哀しき人形1
今月号のnom-noを春花と回し読みしながら、お化粧とかファッションのチェック中のボクで、最近この手のティーン女性雑誌向け読むのに全く抵抗とかなくなっちゃった。すっかり男の娘が板についてきてるの。
今月号には心愛がモデルに乗ってるから、そういうとことかも楽しかったしで、
「圭君もモデルの仕事やってみたら」
春花に何気なく言われた。
「モデルは嫌だけど、もうすぐ夏休みだよね、あ、このワンピかわいいかも……」
折角だから夏だけでもアルバイトでもしようかなって思ってる。心愛がボクのこと可愛がって服とか色々援助してくれるけど、甘えてばかりじゃねって。
「お父さんお母さんとはどうなの?」
「お母さんはもう仕方ないかなって感じになって来たけど、お父さんとは口きいて無い感じ」
「じゃあ、履歴書の親の同意のとこは書いてもらえそうにないわよね」
「そうなんだよね」
まあいざとなれば、誰かに頼んで適当に判子ついとけばいいんだろうけど、
「危なくないバイト選ぶんだったらいいんじゃない? 君だっていつまでも子供じゃないんだからさ」
結局その言葉に押され、代筆を春花にしてもらい、履歴書を書いた。女の子の格好をやめる気はないから、相当落とされるつもりで何枚か書いてみたのだけれど、とあるコンビニで……
「面接をお願いした東雲と申します、オーナー様はいらっしゃいますでしょうか」
「ああ君が、東雲えーと」
「圭と申します」
ああダメだろうなと、この女装で圭って言うの、初対面じゃあねえ……
「じゃあバックヤードに、加藤君発注の手を止めて、ちょっとレジお願い」
「うわあ超可愛い娘が来た、やっべー」
「加藤くん、レジレジ!」
そうしてスタッフオンリーと書かれた扉の中に案内されたの。
「うーんと江戸蔵の生徒さん? コーヒー飲む? 凄い可愛い娘だねえ、ウチなんかでいいの?」
「あ、ありがとうございます」
商品から一本取り出し勧めてくれるオーナーだった、いいのかなって、
「オーナーの高橋といいます、ふーん、ホント可愛い顔してるよね、お客さんから好かれそうだ、それにしても履歴書見ると……男の子なんだね」
あ、終わったって思うし、
「止める気はありませんから」
どうせだったら言ってやった、だからダメなんだろうけど、がまんできないもの。
高橋オーナーがチラッとこっち見て、
「じゃあ採用だね、早速教育用のDVD見てもらおう、時給もその時間分出るから安心して、コーヒー飲みながらでいいから」
こっちがあっけにとられているうちにリモコンを操作し、
「え、どういう、採用って」
「言葉通り採用だよ、頑張ってね、まだ仕事残っているんだ、一時間かからない内容だから、終わったら店に出てきて、制服とかも用意しとくね、じゃまた後で」
忙しそうに店に戻ってしまうの、その間言われた通り、モニターに映し出されるコンビニのアルバイト教育プログラムを見ていました。
その後シフトの事とか、ロッカーとか貴重品の管理とかの決まり事を説明され、とんとん拍子にアルバイトが決まってしまうって。
高校生のできる一番最初の仕事といえば、レジ打ちじゃないのかな? せめて笑顔を作って元気よく! 声に愛嬌を籠めようって! ボクへの約束っていう。
バイトにはすぐ慣れたし、取り敢えずの人間関係も良好、そんな中バイトの帰り道、高橋オーナーの乗った車と交差点の横断歩道で鉢合わせたの、助手席には女の人が乗っているんだけど、
手を振ったら、オーナーも気が付いたみたいで手を振り返してくれた。
?
なんか違和感っていうのか、? 歩きながらもう一度車の方を振り返ってしまう、
夜だったし、良くは見えないけど、助手席の女の人、ん? って感じ。
「……」
その日は何か気になりながらも、真っ直ぐ家に帰ったわ。
で、次のバイトの日、大学生の奈々先輩に仕事中ちょっと雑談がてら聞いてみたの、
「高橋オーナーって、結婚されてるんですか」
「ん~そういう事だったら本人に聞けば、……まあしてる、伴侶居なきゃコンビニなんて経営できないでしょ、実際大変なんだから奥さん」
コンビニの経営って親会社が儲ける為の金融システムの様なものだと奈々先輩は言ってる、オーナーって大変だよって。
「若い女ですか?」
「そんな若くはないけどって、何、何か見たの?」
まだオーナーの女将さんを見たことが無かったのでと胡麻化し、それ以上の追及も避けたわ、なんかヤバそうなとこに行きそうで、怖いもの。
夏休み前二日働いただけの、スズメの涙の様な給料だったのだけれど、頂ければ嬉しくて春花を誘って近くで一番大きい古着屋さんにデートに行った時に、高橋オーナーとばったり出会ってしまう、向こうも彼女付でね。
「やあ、若い娘連れてデートかい? 羨ましいね、東雲くん」
車椅子を押しながら、全く悪びれるそぶりもなく、堂々と彼女を連れて、この間初めてお会いした女将さんとは別人じゃないのって、
「ボクってそんなに口固いわけではないですよ」
だって奥さんかわいそうじゃない、こんな白昼堂々って、どうかしてるよって、
「圭君、知り合い?」
「う、うん、アルバイト先のオーナーさん」
軽蔑するなって思ってるんだろうけど、仕方無いじゃん、
「初めまして東雲君にはお世話になっています、雇い主の高橋です、と、私の彼女のアサミです」
いけしゃあしゃあと、恥を恥とも思わずってこういうの言うんだろうな、大人って。
「……? 不埒な事をお伺いしますけど、彼女さんですよね?」
「……そうです」
「不躾ですけど……人形ではありません?」
言ってる意味が分からない、春花は何言ってるのっていう、
「いいえ、彼女はれっきとした、人間です」
少しの笑いと、微かな羞恥を込め、ぶれない答え、いっそ清々しいくらい、
「でしたか、失礼しました」
「いえ、お気になさらず、たまにある事ですから」
春花とオーナーが会釈し、その場は春花に袖を引かれて別れたんだけど、
「今の彼女って、アレ良く出来た人形だよ、圭君分かってる?」
「何言ってるの? 不倫でしょ、マジキモイんですけど」
「ぷっ、確かにそうかもしれないけど、アレ本当に良く出来たお人形さんなの」
ここまで言われてもよくわからなかったけど、再三同じことを言い続ける春花なの、
「……………………本当に?」
「ラブ……ドールって」
顔を赤らめ、きょろきょろ周りを見ながら小声で呟くのを聞いて、ボクまで顔を紅色にそめてしまう。
「いったいどうして!?」
Hで変態な事書いているかもしれませんが、結構マジメな内容のつもりです
どうぞ次回にご期待ください