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秘密

作者: しろあん

姉が死んでもう3年になります。

私の姉は本当に真っ直ぐな人でした。でも少し抜けていて、天然と言われることも少なくありませんでした。動物に例えるとウサギ、色に例えるとピンク、食べ物に例えるとマシュマロって感じ。桜良という名前の通り、桜の季節のように暖かい人でした。私は本当に姉が大好きでした。愛していました。

でもたった1つ嫌だったのは、姉の彼のことです。姉の彼はギャンブルをしていました。借金もしていました。浮気もしていました。それらを全て姉に隠していました。そのことを姉は全て知っていました。

ある日姉は私に言ったんです。

「早紀、私はどうすればいいんだろう」って。

私は姉の涙を初めて見ました。姉の目からも涙って出るんだってことを初めて知りました。


それから3日後、私はデートをしました。姉の彼の浮気相手は私でした。交際していたんです。

私は酷い女です。

彼は時々私に聞きました。

「オレらが付き合ってんの、桜良にバレねえよな?」

私は答えます。

「大丈夫だよ。まさか、浮気相手が私だとは想像もしないと思う」


私は彼の一番の女になるために、できることは全てしました。彼のダメなところは陰でフォローし、彼が得意なことは、できない振りをして彼に頼りました。

でも私は決して、彼と一夜を共にはしませんでした。彼がベッドの上でどこからキスするのか私は知りません。男は一度女を抱くと、その女のことは全て分かった気になる。秘密のない女に魅力はありません。女は秘密を着飾って美しくなる、ってやつです。

私はたくさんの秘密を着飾っていました。その中で重要な秘密は2つ。私と彼の交際を姉が知っていること。私と姉は彼を恨んでいること。

これは私と姉の、彼に対する復讐劇なのです。彼を陥れるためだけに私は彼を誘惑し、彼に尽くし、彼を籠絡しました。

私は酷い女です。


姉の涙を初めて見た日。あの後私は姉に言いました。

「お姉ちゃん。あいつに復讐しよう。私と協力してあいつを見返そうよ」

「そんな、無理だよ。早紀にも悪いし」

遠慮する姉を時間をかけて説得しました。

具体的に作戦を考える頃には姉も少し乗り気になっていて、作戦決行のXデーも決まりました。

作戦の大まかな流れはこうです。私が彼を誘惑し、彼の本命になる。その間、姉は気付かないふり。そして決行日、私が彼を拘束し、姉が彼の目の前に現れる。彼は本命の女に裏切られ、舐めきっていた女に出し抜かれたことになる。金銭の要求をしたり痛ぶったりする気はありませんでした。相手のプライドに傷をつけられたら、それだけでよかったんです。


作戦決行の日まで、私達は綿密に準備をしました。無線トランシーバーと結束バンドを買いました。

ケータイがあるのに何故無線を買うのか、と疑問に思うかもしれませんが、理由はその方がワクワクするからというだけです。お金は、彼の家から私がこっそり盗み、それを使いました。


決行当日。私は彼の住む賃貸マンションに行きました。家から持参した睡眠薬をコーヒーに混ぜ、彼に飲ませました。彼が寝たところで、結束バンドを使い手足を縛りました。無線で姉に連絡し、私は退室しました。姉が彼と話をつけ、すべて終わったら無線で私を呼ぶことになっていました。


しかし、私の無線は一向に鳴りません。

姉が部屋に入ってからかなりの時間が経ち、さすがに心配になった私が部屋に入ると、彼が血を流して倒れていました。その上に重なるように、姉も血を流して倒れていました。何が起きているのか一切理解できませんでした。二人の小指を繋いでいる結束バンドの意味も、姉の頬にまだ乾ききらずに残った涙の意味も私には分からなかった。

机の上に手紙がありました。手紙の文字は間違いなく姉のものでした。

「ごめんなさい。私は復讐する気なんてなかった。彼と一緒に眠りたかっただけ。それを大好きな早紀に演出してほしかった。本当にごめんなさい」


姉が死んでもう3年になります。

私の無線はまだ鳴りません。

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