家に居場所の無い娘
ひざを抱え込むみたく、丸まって寝るボクの背中を抱きしめるお父さんは、しっかりアソコを立てて押し付けてくるの、男の身体がそうなってるの知ってるけど、知っていたって怖い、怖いとしか言いようが無い、男同士のじゃれあいとは全く違うし、穢ならしい禁断の関係、衣服がそこに何枚あっても関係ない、ぬらりぬらりと妖しく光るナメクジみたいな粘膜と粘膜の絡みとどこが違うというのだろう、わかっていたけど後悔する、男の娘には無い胎の底から、気持ち悪くてそれなのに何もできないボクがどんなに無力に思えたことだろう、だから彼女は自分のことが嫌いで許せないから、損なわれたものの正体を知りたかったんだって、何でこんなに自分のことが憎い時があるんだろうって思ってたんだね、だからボクのことを乗っ取ってまで、知ろうとしたんだね。
だったらそんな春花をボクが罰してあげるよ。君はそれを望んでいるんでしょ? 君の記憶の残像にはそれが読み取れるよねー、偽証は不可能なんだから。
お父さんが身体を黙ってまさぐり、腕を震わせ、ぬるるっとした春花のたなごころを握る、ぬるんぬるんと。
べとつく人肌の、その体温のぬめりにお父さんの動きがさらに激しさを増し、興奮してるのがボクにもわかる、好きなんだね娘の春花のこと、Likeじゃ無くてLoveのほうなんだ……
だけどそのぬるぬるの正体に気が付いたのか、春花の手を握っていたの急に離して、数秒後、お布団を跳ね除け、春花を、ボクを突き飛ばすんだもん。
「な……血、血か? 血液なのか!」
すぐさま部屋が明るくなった、お父さんが部屋の明かりのスイッチを入れたから、そのスイッチと壁紙にはベッタリ血がついてしまうの。
あ、綺麗って、
ぱっと花が咲いたみたいだって、
白い壁紙に柘榴のルビー色が着いたみたい、
切った手首の切り傷はまるで粘膜の合わせ目みたいだなって思う……皮膚の脂肪の色まで見えて、そこから流れる紅い蜜ときたら、到底言葉にできない。
これをみたらお母さんだって、どうしてこうなったのか聞いてくるだろう、お布団にも、壁にも、そして私の腕にだって疵がベッタリとマーキングされた、お母さんも気が付くし、この家族も今までどうりとは行かなくなるだろうね、それでも家族のカタチを守ろうとする春花は全力で嫌がって抵抗してくるだろけど、前と同じ関係で居られるわけは無いじゃん? ボクはこんな家族とは別れて暮らしたほうがいいと思うけど、春花の考える理想の家族のカタチを残せるなら、協力してあげたいし、でももう無理だよね?
黄色い脂肪が見えるくらい深く斬ったリスカ痕がそれを表している、そういう性的虐待を「そういうことをしないで下さい、身体をまさぐられるのも、口付けを受けるのも、止めてくださいって意思表示になる」
僕にできる精一杯の拒否だよ。
痛くないのかって、別に……
っていうより、楽しいって、春花になり切れば彼女という自分自身を罰していることが気持ちいいくらいたっのしーの! 痛いのはボクなのに、どうしてこんなに楽しいんだろ、彼女の痛みとか不幸が好きなのかな、それを共有して体験できるなんて、こんな楽しいコトないんじゃないかってゆー、結構な出血のせいでシーツが真っ赤に染まり、血だまりまでできているせいなのか、寒くて眠くなってくる、あーやばい、心地いいかも。
「は、春花、しっかりしろ」
急に娘に対して、家族になった様に口調まで親に戻った様に、その辺にあったタオルで腕を縛り付けるお父さんだ、眠いからあ今のうちほっといてさっさとう、しちゃえばいいのにさぁ。
「腕をあげろ、心臓より高くな、今病院に連れていくから、ああ、可哀想に……」
わっけ分かんない、可哀想なんて言うなら、最初からそんな事しないでよって、言葉にするのもメンディーし、あー疲れたのかも。でもちょっとだけ嬉しいかも、春花が傷ついた時はお父さんも正気に戻ってくれるっていう事に、憎くて怖い人を振り回して、ボクは春花も優越感に浸るんだって、なんかゾクゾクしてきちゃう。この時だけならお父さんを可愛いと思えるくらいにはね。
止血をされながら、それでも病院に行きたくないってダダこねながら、力ずくで車に押し込まれ、近くの戸田外科まで連れていかれる、とにかくダダを捏ねるというか、わがままいうのが楽しくて、そんな風にお母さんとお父さんがなれればいいのにって、どうしてそれが出来ないんだろう? お父さん下手くそなんだよね、不器用なの。
病院について、戸田先生から麻酔なしで腱と神経の縫合をしてもらう、途中すんごく痛くって、うめいて泣いてぼうっとした、輸血の代わりに生理的食塩水を点滴され、だいぶ顔色も戻ったみたい、途中おたおたするお父さんめ、どうしてそんなことするんだって、おかしくて悲しくて嬉しかった。
一通り処置が終わり、「どうして娘はこんな事をするんでしょう?」そんなことを戸田先生に聞き出すお父さん、はぁ? そんなことも分かってないの?
「理由とか、根掘り葉掘り聞かない方が、いいんじゃないですか? お父さん」
何この男二人の会話? 私は蚊帳の外なのかよ、大事なのお父さんとの関係でしょ? まあ外科の先生にそんなこといってもしょうがないのかもしれないけどさ、一応男の娘のボクが言うのもなんだけど、男ってどうしてこうなんだろうって、もう少しでも察して欲しい、めんどくさがらずに関わってもらいたい、お母さんにも聞いてみたい? お父さんって結婚する前とか、付き合った女の人いるのと思うって? とか、多分いないから、今娘の身体でそんなこと無いって確かめようとしてんじゃないのかって、ま、どーなんだろ? そんでもってお父さんたら、何だかあたしたちの関係性がとりあえずバレず、誰もそんな事望んでいないんだってことを勝手に納得しているみたいに、大人しーくなっちゃってさ、おかげで平和に深夜を泥のように眠りにつくことが出来ました。
翌朝にはお母さんも戻っていて、左腕の包帯とか、御布団の血の塊や、壁紙の血糊も全部みつかっちゃった。
これで幾らなんでも不審に思わないはずはない、お父さんが病院に連れて行ったことは口で言ったし、部屋の状況からどうしてそうなったのかも説明したし、「お父さんに抱き付かれているのが嫌」そう言った、これで春花の家族は崩壊する、そうすれば春花は保護されて、彼女を救えるんだって。
「今日から始業式だっていうのにみっともない真似して」
「だってお父さんキモかったし」
「そんなのはお父さんの愛情表現でしょ? 気にしなければいいの、お母さんはわかってる」
「……」
現状を認めないというか、今の生活と浮気相手の関係を壊したくないのか、彼女の中で「その程度」の事として済まされているみたい。だってその方がお母さんにとって一番居心地がいいのだ、娘より自分の都合と、バランスさえ取れていればいいんだ。
この家には春花が居ない、そこには居ない子なんだ、時にいけにえにされ、夫婦の間柄をとりなして、家族を捨てることもできないで、理想ばかり高くて、そんな家族像にあこがれるけども、手にはできないってわかる。
「そんなに大げさに包帯巻かないで、学校いけないのかしら、何だったら学校休みなさい、始業式なんていかなくたっていいじゃない」
「……もう学校いってくる」
ただ単にこの場所に居たくなかった、この家は居場所がない気がして、圭として暮らしてる春花に逢いたくて。
やっぱりそうだったんだ、こんなときに圭に逢いたくなるんだね、春花の気持ちが理解できたよ。
無性にやけ食いしたくなってきた、肉を身にまといたくなってくる、醜いくらい正視できないくらい、デブでブスに、街で二度見されるくらいカワイイ男の娘のボクでなくって、舌打ちされるくらいのデブスに、そうなれば勝った気になれる気がする。
今まで痛くも無かった左手首が痛み出してきたけど、脈動にあわせズキンッズキンッ痛むけど、包帯を隠すなんて真っ平だ。