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仄暗い背景シリーズ

先立つ後悔の話

作者: 望月 暁生

初回掲載 2011/03/26


 




 愛していると言ってくれ——






 あの娘は私を好いてくれている。

 そして私はその子のそれ以上にあの娘を思っているつもりだ……


 この両通じの情に恵まれることは幸運極まりないこと。この期に及んで不平を唱えるつもりは無いが、私はこの幸運に恵まれたと同時に破滅の未来に取り囲まれたのだ。


 確実に訪れる別れの日……刻々と近づくそれを前に、私はあの娘に触れたくて堪らない。

 触れてしまえば余計に別れが辛くなり、離れがたいが故に更なる融合を望むだろう。境界なく交ざり合い、溢れる情欲に溺れたいと願うだろう……


 そんな私の願いや苦悩を知ってか知らずか……あの娘は日に日に憂いでは私を狂わす。

 ことある事に世話を焼き、何かにつけて寄り添って……私の不安や悩みや望みは何かと、汲み取る仕草が愛おしい。

 そうして私を掻き立てて……余計に淵へと追い回し、悩ませる。





 ようやくそのような日々もとうとう明日で終わりだと、人知れず大切な約束事を取り決めたばかりの静かな夜……

 あの娘が突然私の部屋に訪れる。いくら戻るように言い聞かせても一向に言うことを利かないものだから……業を煮やして問いつめると、涙を浮かべて責められた。


 その顔は、女のそれであった——


 悩みと不安、慾と葛藤、正義と驕りと猜疑心——


 全てを吹き飛ばすほどの衝撃で空っぽになった私の心に、泣き啜りながら必死に語る……女の思いがとくとくと流れ込む。


 踏む込む一歩手前で身動きできずにいる身体。

 これ以上なにも言ってくれるなと背けながら、抑制しきれない思いに言葉を詰まらせて、目で語るのは己の弱さの現れか——



(言ってくれ、その先の願いを私に……)



 忍ぶようにゆったりと動かす唇から望む言葉を手に入れた私は、明日の朝には堪えきれない悲痛に見舞われて、生涯において後悔し続けることを知りながら……その娘に施す艶事が受け渡される僥倖に目眩く。


 私は既に知っている。幸福とは、本来 苦しいものなのだ——








 自分の行いを後で悔やむことなんてザラにある。そんな中、先立って後悔を予想(感じ取り)しながらも実行してしまう時も……稀に、ある。


 事が済んでから悔やんでも取り返しがつかないコトが「後悔先に立たず」なら、事を起こす前にコレをこのまま実行したら後悔するのだろうな(むしろ確実に、行うべきでは無かったと思う日が来る)と見定めながらも遂行するのが「先立つ後悔」なのかもしれない。


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