彼女が大好きで、というより傷……心の瑕が好きなんだ、こころの疵ゆえにボクによりかかってしか生きられないようにさせるが好き、男の娘にさせてその上に女性ホルモンまで投与するよって脅しすかしてしか支配しようとしかできない不器用な手口が大好き、ボクという圭自身がどんなに傷つこうが彼を愛してくれ頼ってくれる存在があれば、絡みとって離したくないじゃない。
「春花ちゃんがイイならさ、あ、一緒に、あ、死んでもいいよ」
そういって身体が圭、心は春花の掌に手を触れ、そっとボクの首に導いた。
「待ってる、きっときてくれるって、信じてるから、ボクを淋しくさせないでよ?」
ごっこ遊びってゆう延長線上なのかもしれないけどさ、春花の家庭という環境から救い出すなら、殺してあげることも選択肢の一つで、カテゴライズで心中という方法をとったっていいと思うし、むしろそうしてあげたいという、彼女にどこまでも寄り添いたいって感じ。
それ以外の方法、児童相談所に駆け込んで、シェルターに飛び込んでどうにかできるならみたいな方法でもあり?
ボクは嫌だ。
彼女春花は内心施設に憧れる、底辺女子高生で、救いはそこにしかないってわかってる。
男子ならどんなにバカなことしても、女子の気を引きたいみたいなの、あると思うんだけど、だったら彼女と死を共有するのって、心中し合えるって超クールじゃん、死んじゃうのは怖いかもだけど、その先に何かある気がするし、じゃあ見てみよ。……
所詮はボク達ふたりは本質的によく似たもの同士で、お互いに傷つける事だけしか愛情表現を知らないんだろうけど、たったそれだけのことだから、その純心に殉じたいんだ。
「……」
「…………」
行為の最中、意識が落ちる瞬間、正に不意におちるんだよ、すぅっと消えるように、目を見開いたまま眠るみたく、堕ち、墜ちるの、とっても心地よくて、幸せにね。
わかりずらいですけども、こんな感じで。




