スーパーロング(短短編)
鍵がかかっている。千鶴子は屋上に行こうとしていた。しかし、扉は閉まっていた。千鶴子は笑う。
一何がおかしいんだ。
後ろから声がする。声の主は、千鶴子の副担任の本田だ。
一いや、何でもないです。
一もしかして、死のうとしているのか?
千鶴子は驚く。そして、うなずいてしまう。千鶴子は今日、高校の卒業式の日に、屋上から飛び降りて死ぬつもりだった。なぜかというと、努力せず、何でもできてしまう自分の性質に嫌気がさしていたからだ。
一そうか。そうだなぁ、じゃあ、四月一日。その日の 十時。学校の正門の前に来い。
千鶴子はうなずく。
四月一日、十時。千鶴子は少し緊張して待っている。そこへ、本田が来る。
一お待たせ。じゃあ、行こうか。
本田が歩き出す。千鶴子は本田と離れないよう、小走りになる。
一ここだ。
千鶴子は、一面に咲く菜の花に目を奪われる。ここは、学校からそんなに離れていなかった。だけど、千鶴子は知らなかった。
一どうだ。きれいだろう。
一きれい。
一俺はな、この花々を見ていると、幸せになれるんだ。でな、来年も見られるように、頑張ろうと思う。
二人はしばらくそこにいた。
一じゃあ、帰るか。
一もう少しいたい。
一おっ。お前もこの景色を好きになってくれたみたいだな。
一うん。好きになっちゃった。先生のこと。
一お前…。俺、結婚しているんだ。だから、お前の気持ちには応えられない。
千鶴子は嬉しかった。生きる理由を見つけた気がした。
一じゃあ、四月の間だけ、ここで会ってくれませんか?
本田は困ったような顔をしたが、了解する。
それから二人は、頻繁に会った。
四月三十日。
一先生、今日までありがとうございました。
千鶴子は本田に最高の笑顔を向けて言う。すると、本田が千鶴子を抱きしめる。
一好きだ。
千鶴子は抱きしめられて温かいはずなのに、どこか冷えていくように感じる。
一先生、さようなら。
千鶴子は一人帰路につく。千鶴子は失った。
千鶴子は駅のホームにいる。ホームの端ギリギリに立っている。まもなく電車が来るというアナウンスが流れる。遠くの方から迫って来るのを感じる。
一危ない!
千鶴子は肩をつかまれ、白線の内側にひきこまれた。千鶴子のスーパーロングの髪が風になびく。千鶴子を助けたのは、見ず知らずの男だった。
一何しているんだ!
一指輪している…。