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近親 姦

セルビアの話なんかされても良くわからない方ばかりでしょうけど、近親相姦とちょっと構造とかが似てるなというところがあると思うので、我慢してお付き合いいただきたいかなっと、それではお願いします。

 旅はいい、普段と違う景色がみれるから、見慣れた東京の狭い空と、海岸の空の色は違う、そこに潮風が混ざればなおの事。

 男女のしんみりした話ならレストランがお似合いかもしれないが、クソ暑い夏、そのお盆の終わりは、難しい話をするのに見合うのから、人けのない寂しい海岸線に無性に行きたくなる。

 夏休みに「家から合宿」で中型のバイクの免許を取得していた今日子は、兄貴の400を借り、区の図書館に向かった。

「いたいた、優等生のがり勉、花火ぶっちして勉強かよ」

 古都竹春花はそんな声無視し参考書と向き合っている。

「シカトコクなよ、圭が心配してるのわかってるんだろ?」

 静かな図書館のなか、地でおおきな声の今日子だった。

「ここは図書館、静かにして……」

 今日子に視線なんか合わせず、参考書のページをめくり、澄ました古都竹春花だ。

「……」

 今日子は春花の襟首を左手でつかみ、腕一本で持ち上げる、だまって腕を振り上げた。

 ざわつく館内だった。

 ぷちっと制服のボタンが取れ、その襟足から赤黒い内出血のあとが現れる。

 それ以上身動きを止める今日子、振り上げた右手を止めるしかない。

 そんな空気に今日子を腕を暴力的に薙ぎ払い、顔を赤くしてその跡を隠し、下を向く春花だった。

「テメエら……もうやっていたの……か?」

 ガタッと椅子を後ろに膝裏で跳ねのけて、

「表に出ましょう」

 春花の目が大きく開かれて、何かを隠したがっているように見えた。

 表に出てしまえば今日子のペースでしかない、

「おいコレかぶれ」

 ヘルメットをパスする様に放り投げ、

 ドルンッ! ドッドッドッド……

 春花の返事も待たずにイグニッションキーを回す今日子、

「早く乗れよ、とっとと行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ってよ今日子!」

 シートに慌てて飛び乗り、今日子の腰に腕をまわすのが早いかアクセルをまわすのが早いか、残暑の惰気を切り裂く様に、加速する車体だった。

 目を三角にしてぶっ飛ばす今日子だから、春花は怖くて仕方ない、途中、

「今日子こわいよ~~」

「うっせ! だったら飛び降りろ! はなしかけんじゃねえ!」

 会話はこの一言だけだったらしい。


 気が付けば太平洋と夏空と風車と、女子高生ふたりとバイクと。ここは神栖市の風力発電所の海岸だ。

「んで、どーよ?」

 堤防に仁王立ち、単刀直入に春花に聞いてくる、静かな太平洋だから、そんな事を話せる春花じゃなかった。

「話したくねーってか、そーか、じゃあオレのことから、……なんか喋ろーか」

 堤防から降り、砂を蹴とばし出す今日子だった。

「あさってセルビアのコソボってとこ行くんだけどよ、オレ殺されっかもしれねーの」

「はぁ?」

 別に今日子が殺されようが、死のうがどーでもいいって春花だ。

「オレの種違いの姉貴なんだけどさ、強姦されてできた娘らしいのよ」

 その言葉に勝手に反応する春花の身体だった。

「民族浄化っていうの? よくわかんねーけど、そこに住んでいた時、近所の遠い親戚の叔父さんて人に、オレの母親がレイプされたんだよ」

「そうでもしねえと、その叔父さんてって人も危なかったらしいんだ、いや、同じアルバニア人に見せしめに家族殺されたりとかみたいな」

「それでうちのかーちゃんは妊娠しちゃって、堕胎できなくなるまで監禁され続けたって、そーなったら産むしかないじゃん、で、今じゃその娘コソボに住んでてさ、今度逢いにいこうみたいな、でもオレのこと憎んでるんじゃないかなって」

「だって姉貴から見たらオレってセルビア人だからさ、許せるわけねーのかも、実際ユーゴ内戦じゃ親子で殺し合いなんかふつーにあったってかーちゃんいってたし、そしたら仕方ねーかなって」

 身体を小刻みに震わせ、目の焦点が合わない、怒りとも憎しみとも恐怖ともつかないごちゃ混ぜの感情が春花に取りついていた。

「な、なんでそんな、そんな話をするのよ!」

 そんな叫び聞いてるんだか聞いて無いんだか、デニムシャツから煙草を一本取り出し、熱したエンジンに押し当て吸い始める今日子だ。

「テメーも一本飲むか?」

 そう言ってもう一本煙草を差し出す今日子だ。

「あんたって、どーしようもない女ね、女子高生のうちから煙草だなんて……」

「いーじゃん、あした死んじまうかもしれねーんだし、煙草の一本くれーよ」

 地の果ての様な海岸線、回され続ける風車、途切れることもなく延々と、

「かしなさいよ」

 今日子から一本ひったくったものの、どう吸っていいのかもわからない春花だ。

「おい、コレ」

 今日子がくわえた煙草を指さす。

「火持ってきてねーから、オレのからな」

 つまり、口移しで吸えという意味だった。

「い、いただくわ……」

 背中をかがめ、首を傾け目を細める今日子に同じく煙草2本分の距離まで近づく春花だった。煙草とたばこが触れ合い、「すってみろ、吐くんじゃねえ、吸うんだ……」そう教えられる。

「ふーーー」

 一度肺で止めて、ゆっくり吐き出す春花だ。

「へーなかなか達者に吸うじゃん」

 くらりとたばこ酔いを覚える春花は、そんな言葉どうでもよくて、

「あんたそんなとこどうしていこうって気になるのよ」

「いかねーと負けた気がするじゃん、それとオレのルーツは知っときたいしさ」

「死ぬ気?、勝手に死んでなさいよ、ばぁーか!」

 目を見開いて涙を溜め込む春花が、今日子はおかしかった。

「生きては帰るつもりだけど、死んだときには圭に約束破ってわりーとかなんとか言っといてくれればいいんだ」

 お盆が終わり、暑いばかりで寂しさの残る夏休み。

「約束ってなに?」

「んーと、なんていうのか取引、圭がお前のこと心配だから話聞いてきてくれって、それだけ」

「……自分でいいなよ」

 死んだら話せないし、話さない、そんな事わかっているから今日子は言っている。

「死人は喋らねーし」

 どれくらい時間が経ったのだろうか、盆明けのドロリ照り付ける太陽と、回され続ける白い風車と青空と、磯の香りとごく近くに見える共同墓地と、工業地帯のパイプラインと、ごちゃ混ぜになって、堰を切ってしまう、

「ち、父親に」

「寝ているところにさ」

「身体揉まれたの、たぶんそんな気がしてる」

 回されづづける風車、延々と、

「……理由」

 日常の中に潜み、時折顔を覗かせる非日常、それを煮詰めて水飴の様にすると、こんなことになるんじゃないかと、春花は思い。紛争が時々あるのが普通で、今が紛争じゃないだけ幸せなんだと、そう考える今日子、戦争にルールはあるけど、紛争にはルールもへったくれも無い。

「ねえ、私どうしたらいいんだろう、小学生の時に父親にされたこと忘れていたのに、急に最近になって思い出しちゃったんだ、こんな汚れた私さ、臭いでしょ? すっごく匂うでしょ? 生きてるのキモいよ、気持ち悪くて仕方ないよ、寒気がするくらい、男が嫌いで嫌いで大っ嫌い!」

 とんでも無い事情を聴かされ、今日子も複雑だ、聞きたいことはあるけど、そんなことは聞いてはいけないことの様な気がして、何を喋っても、口を開けば春花を傷つけるような気がして、それでも、

「別にテメーが悪いわけじゃねーし、かーちゃんとかに話したのかよ」

 ぎゅうっとこぶしを握り、

「話せるわけないでしょ!」

 そうして地面を睨みつける春花だった。

「そーいうもんなの?」

 サバサバした母親譲りの今日子は何でも母親と話し、現に母の過去だってそんなものかと思う。

「まあその糞炉利親父と暮らすのもな、どーかとおも……」

 春花右手での本気の平手うちを左腕でガードする、

「うちのお父さんを馬鹿にするな!!!!」

 さっきまでと打って変わって怒りだす春花だ、気持ち悪い性的虐待をされていても父親なのだ、今日子の種違いの姉がレイプの結果、生まれた子だとしても、彼女の姉であるように、むしろ家族だからこそ深刻なのだろう。

「もしかして、ごく最近……同じようなこと……されだしてんのか?」

「…………………………………………………………………………」

 回され続ける、姦し続ける風車と、波の中のしじまが物語る、また最近になって寝床に侵入する影があると。

「そうか、それで首筋のキスマーク、アレ圭からのキスじゃなかったんだ」

 そういうものとか、みられたくないから、花火大会に出てこなかったんだと、暗い顔を疲れた顔も見せたくなかったし、話せる分けもないしで、春花はふさぎ込んでいたのだった。


乱暴でガサツ、蓮っ葉女だからしゃべることのできるものってありませんか。

保守的なくらい口が堅くって、義理を欠いても人情には厚い。

義理を突き詰めればマゾになるんだから、情が大事なんだと思います。

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