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憎いけど、好きって

「だいたいあの女、友情にもセコイんだぜ、夏休みのときに付き合ってやったってのに」

 一体何杯目のラキアなのか、

「てめーだけが世界の不幸背負ってるみたいな顔しやがってよ」

 50度を超えるプラムとかいう果物の、粕取り蒸留酒をツルツルと、

「オレの酒が飲めねーなんて、許せるかっツーの!」

 ターンッ!

 少し大きめの猪口のグラスをテーブルに叩くように置く彼女だ。

「まあまあ、今日子ちゃん、もう一杯ね」

 お酒なんて飲んだことないし、つきあいでお酌してあげるくらいができること、後はウーロン茶で誤魔化して逃げよう。それにしても今日子が異常にアルコールに強くて、酒癖が悪いと知った、女子高生のクセに。

「お前てか圭、春花とは済ませたのかよ」

 アルコールが口を軽くするのは知っていたけど、

「す、済ませたって……」

「やったのかって、やったんだ?」

 おとこのことおんなのこのすることっていったら最終的にセックスしかない、若い二人にとったら健全な付き合いって、やることってナニじゃないのかって、でも、一度でも親から性的なことさせられたことある子春花はきっと混乱しちゃうんだ、愛情と虐待の区別がつかなくなる、ボクもそれを経験したから、よくわかる、あんな怖くて気持ち悪いこと、思い出しただけで……

 クリスタルグラスの猪口で、一セキをあおった。

「お、やっと飲んだな、カッコいいじゃん」

 案外おいしい、喉がかぁ~と熱くなって、神様に抱きしめられたような気にさせられる、

「これがラキア、やばいかも」

「強いからな、水も飲みな悪酔いしないように、つまみも食べなよ、うちの冷蔵庫の残り物だけど」

 慣れているのか、どんどん食べ物を出してくれる、ふーんこれが今日子の家庭の味なんだ、意外と日本的、もっと西洋チックなのかと思ってたけど。って、結構くつろいでなじんできてるし、酔いも回ってきてるし、

「どーせだ、今晩は泊まってけよ、オレのかあちゃんからお前んちには連絡してもらえばいいじゃん」

 普段だったらそんな図々しいことできないけど、初めてのお酒のせいなのか、

「わっるいね~今日子、もっとお酒ちょーだいよ」なんて声まで大きくなって、泊まることにしちゃった。

 お酒が進み、夜も更けていき、二人の会話はさらに深いところまで、

 始業式に春花とボクが身体を交換しあっていたのを見抜いたのはこの娘だけだったから、

「どしてあの時わかったの」

 グラスの猪口にラキアを注ぎ、頬杖をつき、視線は虚空を見やり、

「間合いが違ってた、アレは圭の間合いだなって」

「……間合い」

 今日子に言わせれば、人にはそれぞれ固有、独特の間合いがあり、雰囲気とかを形成する重要な要素だって、

「オレとの約束、覚えてるよな」

 インディアンポーカーでのことだ、機動隊とのエキシビジョンマッチに参加するようにという、

「アレ本気だったの?」

「おおマジだぜ、勝負が終わるまでは春花とのHはなしな」

 どーしてそんな話になるのか、

「男は出したらだめだろ、ボクサーと一緒だよ」

 妙に生生しい話をする女の子、さっきまで喧嘩したような感じだったけど、やっぱり彼女のことは好きなのだ、仲良し一辺倒の関係じゃないけど、ボクは恋愛のアマチュアだけど、恋愛の素人のままでいいと、だったら春花と身体を交換し合い、お互いに憑依し合ってHするっていうのはどうだろう、ボクが男の娘として射精するんじゃなくって、春花がボクを抱いて、男の娘の気持ちを追体験して見せたい、アルコールが回ってきたのか、そんな変なこと考え出してる、それだったら今日子との約束も破らないし、お互いにここまで知り合った仲なら、依存関係でも関係してみたいし、するべきじゃないのって、頭の意識で抱き合う彼女も凄かったけど、春花に抱かれる自分を想像すれば、一体どう感じるのかって、春花が男になれば、もしかして彼女の心の治療に役立つかもしれないし、生きづらいアダルトチルドレンから開放させてあげられるのかもしれないじゃない。

 相当酔っ払って、おかしなことかんがえてるって意識はあるけど、気が付いたら今日子とのおしゃべりがとっても楽しくて、写真にとってラインで春花や心愛に色々送っていたわ、そしたら即行で春花からメッセージがとどくの、

『君はまだ高校生のクセに酒盛りなんかして恥ずかしくないのかい? 軽蔑するよ、サイテーだね君って、そんなんだから学校の成績だって中くらいのままなんだよ、これからはもっとボクが勉強教えてあげないとだめだね、君にはボクが必要なんだよ、これは圭君のためなんだから、圭君はボクの言うことを聞いていればいいに決まってるんだから、貴方のためなんだからね』

 って長、しかも隣に居た今日子にも長文の、怒りの滲む文面が来てる。

「おいなんかやばいやつから、なんか変なの送られてきてんだけど」

 私もそうだったから、お互いにスマホ交換し合って、確認しあった。

『なに今日子あたしの男取ろうとしてんの? 絶対だめだよ、圭君はあたしの男の娘なんだから、誰にも渡さないし、お酒なんか飲んじゃってナニしてるのよ、圭君が浮気してたり、あんたが誘惑なんてしてたら二人ともただじゃ済ませないもん、許せない、今からそっちに乗り込んでいくからね!』

 今日子とボクが二人して顔を見合わせた、しょうがない女だなって、ここでのしょうがないはどうしようもないって意味なんだけど。

「別にただ酒飲んでるだけなのによう、テメーだって誘ってやったくせにこないくせしやがって、何様のつもりだ?」

 今日子のいってることは客観的に正しくて、未成年がお酒飲むことはいけないことだとしても、春花が逆切れすることはおかしい。

 おかしいんだけど、、表面上は「困ったね」「どうしようか」「やばいことしちゃったかも」とかいいながら困惑とか、あせりとかがあるんだけど、内心は……すごく、物凄くうれしいの、飛び上がりたくなるくらい、その時だけのうれしさってのはあるけど、振り回しただけの『返し』がうれしい、心配してくれるのって最高に愛情を感じる。

 あんなひどく冷たいこといわれても、支配される喜びっていうの、特別なボクなんだっていう、もちろんそんなこと隠して置かなきゃ、こんなにこんなにも人を好きになるって感情、どうして隠そうとか思うのかな、今日子とかに否定されたくないから? ざわつく感じって、彼女が憎いのに、心配されると嬉しいなんてボクっておかしいんだろうか、でもどう表したらいいのかなんて……わからないし……だから喜びを隠して、困った顔して愉しむの、春花ちゃんが早く来てくれないかなってワクワクしながら、ほんとうは彼女の元に駆け付けたいくらいなのにさ、一分一秒でも! そうして言葉とは裏腹に、化粧直しをしなくちゃって。

 受け入れる事こそ全てで、それだけが愛情表現としか思えないし、不器用な春花ちゃんが不器用なだけに可愛くて仕方がないし。


 ああ、彼女に抱かれてみたいなって、身体すら交換してすら……やっぱりお酒に酔ったかなってさ。


クロアチアって全然イタリアっぽくないんです、カソリックの国なのに。

セルビアとの複雑な関係が好きです、共依存みたいで、めんどくさいのがいいんです。

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