表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

哀しき人形2

気に入らなかったので書き直しました、猟奇ですが犯罪でもないし

 今月号のnom-noを春花と回し読みしながら、お化粧とかファッションのチェック中のボクで、最近この手のティーン女性雑誌向け読むのに全く抵抗とかなくなっちゃった。すっかり男の娘が板についてきてるの。

 今月号には心愛がモデルに乗ってるから、そういうとことかも楽しかったしで、

「圭君もモデルの仕事やってみたら」

 春花に何気なく言われた。

「モデルは嫌だけど、もうすぐ夏休みだよね、あ、このワンピかわいいかも……」

 折角だから夏だけでもアルバイトでもしようかなって思ってる。心愛がボクのこと可愛がって服とか色々援助してくれるけど、甘えてばかりじゃねって。

「お父さんお母さんとはどうなの?」

「お母さんはもう仕方ないかなって感じになって来たけど、お父さんとは口きいて無い感じ」

「じゃあ、履歴書の親の同意のとこは書いてもらえそうにないわよね」

「そうなんだよね」

 まあいざとなれば、誰かに頼んで適当に判子ついとけばいいんだろうけど、

「危なくないバイト選ぶんだったらいいんじゃない? 君だっていつまでも子供じゃないんだからさ」

 結局その言葉に押され、代筆を春花にしてもらい、履歴書を書いた。女の子の格好をやめる気はないから、相当落とされるつもりで何枚か書いてみたのだけれど、とあるコンビニで……

「面接をお願いした東雲と申します、オーナー様はいらっしゃいますでしょうか」

「ああ君が、東雲えーと」

「圭と申します」

 ああダメだろうなと、この女装で圭って言うの、初対面じゃあねえ……

「じゃあバックヤードに、加藤君発注手を止めて、ちょっとレジお願い」

 そうしてスタッフオンリーと書かれた扉の中に案内されたの。

「うーんと江戸蔵の生徒さん? コーヒー飲む?」

「あ、ありがとうございます」

 商品から一本取り出し勧めてくれるオーナーだった、いいのかなって、

「オーナーの高橋といいます、ふーん、可愛い顔してるね、お客さんから好かれそうだ、それにしても履歴書見ると……男の子なんだね」

 あ、終わったって思うし、

「止める気はありませんから」

 どうせだったら言ってやった、だからダメなんだろうけど、がまんできないもの。

 高橋オーナーがチラッとこっち見て、

「じゃあ採用だね、早速教育用のDVD見てもらおう、時給もその時間分出るから安心して、コーヒー飲みながらでいいから」

 こっちがあっけにとられているうちにリモコンを操作し、

「え、どういう、採用って」

「言葉通り採用だよ、頑張ってね、まだ仕事残っているんだ、一時間かからない内容だから、終わったら店に出てきて、制服とかも用意しとくね、じゃまた後で」

 忙しそうに店に戻ってしまうの、その間言われた通り、モニターに映し出されるコンビニのアルバイト教育プログラムを見ていました。

 その後シフトの事とか、ロッカーとか貴重品の管理とかの決まり事を説明され、とんとん拍子にアルバイトが決まってしまうって。

 高校生のできる一番最初の仕事といえば、レジ打ちじゃないのかな? せめて笑顔を作って元気よく! 声に愛嬌を籠めようって!

 ボクへの約束っていう。

 バイトにはすぐ慣れたし、取り敢えずの人間関係も良好、そんな中バイトの帰り道、高橋オーナーの乗った車と交差点の横断歩道で鉢合わせたの、助手席には女の人が乗っているんだけど、

 手を振ったら、オーナーも気が付いたみたいで手を振り返してくれた。

 ?

 なんか違和感っていうのか、? 歩きながらもう一度車の方を振り返ってしまう、

 夜だったし、良くは見えないけど、助手席の女の人、ん? って感じ。

「……」

 その日は何か気になりながらも、真っ直ぐ家に帰ったって。

 で、次のバイトの日、大学生の奈々先輩に仕事中ちょっと雑談がてら聞いてみたの、

「高橋オーナーって、結婚されてるんですか」

「ん~そういう事だったら本人に聞けばって、まあしてる、伴侶居なきゃコンビニなんて経営できないでしょ、実際大変なんだから奥さん」

 コンビニの経営って親会社が儲ける為の金融システムの様なものだと奈々先輩は言ってる、オーナーって大変だよって。

「若い女ですか?」

「そんな若くはないけどって、何、何か見たの?」

 まだオーナーの女将さんを見たことが無かったのでと胡麻化し、それ以上の追及も避けたわ、なんかヤバそうなとこに行きそうで、怖いもの。

 夏休み前二日働いただけの、スズメの涙の様な給料だったのだけれど、頂ければ嬉しくて春花を誘って近くで一番大きい古着屋さんにデートに行った時に、高橋オーナーとばったり出会ってしまった、向こうも彼女付でね。

「やあ、若い娘連れてデートかい? 羨ましいね、東雲くん」

 車椅子を押しながら、全く悪びれるそぶりもなく、堂々と彼女を連れて、この間初めてお会いした女将さんとは別人じゃないのって、

「ボクってそんなに口固いわけではないですよ」

 だって奥さんかわいそうじゃない、こんな白昼堂々って、どうかしてるよって、

「圭君、知り合い?」

「う、うん、アルバイト先のオーナーさん」

 軽蔑するなって顔してるんだろうけど、仕方無いじゃん、

「初めまして東雲君にはお世話になっています、雇い主の高橋です、と、私の彼女のアサミです」

 いけしゃあしゃあと、恥を恥とも思わずってこういうの言うんだろうな、大人って。

「……? 不埒な事をお伺いしますけど、彼女さんですよね?」

「……そうです」

「不躾ですけど……人形ではありません?」

 言ってる意味が分からない、春花は何言ってるのっていう、

「いいえ、彼女はれっきとした、人間です」

 少しの笑いと、微かな羞恥を込め、ぶれない答え、いっそ清々しいくらい、

「でしたか、失礼しました」

「いえ、お気になさらず、たまにある事ですから」

 春花とオーナーが会釈し、その場は春花に袖を引かれて別れたんだけど、

「今の彼女って、アレ良く出来た人形だよ、圭君分かってる?」

「何言ってるの? 不倫でしょ、マジキモイんですけど」

「ぷっ、確かにそうかもしれないけど、アレ本当に良く出来たお人形さんなの」

 ここまで言われてもよくわからなかったけど、再三同じことを言い続ける春花なの、

「……………………本当に?」

「ラブ……ドールって」

 顔を赤らめ、きょろきょろ周りを見ながら小声で呟くのを聞いて、ボクまで顔を紅色にそめてしまう。

「いったいどうして!?」


「……」

 仲睦まじく彼女の車椅子を押すオーナーの後姿だけを見てるしかない僕達。

 次のバイトの日は雨でした、まるで梅雨に戻ったかのようなじめじめとした天気で、それがしばらく続くって、折角夏休みに入ったってのに、心愛や今日子との花火大会どうなっちゃうって。

 なんて目前の問題より先にある目標をみて、現実からは逃げれないから、どうしよう、息をするのも苦しい、前も後ろも分からないみたい、バイトに行くのが!

 高橋オーナーに会ったらどんな顔したら……

 高橋オーナーに会ったらなんて言えば……

 高橋オーナーの奥さんに会ったら「妻妾同居楽しいですか?」みたいな、ってやばいでしょ、直球過ぎ圭! あ、地がでちゃった、

 秘密を抱えるのって息苦しくて、身体が重いっていうのかな、時間が長い。言葉に気をつけすぎてナにしゃべっていいのって、喉の奥が痒い、かきむしりたいのにそれは出来ないし、女子のボクがそれを許さない。頭皮にじんましん出来ても笑顔でそれを逃して、スマイル接客! でも顔が引きつってしまう、どーにかしてください、

 フッジャケンナ高橋オーナー! そんな感じで働いてたら他の人にも伝わっちゃう、奈々先輩から心配されて、常連のお客さんからも「大丈夫?」なんて言われてしまう、はぁ~~~。

 そんな様子見たからなのか、変な噂立ってからじゃ遅いと憂慮でもしたのか、アルバイトの終わるころ、高橋オーナーから声をかけられたの、

「今日はアルバイトが二人そろっているから深夜シフトに入らなくていいんだ、君もちょっと時間とれるだろう? 少し話をしないか」

 こっちも尋ねたいこと、聞きたいこと山ほどあるし、心をすっきりさせたかった。

「いいですよ、どこ行きます?」

「オーナー、女子高生連れて変なトコ連れ込んじゃだめですよ」奈々先輩が気遣ってくれる。

「ははは、怖いねえ、奈々君とはまた別の日に一杯連れていくから、君お酒嫌いじゃないだろう?」

「先輩、そういうんじゃないですから、いざって時にはダッシュで逃げるし」

「へんなことされたら私に言ってよ、東雲が頑張ってるの応援したいしさ」

「信用ないなあ~、変なことなんかできっこないよー」

 確かにその通りだったんだけど、彼から指一本も触れられなんかしなかったんだけどね。

 とはいっても誰に聞かせたい事柄ではないし、なんとなくオーナーの車でその辺を流してみることに、

「雨だけど行ってみたいところとかある?」

「……別に」

「なんかしゃべりづらいねえ、たはは」

 今座っている助手席に、この間は例の彼女を乗せていたのかと思うと、何かお尻が背中がむずむずしてくるようで落ち着かない。

 視線をウィンドに写るオーナーに合わせ、直接顔を合わすのを避け、

「やっぱりあの時の彼女って」

 一瞬口ごもって、

「人形だったんですか?」

 車窓に写るオーナーから焦点をぼかし、流れる夜景を眺めるともなく眺めて、「あ、高速……」

「流すのに楽だからね、時間大丈夫だったかな」

 軽く拉致られてるなとか思いながら、別に気にはしなかった。

「君たちからみたら人形なんだろうけど、僕にとっては大切な彼女なんだ」

 キモイことでも流れる湾岸線を見ながらなら聞いていられる、あ、この間いってきた葛西臨海公園の観覧車、雨粒に光ってきれい……

「もう何年前だったかな、結婚したばかりの女房が亡くなってね」

 向こうはディズニーか……どっちに曲がるんだろこの車って、

「がんだと医者に宣告されてから、彼女は言うんだ、貴方に私の身体を残しておいてもらいたいってね」

「えっ」

 急に車窓の風景が目に入ってこなくなったの、焦点をオーナーの眼にうつしてた。

「身体を残すって意味ね、彼女の身体がまだキレイなうちに、当時の技術で三次元スキャンしてね」

「え、え、えっ、ちょっと待ってください、貴方は、高橋オーナーはそんなこと納得したんですか、本当に奥さんそんなことを……」

 もう車窓の景色なんか見てやしなかった、高橋オーナーのほうを向いていたもの。

 どれくらいの沈黙だったのかは分からない、ほんの刹那なのか、随分と長い時間だったのかは……ワイパーだけが機械的に動いているのでこれが現実だと教えてくれる。

「どっちからなんて忘れちゃったよ、そんなこと大した問題じゃないだろ? 僕たち二人には愛情があって、お互いに納得したんだからさ」

「!」

「そうして出来上がった彼女は想像以上だったよ、シリコーン独特の肌触り、そう、彼女は肌にしっとりまとわりつくんだよ、一緒お風呂に入れば自然と会話ができるし、その後のベットインなんか最高さ、彼女が出来てから家に帰るのが楽しくなった、妻を失った悲しみを和らげてくれたよ」

「……っ…………~~~~~~~っーーーー」

 言葉にできない、なんていっていいのか分からない、でもその通りならと、妄想が止まらなくなって、異常なまでに話に聞き入っていく、ボクにはかつての二人の夫婦愛がどんなものかは分からないけど、わからないならボクのお父さんお母さんに置き換えて想像するしかないじゃない、

「もうすぐレインボーブリッジだね、橋を渡って箱崎でUターンしようか、途中パーキングに寄るから、そこで休憩ということで」

 でもその妄想ってつらいんだよ、他人のことならそうだねって受け入れても、自分のこととなれば立場も変わる……立場って何? 高校生のボクには難しい問いだよねって、親の恋愛がどうだったのとか、ぶっちゃけ親のセックスってどうだったのとか想像したくはないし、

「聞きづらいこと聞いてもいいですか」

「どうぞ」

 首都高の流れに任せ、車が流されていく、

「例の彼女はその、元奥さんのデータから起こされた人形なのですか」

 良くそんなことが聞けたと今でも思う、そしてオーナーも良くそんなことを一介のアルバイトに話す気になれたのだと。聞いていて目の前がぐるぐる回っている、気分がおかしくなるようなめまい。

「そうだよ、顔の造形から、乳房の稜線、腰のくびれ、へそのディンプル、お尻の肉つき、熟れた太もも、きゅっと締まった足首から、果ては彼女の外性器、膣の中まで……」

「ちょ、ちょっと……」

 聞いたこともない話にクラクラしながら、それでも夢中になってしまう、その生々しさに、二人の関係性に、とんでもない異常性、変態的なまでの執念のようなものに!

 これは間違いのない愛なのだと、二人の世界で他人に介在する余地なんかないってことに、

「でもどうしてそこまでの詳しい経緯をボクなんかに……?」

 それには答えず、

「もうすぐパーキングだ、のどが乾いたな」

 確かに、のどがカラカラに渇いている。言われるまで気が付かなかったわ。

 いったん彼は車を止め、小雨の中自販機の軒先でお互いに立ちながら、

「アルバイトのみんなには言ってないけど、君って男の娘でしょ、不躾なこといってすまないけれど」

「…………」

 他人だから言えるんだよね、ボクのお父さんお母さんにもいわれたことないって、

「君が好きなのは男の子なの、それとも女の子?」

「女の子ですよ、ボクはゲイじゃないし」

「君はいいなあ、好きなことして生きているんだから、自由だよね」

 寂しそうに笑うオーナーなの、

 案外流されているだけなんだけどっていう、だってお父さんお母さんを傷つけたと思ってるし、今だってそのこととカワイイボクを得たことと天秤にかけ続けてる、結論なんか出るわけでもないけど。

「……今の奥さんはこのことを知っているんですか」

 よく言うって、むせ返るような熱帯夜のなかで、さらに体温が上昇するようなことを。

「今度紹介するつもりなんだ」

 しらふでこんな事は言えないだろう、こんな小雨振る暑苦しい夜に、女の子の格好をした男の娘相手ならいえるのだろうね、だからこの場所にボクなんだね、ああこの人は本当に元の奥さんを愛していて、その人形を人間のように愛しているんだって、もうそれは狂おしいくらい、失ってなお……、いいえ失ったからこそ余計にその愛情は深まるばかりで、そこまで言うくらいなんだから彼の言うとおり人形の彼女は人間に見えてるんだ、もちろんそれは彼の中でのことだけど、やがてそれが区別つかなくなってごちゃ混ぜにしているんだなって、愛情を妄信するあまりに今の奥さんにそのことをカミングアウトする願望があるんだ、そうすればまるで今の奥さんをかつての奥さんみたいに妄信して無限の愛情を注げるしそれを受け止めてもらえると信じているってことになるでしょ! ここまでくると人間をまるで人形のように愛する人形愛じゃない!

 それと似たようなことを気が付かないまま両親にしてきたボクに彼を責めることなんてできないけれど、果たしてそれでいいのだろうかって、ああだから彼はボクにこんな話をしたんだなあって、似たもの同士分かり合えることがあるからって、結局は自己愛なんだろけどね。

 まだ本当はHで、聞きたい話一杯あったけど、もうそんなことどうでも良くなっちゃって、人形の彼女と彼は一種の家族なんだろうけど、今の奥さんのことは別じゃない? 女将さんが妻妾同居なんて許すか分からないじゃない、ってか多分許さないと思うんだ……

「許すかどうかなんてわからないでしょ、それを理由とか免罪符に使うなんて、未成年に話しておかしいと思わないんですか?」


『そーいうオマエは許されるとでも思っているのか?』


 息を呑むような自問……

 都合の良いことは自分のもの、それが悪くなれば他人のせい。せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、性の話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話性の話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話、せいの話。

「許すに決まってるじゃないか、彼女は僕の奥さんなんだよ」

 Prrrrrrr……

 唐突な春花からの着信だった。

「少し失礼します……」

 深夜小雨の中、るっと通話の文字をフリックする。

「もしもし」

「もしもし圭君? 今どこにいるの?」

「んと、首都高の箱崎パーキングってとこ」

「どーしてそんなところに……ていうか圭君のお母さんから心配して電話がボクのところに来ているんだよ、すぐ位置情報転送して」

「……」

 ボクのスマホには連絡しないで、春花のところに聞いてくるんだ、これって良くないしって、ボクはグレてるわけでもないのに……そんなにお母さんと壁を作っちゃっていたのかな、

「犯罪とかに巻き込まれてない? あ、あったここか……」

「心配かけてごめん、大丈夫だから」

「だったらいいけど、心配だし今から確かめに行くからね」

 きっと春花は憑依してくる、その時彼女はどう感じどう思うだろうか?

 でもその前に、

「ボクが初めて女子高生になって学校登校する日は度胸いるし、親のあっけにとられた表情が忘れられなかったです、えーと何言っていいのかとかよくわからないけど、近しい関係性の人、近ければ近いだけ難しくなっていく事、性の嗜好……が分かる事とかが。その人にどんな影響を与えるのかって怖いと思うんです」

「東雲君の言う影響って何だ」

 言葉にしずらい、あの時の感情を思い出すと、やっぱりつらいんだ、お父さんの「治らないのか」という言葉とか。

「家族との関係性です、本人はカミングアウトしてスッキリするかもしれないけれど、相手は戸惑うかもしれない、現にボクの親はそうでした」

「………………………………………………………………………………」

「オーナーの趣味とか、お亡くなりになった奥さんへの愛を否定はしません」

 言葉を慎重に選んで、ゆっくりと話す様にしないと、

「オーナーの趣味を否定しません、いまボクだって男なのに女の子の格好しているでしょ、でも……」

 言葉に詰まる、背中に汗が滲んできてた。

「………………でも?」

 彼も真剣に聞いてくれている、ここは大事な場面。

「奥さんへのカミングアウトをすることは控えて下さい」

 ボクに言えることの全部の想いだ、その方がいいのだ、経験上も、奥さんの気持ちをなればきっとそう、その時例の射精にも似た寒気を覚えた、そう、春花が憑依してきたのだ。

 ボクの頭の情報を読み取り、車での一部始終を理解した。

『高橋オーナーって本気なんだね、確かに彼の愛情だともわかるんだけど、ボクにとっては正直キモイよ圭君、君は一定の理解してることも読み取らせてもらったし、何とか説得しているんだね? そしてそれで解決しようとしてる、ボクもそこは賛成なんだ。だったらすっごく嫌で気持ち悪いんだけど、ボクが彼に憑依して、その辺の意識とか記憶とか、消したり作り変えてしまうって言うのどう?』

 かつて春花にいじめられていた記憶が蘇る、この娘は時に凄いコトしてくるって。

「そ、そんなこと、頭の中操作しちゃうなんて……」

『前にも云った通りそんなことは僕ならカンタンだよ、好きでもない人に憑依するなんて考えただけでもキモイけど、圭君の為だったなら、圭君が心配しているならやってもいいわ、と同時にこんな中年オヤジが人形を人間の様に愛して、もしかして毎晩抱いているのかと想像したら吐き気を覚えるし、許せないよキモいの反対絶対に許せない、そんなの今の奥さんに知らせるなんて……虐待もいいところだよ! DVとしか言いようが無いわ、奥さんの為にも記憶をぶっ潰そうよ、めちゃめちゃにしてあげるんだから、一切の手加減なんかしないよ、恐怖の記憶に塗り替えるのとか面白そう! アハハッ』

「だ、ダメだよ春花、ボクをイジメてたこと忘れたの! そういう事は駄目だ」

『君のいってることはぬるいって、このままだと彼はきっと今の奥さんに告白するよ、間違いなくネ』

 それは確かに、

「記憶とか操作するのだけは止めて、そんな勝手に人の人格まで操作するなんて、ひど過ぎる」

 かつてのイジメの経験からそうだった。

『だったら彼に行動で変わってもらおうよ、それも飛びっきりの方法でさ、彼の人格には直接手を下さないから、安心して圭君』

 そうして春花からその内容を聞かされたボクは放心状態というか、がく然としてしまう、

「そ、そんな方法って……」

『これ以上綺麗ごと言うつもり? まだぬるい説得とか甘いことをいうの?』

「だからって……」

「折角だし、ボクと圭君でお呼ばれしよう、それこそ彼はして欲しいことのはずさ」

 もう何も言うまい、僕たちは胎を決めた。

 そうして春花はボクの身体から高橋オーナーの身体に移り、これからの彼の行動を刷り込み、僕らもそこについていくことになったの。

 首都高を錦糸町で降り、都内のとある場所にあるワンルームへと向かう。一瞬でもキモイと名指しする男に入ったわりに春花はボクの中で結構ご機嫌だ、これから行われることが楽しくて楽しくて仕方がないみたい。

 やがてワンルームに着くと、

「ただいま沙織」

 本当に人間というか、元奥さん接するみたいにやさしい声、

「紹介しよう、元妻の……いや現在の彼女の佐織だ」

「お邪魔します、沙織さん」

 こうなったらとことん付き合わなくては。

「沙織……この娘が居ることを許してほしい」

 ベットに座る彼女の横に座る高橋オーナー、とっても愛しげに、

「君の事を愛していた」

 そうつぶやくオーナーの横には電動グラインダーと大きなカッターがある、途中のホームセンターで買ったの、必要だからって、

「すまない……君と一緒には逝けない、恨むのは僕だけにしてくれ、つらい、僕もつらいんだ」

 大のおとなが涙を流し始めてた、人形相手にさ、それを見てねボクも少なくないショックを受けてね、

「今から君の事を殺す、僕のこの手で、愛しているから殺すんだ、誰にも渡したくなんかないから」

 言葉にならない嗚咽を漏らして、沙織さんの首に手をかける、その手は震えていた、

「君の事を一生涯忘れ……忘れなんか、うっううううううううううううううぅぅぅぅ~~~~~~うううっ」

 側でそれをみているボク達にも戦慄する位恨みみたいなのを発散してくる、違うでしょ誰かを恨むのって、人を恨むんだったら最初から関わらないでよって、それでもその迫力ときたら、人形の口から唾液すら見えるくらい真に迫っていて、まばたきなんかできないくらい引き込まれてしまう、

「許してくれ!」

 がばっと沙織に抱きつき、カッターナイフでその背中を刺す彼だ、

「痛いか、痛いか、痛いだろう、痛いに決まっている、だって僕の心も張り裂けそうだよ、分かるかい、わかるだろう、君のことは何でも分かってるつもりだから」

 人形が涙を流しているようにすら見えた、そのキレイな造形に、この世のものとは思えないほどの凄絶なまでの愛を狂気を感じた、

「うっうあっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!! 許さないでくれ、許すな、絶対に許すな! 許してくれ! 許してくれ! 許してくれ!」

 馬乗りになり、身体といわず、服といわず、眼といわず、腕といわず、めった刺しにするオーナー、

 血さえしぶいて見えた、

 骨格に当る鋼から火花すら飛び、その鐵の匂いは血の香りがプンプンする、、

 絶叫がこめかみに響いて痛みを覚えた、めくるめく虐殺劇というのか、

「もう僕のことを解放してくれ、その呪いから」

 もう止まらない、とめられない、

 電動工具を使っての解体ショウが始まってしまった、

「苦しい、こんなに苦しいのか、君を失うことは」

 首を斬り、腕をもぎ取り、脚を切断する、

「僕はこんなことをしなければ気がつけなかった」

 涙も涸れ果て、無我夢中で人間を人形のように解体し続ける、もう二度と彼は男のキモイ純情とやらに夢を見ることはないんじゃない? ここまで物凄まじい凄惨極まるバラバラ殺人をしてしまったんだから、

「やっと君が死んだという事実に……」

 呆けたみたいに、天井を見つめるオーナーが不気味、まるで天井から誰か見つめているんじゃないかって、薬が効き過ぎたっていう、

『意識をぶっ飛ばしてるんだね、ようやく事実を認めた自分の意識に折り合いがつけられないんだ、天井から彼が彼自身をみつめているんじゃないの』

 春花が悲しそうにしてる、

「春花……」

 ボクは何か疑い始めてた、春花の事を、

「救われたのはオーナーの女将さんでしょ? これで良かったのよ」

 自分でいっておいて、まあそのとおり、とは素直になれない、間違いなく彼だってズタズタにされてしまったんだから、

『後は圭君がオーナーと付き合っていくしかないじゃん、変な暴走とかさせないようにって』

「……そうするよ」

 そうして小一時間、オーナーが正気を取り戻すまでボク達は待ち、そうしてからボクの家に送ってもらう。

 その晩はお母さんにこっぴどく叱られ、さんざんな目に遭ったなんて、いうのは、嘘。

 申し訳ないっていうのと、ちょびっとだけ嬉しかった、まだボクの事心配してくれてるんだって思えたし。

 それよりさっきから考えない意識しないようにしてきたこと、春花の事、あそこまでサディスティックになれる彼女はやっぱりおかしいと思うの、あれはあれで効果ありともいえるけど、そこまで男を追い詰め、ぎったぎたにするのってちょっとね……ただそのことを感じていると心を共有するボク達だからすぐわかってしまうし、だから一人になった時に今こうして心配してる。

 きっと彼女は心に何重にも封印してる何かがあると思う、その何かというのはわからないとしても、きっと今回の件とか、ボクをイジメてきたことに関係しているんじゃないかって気がするんだ、ただの勘だけど、心配になって来ちゃう。









もうちょっと続きます、それにしても近頃寒いですね、インフルエンザも流行しています。

体調管理をしっかりしていきたいものです。

最近生活がガラッと変わるので、次回までに時間がかかったらみたいな……状況です

お察しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ