夏の花火大会
オーナーは店で会うときは極めて普通にふるまっていて、女将さんとの関係も普通そうで、でも彼の心の闇は晴れたのか、そんな事ボクにはわからないし、夏休みが終わっても、細々でいいからバイトを続けていこうと思う、オーナーとの関りを持ち続けよう。
そんな日々に楽しみなイベントが待っている、その為に心愛の家で特訓中。
体型的に似合うとは信じられないかもしれないけど、こんなにも可愛く、ボクにぴったりだとは思わなかった、浴衣ってさ……
夏休みまでにずいぶんと髪の毛も伸びて、ボブくらいにはなって来たし、そのおかっぱ頭とのコラボもとってもキュートなの、日本人であることを意識させるっていうのか、こんなにも楽しい!
うそつきの2ピース浴衣じゃもったいない、襦袢からきちんと着付けを覚えたの、浴衣は簡単な方だし、いっそのこと四季に合わせて着物を揃えてみようなんて思っちゃうくらいだけど……お金がなぁ、はぁ~~~……。
「お金のことでしたら気にせずわたくしを頼って下さって下さい」
「そんなに甘えてばかりいちゃ悪いよ」
「それより江戸川の花火大会楽しみですわね」
近隣で一番大きな花火大会はとっても楽しみだ、夏の一大イベントだもの。
カワイイ浴衣だからって、そのままバイトにいっちゃうくらいサマになってきた、日常着としていられるくらい、着崩れもパパっと治せるくらいね、スゴイでしょ!
オーナーとかも驚いてたけど「似合ってるよ」とか言われるとすっごく嬉しいし、奈々先輩も可愛がってくれた。
悪い癖なんだろうね、ちょっと親しくなるとおしゃべりになっちゃうのって、
「奈々先輩って知っていました?」
「何の話」
「ボクってこう見えて男なんです」
「は、はい? いや、言ってる意味がさっぱり分かんないんだけど? 東雲さん?」
あーこういう反応最近楽しくて愉しくて、なんか悪い子になって来ちゃったなあって、
「先輩、触ってみて下さい」
そう言って先輩の右手を握り、ボクの胸に押し当ててみた、
ペタペタってわかりやすいでしょ?
「えっ? え? ええ! ええええええええええええええええええええっ!!」
もうその驚いた顔ったらおかしくておかしくて、こんな面白いことないっていう。
「ほんとーに? いやいや」
そういってペタペタ、もみもみしてくる先輩だ、なんかくすぐったいって。まあ女の子でも寸胴体型であんまし胸が無いくらいの方が浴衣は似合うし、華奢な男に女性の浴衣ってこんなに似合っちゃうんだね。、
「ひええええぇぇぇぇぇ、なんか持って帰りたくなってくる~~~」
「あはは、ダメです、先輩」
「こ、これはスマホに、の、残しておかねば! てかマジ綺麗だよ東雲!」
すぐバイトのシフトに入る関係から、素早く制服に着替える、だって簡単カンタン、たすきで袖をたくし上げて、上から制服羽織るだけだもの。
まあ目立つこと目立つこと、浴衣って反則に近いくらい女の子女の子しちゃうから、
「東雲今度の花火大会行くでしょ、私も一緒についていっていい? 彼氏にも見せてあげたいし」
「嬉しい! じゃボクも彼女紹介します」
「……二人が花火大会の日居ないのは店的にきっついな~」ぼやくオーナーだった、ごめんねオーナー。
最近何だか元気のない春花を励ましてあげたかった、知らない人に逢うことも何かいい刺激になればいいかなって、年上の大学生と話せる機会って面白そうだし。
当日は心愛ちゃんのお家で着付けを手伝ってあげた、あんまり彼女はこういう所だけは苦手みたいだから、手伝ってあげないとって、ボクが文庫結びだから、心愛にはリボン結びが似合うと思う、華やかで若々しくふんわり結ぶのがコツだけど、〆るところはきゅっとね。
よく考えてみればボクは男なのに普通に心愛と着替えてるし、別に下着姿を見せあいっこしても恥ずかしくないの、いつの間にかそういう風になってる、これを知ったら春花って怒るかな?
ボクの艶姿を春花に早く見せたかった、カワイイって言われたいの、今日子はどんな顔してくれるだろうか、わくわくしながら待ち合わせの公園に向かう。
心愛とボクの美少女JKが浴衣姿で通りを歩けば、男たちは振り返り、女の子に流し目をくれれば妬みの入り混じったような驚嘆の視線がぞくっとくるの、
不意に今日子の浴衣姿を想像するとおかしかった、180を超える女の子の浴衣ってどんな感じなのかな、男顔の女の子というより女顔の男の子みたいな彼女だから、
ところが今日子のファッションには驚いた。
「はぁ~~~」
若干息を吸い込み気味に、顔下半分を隠すともなく隠し嘆息する心愛ちゃんだ。
「可愛い……」
純白のワンピースに咲く花々の刺繍、オーバースカートを腰に巻き込み、そのスカートにも日本では見られない素敵な刺繍が凝らされ、袖の上腕には赤いリボンが結ばれている。
「ふん、じろじろ見んな、見世物じゃねえ」
セルビアの民族衣装だという、少し厳粛な雰囲気すら醸し出され、元々非常に白い娘だとは感じていたけど、衣裳がさらに肌の色をコクのある白磁の様に見せて、とってもガーリー! 恥ずかしそうに膝を抱え三角坐りしてるのがかわいくて弄りたくなってくる、
「いや、母親が折角だから着てくれっていうもんだからよ、仕方なくだぜ、な、な? ほらオレが和装しても似合わねえし、お前らもそう思うだろ?」
憎まれ口叩くけど、ほんとに似合ってる、やっぱり女の子なんだなって、埋没を嫌うその姿勢、やっぱりこの娘なんだなって、真似できないよね。
「それから体調悪いから、休むってオレのとこにメール寄こして来てたぜ、春花」
えって感じで心愛と顔を見合わせた、
「春花さん、何か避けていらっしゃるのかしら」
ボク達のとこには何の連絡もしないで、やっぱり何か彼女おかしい、急にどうしちゃったのか、せっかくのお洒落を一緒に楽しみたかったのに。
「そう残念って顔すんなよ、後でオレからも連絡してみるからよ」
人形殺害の一件から、ボクの所に憑依にも来てくれなくなっていた、
「うん、ナニかボクが悪いコトしたのかなって、今日子に頼んでもいい?」
「おう、任しておけ、その代りゼッテエなぎなたの異種試合にでてくれよな」
「う、しまた、忘れてたのに……」
「決まりですわね、心愛は圭君と稽古するの楽しみです」
もうこの二人には敵わないなあ、もういいや、なぎなたも面白そうだし、巻き込まれてみようかな。
磯の香りの風が流れてきていて、湿度が増してくる、もうすぐ花火が打ち上げられる時刻が近づいていた、
「ごめんごめん、東雲君!」
向こうから人垣を掻き分け奈々先輩が走ってくる、
「先輩大丈夫です、花火は長いです」
「そういってくれるとありがたいよ、はあはあはあっ、み、みなさん、初めまして、」
よっぽど急いで来たんだろうね、奈々先輩ったら肩で息してる。
「ごめんね、奈々の化粧とか時間かかっちゃってさぁ」
あ、わかるわかる! 色々大変なんだよねって、あ、例の彼氏さんかあ、ちょっと今の発言、彼氏さんに怒ってるだろうな奈々先輩……とかって想像して、
「わあぁぁカッコイイ、素敵な彼氏さんですね奈々先輩、憧れちゃうな~~~~」
とびっきり甘く、上目づかいにアヒル口を作って、声のトーンとオーバーアクション、何より甘さ、生クリームにはちみつの甘さを絡めたみたいな脂っこい甘さって、
職人の気概を込めたような視線を奈々先輩に送る、すぐにわかってくれたみたい、
駆け寄ってぺったんこの胸だけど、押し付けるみたいにしなだれついてみせた、うなじは自信があるし、
「え、なになに? 例の男の娘の彼女さん? かわいいじゃん」
今日子をチラッと見、
心愛が今日子をつついて、
「わたくしじゃないのが残念です」
「彼氏って思っていたより背が高いね、でも全然美人だよ? 民族衣装もポイント高いしね」
「「でっしょー! 何処から見ても女の子にしか見えないでしょう?」」
こめかみに青筋を立てながら、打ち合わせなしでハモってみせる奈々先輩と今日子、でもしっかり引きつった笑顔でね、
(オレは女だっつーの!)
(圭君の方が彼女だと思っているとは……)
「花火は先輩の彼氏さんと一緒に見ちゃおうかな~~」
「いやいやまいったな~~ww」
(よくやるぜ、圭のやつ、女だったらぶん殴ってるとこなんだけどな)
(まあまあやに下がった間抜け顔ですこと、圭君は可愛いけど)
(ふーん、自分の男ながら馬鹿丸出しっていう感じ、こんな阿保だったっけ?)
(とか思ってそう!)
彼の左腕とボクの右腕を組み、左手を彼の左手にそっと添える。
「佳って呼んで下さい……うーんと、彼氏さんってお名前じゃないですよね?」
「けいちゃんか~~ うん、正弘って呼んでよ、奈々からもそう呼ばれてる」
「えーぢゃあ、ヒロちゃんって呼んでもいいですか~」
「ヒロちゃんかーw、って照れるなぁw」
(((全然気が付かない?)))
「ヒロちゃんって大学どこ通われているんですか」
「いやいや大したとこじゃないよ~順天堂医学部さ」
さっすが奈々先輩、しっかりこれからも尻に敷かれてた方が身のためだよ、正弘さん。
「すっご~~~~~~~~~~い!!!!! 超アタマいいんですねえ、カッコイイ!! 奈々先輩羨ましい……」
(勉強は出来んだろうけど、しっかりした女房持ってねえとコロっと持って行かれんぞ正弘)
(これだから男の人って……)
(正弘との付き合い方、考えちゃう)
「折角だからLINEやりましょうよ」
「え、でも医学部忙しいしなぁ」ニヤニヤ
(正弘! 私の前でなにし始めてんだよ!)
「圭、それ位で勘弁し置いてやれよ、しゃれじゃすまなくなる」
若干顔を引きつらせ、止める今日子だ、ナイス! いいタイミングだよね?
「え~~もうちょっと見たかったですわ、かわいい圭君が、他はどうでも」
「奈々先輩ゴメン! 全然そんな気ないですから! 彼氏を大事にしてあげてください、男の子ってしょうがないんですよ」
「え? なに? え?」
事態が全く呑み込めて無いんだろうな、ホントにも~鈍っぶいんだから!
「大丈夫よー、お姉さんこれでも大人だからネ(怒) 正弘行くよ、花火始まっちゃう」
「圭君はね、こう見えても男の娘なんですわ、れっきとした男ですよ、正弘さんお分かりになって」
さっきまでちょっとカッコよく見えていた正弘さんだったけど、今は哀れにしか見えねいから不思議、口説く時には相手がホントにカッコよく見えてるつもりになって口説かないと真実味ってでないもん、相手に惚れるって自分の中の偶像に恋しているのかもって。
「え、マジ?」
そんなときお腹に響く音がして、花火が始まったのが分かった、ビルの谷間に見える閃光とため息と、
「スーパーの三階の屋上駐車場行きましょう、この辺の穴場っすから」
人込みを嫌う今日子が知ってる絶景ポイントだった、後ろから狐につままれたような納得のいかない正弘さんが付いてきて、何だか居場所がないような感じで可哀想だったけど、しっかり奈々先輩が付いて手を握っていたって、花火の合間合間にボクの事ちらちら見てくるのはちょっとアレだったけどね。
次回は少しマジメな話にしたいかも、